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【完結済み】真の聖女は今日も厨房でお菓子を作る。~嫁入り(という名の追放)先で溺愛されてますので、今更『帰ってこい』と言われても…返事は『NO!』です~  作者: 夜桜海伊
影薄幸薄令嬢だったけど、嫁入り(という名の追放)先で溺愛されてますので、今更『帰ってこい』と言われても…返事は『NO!』です!
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1,断罪後のプチ・フィナンシェ

フワフワのケーキ。サクサクのクッキー。しっとりさくっとしたマカロン。甘~いクリーム。


そんな素敵で可愛らしいお菓子は、名前も存在も忘れ去られてしまうほど影薄で、くじ引きすれば百パーセント外れの幸薄で、白銀の長い前髪の間からチラチラ見える特徴のない藍の瞳の、実の親は死に、義妹義母に虐められる生活を送り、喋ることが出来ないので筆談で会話する、なんとも不幸な私、ティアレシア・シャティの唯一の楽しみである。


そんなお菓子大好きな影薄幸薄な私は今―――――。


「ティアレシア・シャティ!お前との婚約を破棄し、俺はお前の義妹のリリアーヌ・シャティと婚約する!」


―――見ての通り、断罪されてます☆


「シリウスぅ…。私、ずっと怖くてぇ…」

「あぁ、大丈夫だよ、リリィ。私がこの女の罪を全て曝け出すからね。怖がらないで…」

「う、うん!」

イチャラブ劇場はそこら辺で…。さっさと意味わからない罪の断罪終わらせて!そろそろテーブルに置いてあるお菓子の誘惑に耐えられなくなってきたから…!


―――それでもなお、イチャラブしている二人に嫌気がさして、常に携帯しているノートとペンを出して、『早く罪とやらを発表してください(怒)』と怒りの顔文字付きで書いて、イチャラブしている二人にノートを突き付けた。


「あ、あぁ。えーと、取り巻きを引き連れてリリィを虐めた」

そもそも、自虐発言になりますが、友達いません…常にボッチですが…。


『証拠はあるのですか?』

「お、お義姉様!言い逃れするつもりですか…?罪を、認めてください…!これ以上は…」

そのまま泣き出してしまうリリアーヌ。証拠あるの?って紙に書いて聞いただけなのに。ていうかウソ泣きだよね…。


「あぁリリィ…。安心してくれ。大丈夫だ。私がいるからな…」

『早くしてください(怒)』

と書かれたページを再度見せる。


「わ、分かっている!えー、リリィの悪口を広めた。あとー、リリィのドレスを取り巻きたちに破かせた」

――もう、いちいち書いて返事をするのが馬鹿馬鹿しくなってきた…。お菓子のことを考えて黙っていると、王太子殿下は何を勘違いしたか、勝ち誇ったような顔になった。


「えー、そんな悪女なお前にいい話がある。隣国のアーシュラン王国のレイヴァ王へ嫁ぐのだ!…本来ならばリリィが嫁ぐはずだったが、美しいリリィには醜い王には似合わないからな。お前が前髪を伸ばすのは醜い顔をみられたくないからだろう!年も同じくらいだしな!年も容姿も釣り合っている夫婦どうし、仲良くするがよい!」

…アーシュラン王国の、レイヴァ王。醜いだろう容姿を隠すため、仮面をつけている、と噂で聞いたことがある。


…目的は、醜い王に嫁いだ、私の不幸な姿を見ることだと思うけど…。


私にとって、そのお話はご褒美でしかないのだ。


だって、アーシュラン王国って―――。



―――お菓子の聖地、だもの!


お菓子の原材料も豊富に取れ、お菓子のレシピも常に新しいものが出回り、世のお菓子のほとんどがアーシュラン王国で考案されたとも言われているのよ…!


その、アーシュラン王国に、行けるの?


きっと、今まで影薄幸薄でひっそりと暮らしてきたから、神様が恵んでくださったのよ…!

ありがたやーありがたやー。はしゃいでしまいそうな体をぐっとこらえさせて、緩みそうになる表情筋を必死に止める。


『ありがとうございます』と紙に思わず書いてから、ペンでシャシャシャッと消して、『分かりました』と書いて、リリアーヌたちに見せた。


リリアーヌたちは、悔しそうな、苦虫をかみつぶしたような、表情になっていた。…きっと、私が嘆く姿を期待していたのだろう。期待通りにならずに申し訳ない―――――なんて思ってないけどね。


「で、では、未来永劫この国の地を踏むなよ!」

『分かりました』と書いたページを再度、素早く見せる。


…また悔しそうな顔をしてるけど、その話もご褒美でしかないから!だって、虐める義母義妹にも、会わなくていいし、大嫌いな見下してくる王族にも会わなくていいのよ⁉わーいわーいと踊りだしそう…。今日は初めてのハッピーデーかも…!



「ちっ―――…お義姉様…お義姉様は私のことを嫌っていたかと思うけど、私は、お義姉様の事、お慕いしておりました」

一瞬リリアーヌの被ってる猫が外れてた…。舌打ちしてたよ、絶対!


…まぁ、これからアーシュラン王国に嫁いで、未来永劫この地を踏まない私には、リリアーヌが猫を被ってようが、本性がいつかバレてしまおうが、もう関係ない!



…またもやリリアーヌと王太子殿下のイチャラブ劇場が始まった。…断罪は終わりって解釈するからね!後になって怒るとかやめてね…。私は、そそくさとその場から離れて、お菓子のテーブルに直行した。


「リリィ…君は優しいな」

「シリウス―――あのことを言わないと」

「あぁ、そうか!」


…どうやら、二人にはまだ言うことがあったらしい。だけどその時には既に、私はテーブルの上のお菓子に手を伸ばしていた。

手を止めることはせずに、そっと小さいフィナンシェを手に取る。挨拶もそっちのけに、食事をするのは本来はとても目立つ行為だが、影薄なので、認識されにくい。だから目立たたない、イコール他人の目を気にせずにお菓子を食べれる…!あぁ、なんてお得な影薄体質!



「――――リリアーヌ・シャティであることが判明した!」

…お菓子に夢中で途中からしか聞こえなかった。なにがリリアーヌだって判明したんだろう?それは、周りの人々のヒソヒソ声を聞くと分かった。


「まさか、聖女がリリアーヌ様だったなんて…!」

「よく見ると分かるけど、瞳がセシリアブルーになってるわ」

「聖女の証のセシリアブルーの瞳をリリアーヌ様は持っているのだから、聖女は絶対にリリアーヌ様よ…」

「聖女が見つかってよかったわ…。前の聖女様が残した結界とか、壊れちゃうかもしれなかったしね。聖女のリリィ様に結界を補強してもらったら、また安心して暮らせるわ」


なるほど、このリンフィー王国の聖女に、リリアーヌがなっていたことが判明したのか。確かに、リリアーヌの瞳は聖女の証であるセシリアブルーになっている。

…聖女の結界がないと、リンフィー王国が魔物とかにやられちゃうし…。前聖女が残した結界もそろそろ消える直前だったし、リリアーヌが結界を新しく張り、人々を安心させることでリリアーヌの名誉と価値はぐんと上がるのだ。本性は毒蛇なのにね。


その毒蛇リリアーヌから離れて、お菓子の聖地のアーシュラン王国に行けるんだから、行くまでの日々が楽しみ…!私のテンションはぐっと上がった。



***

私の冤罪の断罪と婚約破棄、リリアーヌが聖女であることが発表された出来事が起きたパーティーの日からはや数日。私は夢のアーシュラン王国に着いて、夫であるレイヴァ・デ・アーシュラン様と対面をしていた。


「俺に夫らしい行動を求めないことだな」

そう言い放って、仮面越しに私を睨むレイヴァ様の顔…というか仮面を見る。装飾はシンプルだけど、見るからに高そうな仮面だ。あの仮面一枚で何個お菓子が買えるだろうか…。


――と考えてしまう思考をストップさせ、レイヴァ様の言葉にコクリと頷く。


「…不満ではないのか。それとも、醜い俺に夫の振る舞いなどしてほしくないか?」

『不満ではないです。私にも妻らしい行動を期待しないでくださいね』

と携帯しているノートに書いて見せる。


「喋れないのか?」

『はい』と書いて見せる。


「…そうか。この城にいてもつまらないだろう。最初で最後の贈り物をしてやる。何が良い?」

『最新設備の厨房とお菓子の材料』

でかでかと書いてみせてから、貰う側なのだから、もう少し丁寧にした方が良いだろうと思い、語尾に『が欲しいです』と小さく付け加えて、また見せた。


「そうか、厨房は新たに作るか?」

『もともとお城にある厨房で大丈夫です。早く作りたいので』

「分かった、他の女と違って変な奴だな…」

『お菓子が好きなので、この国に来れると聞いた時、嬉しかったです』

「なら、この国を堪能するがいい。ここはいい国だから」

『はい、勿論です!』

と書いた。


「長旅疲れただろう。部屋で休むとよい」

そう言われたので、レイヴァ様と別れて、侍従に案内されて着いた部屋は、公爵家のものよりも立派な部屋だった。

椅子がフカフカすぎてビックリして、埋まりそうになった。




お部屋を探索してから、暇になったので部屋を出て、外で控えていたメイドの一人に、『厨房に行ってお菓子を作りたいです』と書いて、見せた。すると、「分かりました、ティアレシア様。ついてきてくださいね」と言って案内してくれた。影薄な私の名前を覚えていたのか…!びっくりだ。



***

広い…!いい匂いがする…!綺麗…!

念願の厨房を夢中になって見ていると、メイドさんにお礼をまだ言ってなかったことに気付いた。


『案内してくれてありがとうございます!』

と書いてメイドさんに見せる。


「…いえ、それが私の役目ですので。必要な材料は書いてお渡しください」

と言われたので、紙に必要な材料を書いてから破いて、メイドさんに渡す。


そして五分後には、全ての材料が用意された。またもやびっくりだ。





……出来た~!公爵家の厨房より断然使いやすかったから、いっぱい作れた~!しかも一発で成功できたし、材料の質も段違い!アーシュラン王国来てよかった~!


メイドさん――名前をイリアと言うらしい――と出来たお菓子をモグモグ食べて、美味しい…と堪能していると、イリアが恐る恐ると言った具合に、口を開いた。

「…レイヴァ様にもおすそ分けしてはいかがでしょうか。ティアレシア様ならあの方もきっと…」

…形だけの夫婦になるのに、あげる必要あるのかしら?


――でも、厨房も材料も用意してもらったしね…。おすそ分けしてあげようっと。



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