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淡々三国演義  作者: ンバ
第十三回 李傕と郭汜大いに兵を交え、楊奉と董承双で駕を救う
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二、反間の計

 さて一方、山東の平定を終えた曹操、朝廷に一連の経緯を上奏して、建徳《けんとく》将軍、及び費《ひ》亭侯の地位を加えられていた。


 この当時、李傕《りかく》が自ら大司馬、郭汜《かくし》が自ら大将軍となりて何者にも憚らずに横暴を働いており、朝廷において恨み言を吐かぬ者はいなかった。


 太尉の楊彪《ようひょう》、そして大司農の朱儁《しゅしゅん》が、秘密裏に献帝に上奏するには、


「現在、曹操が二十余万の兵と謀臣武将数十人を擁しております。この者を得て社稷の補佐に当てれば、邪な者どもを除き去る事がかない、天下は幸甚と申せましょう」


 献帝は涙を流して、


「朕はあの二賊から辱められて久しい。もし奴らを誅戮できたならば、それは大いなる幸いである」


 楊彪、


「それがしに一計がございます。まず李傕と郭汜を相争わせ、然るのちに詔で曹操を招き、奴らを殺してしまうのです。賊徒が払い清められ、朝廷は安寧となる事でしょう」


 献帝、


「あの二人に同士討ちをさせるのか。それはどんな手じゃ?」


 楊彪、


「聞けば、郭汜の妻は非常に嫉妬深い性格であるとか。人を郭汜の妻のもとへ遣り、離間の計を仕掛ければ、二賊は揃って自滅するでしょう」


 帝はそこで密詔を楊彪に与え、楊彪は即座に自身の妻を他事に託けて郭汜の府へと向かわせた。かくて、人のいぬ間を見計らい、郭汜の妻へ言うよう、


「ここだけのお話なのですが……聞けば、郭将軍は李司馬(李傕)の夫人に思いを寄せており、その関係は甚だ密であるとのことですわ。司馬がこの事を知られたら、郭将軍は必ずや害に見舞われましょう。あなたから関係を絶つよう、言って聞かせてあげてくださいまし」


 郭汜の妻は怪訝な表情で、


「最近、あの人が他の所へ泊まって帰って来ないので、怪しいと思っておりましたが……、まさか、そんな筈知らずな事をしていたなんて!! あなたが教えてくださらなければ、妾は知らないままでした。慎んで、対策に奔走いたしますわ」


 楊彪の妻が別れを告げると、郭汜の妻は幾度も拝謝して別れた。


 数日が過ぎ、郭汜が李傕の府で開かれる宴会に足を運ぼうとした折、妻は言った。


「李傕は胎の内で何を考えているかわかりませんわ。況してや今は両雄の並び立たぬご時世でしょう。もし彼が酒盛りの最中に毒でも盛ったら、どうなさるの⁉︎」


 郭汜は聞き入れようとしなかったが、再三に渡って妻が止めるので、遂に諦めた。


 夜になると、李傕が人を遣って宴席で振る舞われた料理を送ってきたので、郭汜の妻はそこでこっそり料理に毒を混ぜた上で初めて郭汜に献じた。


 郭汜がすぐに手を付けようとすると、妻は言った。


「外からの食事をすぐさま食べようとするのはおよしなさいよ」


 そこでまず、犬に与えてこれを試そうとしたところ、犬は立ち所に死んでしまった。これ以来、郭汜の心に李傕への疑念が生じたのである。


 ある日、朝廷の仕事を終えてから、李傕が郭汜を無理に自宅の宴会へと招いた。夜に至って散会となり、郭汜は酔っ払って帰って来たのであるが、そこで偶然の腹痛に見舞われた。


 妻は、


「毒を盛られたのだわ! 李傕の仕業に間違いない!!」


 と言うや、急ぎ糞汁を郭汜に飲ませ、一通り吐瀉させた所、腹の痛みは収まった。


 郭汜は大いに怒って、


「俺は李傕と共に大事を図ってきたというのに、今、故なく俺を害そうとするのか!! 先に手を打たねば、必ずや毒手に冒されよう」


 かくて、密かに手勢に武装をさせ、李傕を攻めようとしたが、これが人の手で電撃的に李傕の耳へと伝わり、李傕の方もまた激怒して言った。


「※郭亞多《かくあた》め! よくもこのような真似を!!」


(※郭汜の幼名は亞多)


 こうして李傕の方でも秘密裏に精鋭が派兵され、郭汜のもとへ押し寄せた。かくて城下で乱戦巻き起こり、いずれの兵もどさくさに紛れて人民から掠奪を行う有様であった。


 李傕の甥の李暹《りせん》は兵を率いて宮廷の院を囲み、車二輌の一方に天子、一方に伏皇后を乗せると、賈詡《かく》と左霊《されい》に車駕の先導を任せ、その他の官人・従者らはみな徒歩で、強制的に連行された。


 後宰門から抜け出した際にちょうど郭汜軍が到来し、滅多矢鱈に放たれた矢によって、数え切れぬほどの宮人が斃れていった。


 直後、李傕軍に追い捲られて郭汜が兵を退いた隙に、車駕は危険を冒して脱出を試みたが、結局は李傕の陣営に拿捕されてしまった。


 郭汜の方は兵を整えて宮廷へ突入すると、宮嬪や采女《うねめ》の盡《ことごと》くを引っ立て、宮殿にあろうことか火を放ったのである。


 明くる日、郭汜は李傕が天子を拐かした事を知ると、軍勢を纏めて陣前までやって来て戦いを挑んできた。帝も皇后も、これにはただ、驚懼されるばかりであった。


 後世の者がこの出来事を悲歎して作った詩にこうある。


 光武、漢の世を中興され

 上下相承け、十二帝。


 桓・霊、無道にて宗社は墮《くず》れ、

 閹臣、権を擅《ほしいまま》にして叔季と為る。


 無謀なる何進《かしん》、三公と作《な》り、

 社鼠を除かんと欲して奸雄を招く。


 豺獺《さいそ》驅れりと雖も虎狼入りて

 西州の逆豎《ぎゃくじゅ》、淫凶を生ず。


 王允《おういん》、赤心にて紅粉《こうふん》を托《たく》し、

 董・呂をして矛盾を成すに至らせしめる。


 渠魁《きょかい》殄滅《てんめつ》して天下寧(やす)らかなれど、

 誰ぞ知る、李・郭が心に憤りを懐くを。


 神州の荊棘《けいきょく》、如何にして争わん、

 六宮饑饉となり、干戈を愁《うれ》う。


 人心、既に離れて天命は去り、

 英雄、割拠して山河を分かたん。


 後の王、此れを規《はか》りて兢業《きょうぎょう》を存《たも》ち、

 金甌把りて等《なおざり》に閒缺させず。


 生霊、糜爛《びらん》して肝脳塗れ、

 剩水、残山に怨みの血多し。


 我、遺史を観て悲しみに勝《た》えず、

 今古、茫茫と黍離を歎ず。


 人君、当《まさ》に守るべし、苞桑《ほうそう》の戒め、

 太阿《たいあ》、誰が持ちて綱維《こうい》を全うせんや?

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