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淡々三国演義  作者: ンバ
第十一回 劉皇叔北海に孔融を救い、呂温侯濮陽に曹操を破る
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三、玄徳軍徐州へ

 孔融は劉備を城へ迎え入れ、挨拶を述べると、大規模な宴席を設えて慶賀する一方、糜竺を引き出して劉備と見えさせた。劉備は、張闓が曹嵩を殺害した事件について具に聞くと、


「陶恭祖どのは仁人君子であらせられるのに、不意に無辜むこの咎に見舞われる事になるとは」


 孔融が言う、


「玄徳どのは漢の宗室に当たるお方でありますからには、曹操が百姓を残害し、強きを恃んで弱きを虐げておる今、わしと共に徐州の救援に向かっては貰えますまいか」


 劉備、


「私が敢えてその事を言い出せないのは、兵も将も少なく、軽挙を躊躇われるからなのでございます」


「わしが陶恭祖どのを救いたいと考えているのは、彼との旧交もさる事ながら、大義の為でもあるのです。貴公に義心がないものとは到底思えませぬが」


「さすれば、文挙どの(孔融)に先行していただきたい。私は、公孫瓚どのの所に向かって三千から五千の兵馬を借り、然る後にすぐ徐州へ向かいます」


 孔融の眉がつり上がり、


「玄徳どの、信じてよろしいのでしょうな」


「貴公は、この劉備を如何なる人間と考えておいでか。聖人の言葉にあります、『古より、皆死有り。人、信なくば立たず』と。私は、軍勢を借りられようとも、借りられなくとも、必ずや参ります」


 胎の決まった孔融は、糜竺を先に徐州へ帰して報せるとともに、ただちに軍を動かした。


 太史慈は拝謝して、


「それがしは母の命を奉りて助太刀に参りましたが、こうして幸いにも事なきを得られました。実は、揚州ようしゅう刺史の劉繇りゅうようどのとそれがしは同郡の出で、此度招聘の書状がございまして、どうしても捨て置く事はできませぬ。ご縁がございますれば、またお会いいたしましょう」


 孔融は報酬として金や帛を与えようとしたが、太史慈は受け取らずに帰って行った。そして、母親に見えると、


「お前が北海さまに御恩返しをしてくれて、私は本当に嬉しいよ」


 と喜び、かくて太史慈を揚州へと遣わしたのであった。


 さて、孔融が兵を挙げる一方で、劉備は北海を離れて公孫瓚こうそんさんに見え、徐州を救援する旨を告げていた。


 公孫瓚は言った。


「曹操と君に遺恨はないではないか。どうして誰かの為に苦労を背負い込もうとするのだ」


 劉備、


「私は既に人と約束を交わしましたからには、信義を失うような真似は出来ません」


 公孫瓚は笑って、


「わかった。君に歩兵二千を貸そう。それでいかがか」


「ありがとうございます。それと、可能であれば……」


「まだ何かあるのかね」


趙子龍ちょうしりゅうをお貸しいただきたいのです」


 公孫瓚はこれも許諾し、かくて劉備・関羽・張飛は本来の手勢三千を率いて前衛に、趙雲ちょううんが公孫瓚より借り受けた二千を率いてその後方に従う形で、一行は徐州へ馬を走らせた。


 さて、糜竺は一足先に徐州へ舞い戻り、北海太守の孔融と、更に要請を受けた劉備が援軍を出した次第を陶謙に報せていた。


 一方の陳登も、青州の田楷が援軍を快く引き受け、兵を率いて加勢に向かっているとの報を告げ、陶謙はようやく落ち着きを取り戻していた。


 が、孔融と田楷でんかいの両軍は曹操軍の勢いに恐れをなしており、遥か離れた山間に駐屯して、軽々しく進軍する事が出来ずにいた。


 曹操は二路から援軍が至ったと見て軍勢を二手に分けたが、こちらもまた積極的に城を攻撃しようとはしてこなかった。


 やがて、劉備の兵団も到着し、孔融に見えた。孔融が、


「曹操の兵力は思った以上に凄まじいぞ。曹操自身もまた用兵に長けておるから、軽々しく戦う事はできぬ。いったんその動静を観察し、然るのちに進軍いたそう」


 と述べると、劉備は言った。


「恐らく、城中にはもうろくに食糧が残っておりますまい、故に、久しく持ち堪える事は難しいでしょう。雲長うんちょう子龍しりゅうに四千を与え、貴公の部下の補佐に回します。私が翼徳よくとくとともに曹操の陣営へ切り込みをかけ、徐州城へ参って陶府君と話し合って参りましょう」


 孔融は大いに喜び、田楷とともに犄角きかくの勢──挟み撃ちの態勢を為した。関羽と趙雲は兵を統領して北海・青州両軍の援護に回った。


 この日、劉備は張飛とともに一千人の人馬を率いて曹操軍へ切り込みを掛けた。


 突き進む最中、砦内に一声の鼓動ありて、騎兵歩兵が浪の如くに押し寄せてきた。兵馬を擁する陣頭の大将は──これぞ于禁うきんである。馬を勒えて喝破一声、


「何処におるか、痴れ者どもめ! 于文則が相手になるぞ」


 これを見た張飛、言葉も発さず于禁に打ちかかる。両馬が相交わり数合も打ち合う折、劉備が双股剣をき、兵に指図して大進してきたため、于禁はたまらず敗走した。


 張飛が先頭を駆けて追撃し、勢いのまま劉備らは徐州の城下へと至った。


 城の上からは、白字で「平原劉玄徳」と大きく書かれた紅の旗が望見でき、陶謙は即座に開門を命じて劉備が入城させた。


 陶謙は劉備を迎接して共に役所へと向かい、挨拶を終えると、酒宴を設けて一同を労った。


 陶謙は劉備の人となりが優れ、言動が闊達である様を見て心中大いに喜び、ただちに糜竺に命じて徐州牧の印綬いんじゅを持って来させると、その位を劉備に譲りたいと言い出した。


 劉備は愕然として、


「貴公はどういうおつもりなのです!?」


 陶謙は述べた。


「今は天下が擾乱じょうらんし、王の綱紀も振るわぬ有様。貴公は漢の宗室であり、まさに社稷しゃしょくを補佐するに相応しいお方でござる。この老ぼれは歳ばかり無駄に食って能もなく、徐州の長官を譲りたいと考えておったのです。玄徳どの、辞退する事なかれ。わしは直ぐにでも上奏文を奉り、朝廷にその由をご報告仕ろう」


 劉備は席を離れて再拝し、


「私は漢の苗裔びょうえいとは申せど、功績、徳ともに薄く、平原へいげんの相ですらも恐れ多く、似つかわしくないと考えておったのです。今、こうして大義のために加勢に参りましたが、貴公から斯様なお言葉がお出になるとは。私が、徐州を併呑しようとしているのではと、お疑いになられたのですか。もしそのような気持ちを抱かば、皇天は私に罰を加えましょう」


「いや、この老夫の嘘偽りない気持ちにございます。どうかお受けくだされ」


 再三にわたって陶謙は徐州牧の地位を譲ろうとするも、劉備は頑として肯じない。そこで糜竺が進言して、


「今は、敵兵が城下に臨んでおります。まずは敵を退ける為の策を協議し、事態が収まってから、改めて譲位されてはいかがです」


 劉備、


「私が曹操に書状を遣わし、和睦を勧めましょう。曹操が従わなかった場合、その時は合戦になりましょうが、和を請うてからでも遅くはありますまい」


 劉備はこうして、三つの砦に兵を勒えて妄りに動かぬよう命を出し、人を遣わして曹操のもとへ書状を届けさせたのである。

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