一、張宝の妖術
〜この回から登場する人物〜
・劉協(伯和)181〜234
霊帝の次子。後漢の献帝。
・孫堅(文台)155〜191
揚州呉郡富春県の人。江東の虎と謳われる剛将。
・袁紹(本初)?〜202
豫州汝南郡汝陽県の人。四世代に渡って三公を輩出した名門の出身。
・公孫瓚(伯珪)?〜199
幽州遼西郡令支県の人。劉備の学友。「白馬義従」という精鋭部隊を従える。
・劉虞(伯安)?〜193
徐州東海郡郯県の人。後漢の宗室。幽州で人望を集める。
・荀攸(公達)157〜212
豫州潁川郡潁陰県の人。後に曹操の幕僚となる外柔内剛の士。
さて、董卓の字は仲潁、隴西郡の臨洮県の人である。官職は河東太守であったが、もとより驕慢な人物であり、この時に当たって劉備を軽侮する態度を取ったため、張飛の逆鱗に触れ、たちまちに命の危機に晒されていた。
劉備と関羽は急ぎ張飛を取り押さえ、
「よさぬか翼徳! 朝廷の任命した官吏を殺したとあっては、刑死は免れられんぞ!」
張飛、
「あのくそ野郎をぶっ殺さにゃ、奴の部下として働かなきゃならねえじゃねぇか。そんなの俺はごめんだぜ! 兄貴たちはここにいてくれ、俺一人でもやってやる!」
劉備、
「我ら三人、生死をともにすると誓った間柄ではないか! どうしてお前だけを行かせられよう。さぁ、三人で戻ろう」
「わかったよ……。屈辱を受けても、三人で分け合えば少しは晴れるってもんだよな」
こうして三兄弟は軍を引き連れる事連夜にして朱儁に身を投じた。朱儁は劉備らを厚くもてなすと、兵を一箇所に集めて張宝の討伐に乗り出した。
この時曹操は皇甫嵩の張梁討伐に従軍しており、曲陽にて賊軍と大いに干戈を交えていた。この間に朱儁は進軍して張宝を攻撃、張宝は黄巾党八〜九万を率いて山地の後方へ駐屯した。
朱儁は劉備に先鋒を命じて賊軍と相対させた。張宝が副将の高昇を遣って戦いを挑んでくると、劉備は張飛に迎え撃たせた。馬を駆り、蛇矛を手に襲い来る張飛を前にして、数合と持たずに高昇は刺し貫かれ、馬から生命感なく崩れ落ちた。劉備麾下の軍はかくて前進、当たるを幸いに賊軍を薙ぎ倒していった。
張宝は馬上に就くと髪を振り乱して剣を手に取り、妖術を用いた。見やれば大挙せし風雷、突如として巻き起こった黒気が天より降り注ぐ。黒気は人馬を象り、際限なく殺到して来た。劉備もこれには慌てて軍を回す他なく、軍中は大いに乱れ、陣形は崩壊した。
帰陣した劉備は朱儁と対策を協議した。
朱儁、
「張宝は妖術まで使うのか……。猪と羊と狗の血を準備させて、兵士を山頭に潜ませよう。賊が追ってきたら、高所からこれを浴びせれば破れるだろう」
劉備は命を受け、関羽・張飛とともにそれぞれ兵一千を率いて山中の高き丘陵の上に埋伏、猪・羊・豚の血といった穢れた物を揃え、準備を整えた。