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【完結済み】真の聖女は今日も厨房でお菓子を作る。~嫁入り(という名の追放)先で溺愛されてますので、今更『帰ってこい』と言われても…返事は『NO!』です~  作者: 夜桜海伊
影薄幸薄令嬢だったけど、嫁入り(という名の追放)先で溺愛されてますので、今更『帰ってこい』と言われても…返事は『NO!』です!
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2,過去告白のジャスミンティ―


コンコンコンと三回ノックして、了承を得てからドアを開ける。


「…お前か」

『名前はお前ではありませんよ』

「…ティアレシア・シャティだろ」


この人も私の名前覚えてる…!


私がよほどびっくりとした顔をしていたのだろう。レイヴァ様は苦笑すると「名前ぐらい覚えている」と言った。


「それで、何をしにきた」


『お菓子をあげます。お礼です』


「…ありがとう」


『上手にできました』と書いて、袋に包まれた小さな焼き菓子を渡す。レイヴァ様が袋の中のお菓子を興味深そうに見て、「本当に作ったのか?」と聞いてきた。失礼な。


『ちゃんと作りました!お菓子を作るぐらいしか趣味は作れなかったもので!』


とむきになってサララッと書いて、レイヴァ様に見せる。




「…宝石を見るなど趣味を作ればよかったではないか」


『私には宝石のよさが分かりません』


「…そうか。それより、その見えづらそうな前髪、どうしたんだ。切ればよいのに」


前髪を指さされる。確かに、これは凄く見えずらい。私に長い前髪にして目を隠せという謎の命令をしてきたリリィはもう周りにいないし、もう切ろうかな…。



『義妹に命令されたので前髪を伸ばしました』と思わず書いて、レイヴァ様に見せようとしてしまったが、リリアーヌにもし伝えられちゃったらどんな目に合うか分からない…!と考えて、ペンでピーッと文字を消して、『気分で前髪を伸ばしました』と書きなおした。


「…趣味であるお菓子が作りづらくなるのに、お前はそういう気分になれるのか?」


ぐうの音も出ない。『気分で前髪を伸ばしました』っていう説明はダメだ…!


ぐぬぬ…と説明を考えていると、レイヴァ様が口を開いた。



「義妹か」


思わずビクッとなる。震えながら、急いで『違います!』と書いたけれど、レイヴァ様の仮面からうっすら見える瞳は、確信を示していた。


「なぜそんなに義妹を怖がる」


…怖がっているのもバレたか。もはや隠せまい、と諦めて、紙に書いた。



……書かなくても隠し通せたかもしれない。だけど、なぜか、レイヴァ様には、真実を言いたくなった。…なぜだろうか。



『虐げられていたので。実の親は死んでしまい、シャティ公爵家は義母が支配していたので、義妹を止める人もいませんでした。長い前髪も義妹義母の命令です。声が出せないのも、義妹が』


義妹が、リリアーヌが。声を出せない理由も書こうとして、手が震える。ようやく書けた文字は、ミミズが踊っているようだった。




『  メ  イ   ド に  私の  料理  に毒を  盛れ と言っている   声を聞いてしまって、声を  経由  して毒殺 されそうに  なって   声を出す ことが 怖く なり ました』


説明足らずの文面だったと思う。だけどレイヴァ様は察してくれたのか、「そうか」とだけ言って、震える私に紅茶を渡してくれた。




あのとき、リリアーヌの「毒を盛れ」という声を経由して、私は殺されそうになった。そう思うと、声がとても恐ろしくなって、殺人兵器のように思えて、声を出すことが出来なくなった。




あのとき、すごく、怖かった。メイドの分かりました、と答えた声も、リリアーヌの高笑いの声も、全部、怖かった。




怖くて、恐ろしくて、声を出せなくなった。





渡された紅茶を落ち着かせるようにゆっくりと飲む。豊潤な香りがいっぱいに広がる。―――これは、ジャスミンティ―かな…。




「…無理に話させてしまって、申し訳ない」


『いえ、大丈夫です。こちらこそ、取り乱してしまって申し訳ありません』


いきなり謝られたので、急いで紙に大丈夫だ、と書く。




「…お前が過去を話してくれたのだから、俺も少しだけ過去を話そう」


話さなくても良いです、と紙に書きながらも、少しだけレイヴァ様の過去が気になった。




そんな私の様子を感じ取ったのだろう、レイヴァ様は過去を話すために口を開いた。もの悲しそうに。辛い物語を話す前のように。





「―――俺は嫌われていた」



ジャスミンティ―のいい香りは、何も知らずに漂った。



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