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淡々三国演義  作者: ンバ
第九回 暴凶を除きて呂布司徒を助け、長安を犯して李傕賈詡に聴く
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五、謀士、賈詡

 さて、逃亡した李傕・郭汜・張済・樊稠は陝西に居し、使者を長安へ送って赦免を願い出ていた。


 王允の言、


「董卓の跋扈は、すべて彼ら四人の助力あってのもの。今天下に大赦があったとて、あの四人だけは赦しておけぬ」


 結局、使者は取りつく島もなく李傕らのもとへ追い返されてしまった。


 李傕、


「赦してもらえそうにないか。こうなれば、各自逃げ出すべきだろうか……」


 そこで、謀士の賈詡かくが進言した。


「諸君がもし軍を放棄して単独で行かば、則ちたった一人の亭長であろうと君を捕縛する事が出来る。本部の軍馬を併せて長安へ殺奔すれば、董卓の讎に報いられよう。成功すれば、朝廷を奉りて天下を正す事ができる。失敗したら、その時にまた改めて逃げても遅くはない」


 李傕らは賈詡の論説も尤もだと考え、かくて西涼一帯へ流言した。「王允が、西涼方面の者たちを一掃しようと企てている」と。


 衆人が皆恐慌すると、李傕らはそこで再度揚言した。


「徒らに死ぬのも益無きこと。我々とともに反乱を起こそうではないか!」


 当然の如く、人々は従軍を願い出た。こうして十余万の軍勢が集まり、彼らは四路に分かれて長安へと殺到したのであった。


 道すがら、「丈人の讎に報いん」と五千の手勢を引き連れてきた、董卓の娘婿の牛輔ぎゅうほも加わり、李傕は即座に兵を併せて彼を先鋒に任じた。かくて李傕ら四将、続々と進発したのである。


 王允は西涼兵の来攻を聞き、呂布と商議した。


 かくて呂布の言うよう、


「王司徒、安心めされよ。やつらのような鼠輩などは恐るるに足りん」


 かくて呂布は李粛を引き連れ、兵を率いて出陣した。李粛は先鋒として西涼軍を迎え撃ち、牛輔と正面衝突、その一陣へ殺奔すると、抵抗に遭い進めなくなった牛輔は陣を放棄して逃げ去った。


 しかし、この勝利が李粛に慢心を齎した。思いもかけぬ当夜の二更、牛輔は李粛の油断に乗じて竟にその砦へ強襲を敢行したのである。李粛の軍勢は潰乱、軍士は鼠竄し、三十余里も敗走して軍勢の大半を失う醜態であった。


 李粛はやっとの事で逃げ帰り呂布と見えたが、怒声が飛んだ。


「油断から大敗を招くとは嘆かわしい。なぜ我が軍の鋭気を挫くような真似をする!」


 とうとう李粛は斬られてしまい、その首は軍門に懸けられた。


 明くる日、今度は呂布が兵を進めて牛輔と交戦した。が、牛輔にどうして呂布の相手が務まろう。やはり大敗を喫して逃げ去っていった。


 その夜、牛輔が腹心の胡赤児こせきじを指呼して商議して言うよう、


「呂布の驍勇の前にはたとい一万人いたところで歯が立つまい。こうなれば、李傕ら四人の事は見捨ててしまおう。こっそり金珠を収め、近親の数人を連れてここを脱出するぞ」


 牛輔があっさりと李傕達を切る算段を立てると、胡赤児もこれに応じた。かくて牛輔は当夜に金銀財宝を収拾すると、陣営を放棄して逃走、三、四人が随行した。


 しかし、牛輔が一条の河を渡ろうとしたところで、財宝を独占しようと目論んだ胡赤児が牛輔を殺してしまった。そして更に、その首を呂布に献じてきたのである。


 呂布がわけを訊ねれば、胡赤児が金品に目が眩んで牛輔を謀殺した次第が明らかとなり、怒った呂布は即座に胡赤児の素っ首を叩き落としてしまった。


 かくて軍を纏めて前進すると、李傕の軍馬とばったり遭遇した。呂布は他の陣列から突出し、疾く戟を振るって赤兎を躍らせ、麾下の軍勢も真っ直ぐに突き進んだ。


 李傕軍は抵抗し得ず、五十余里も敗走して山の麓の砦へ依った。しかし敗れはしたものの、李傕の胎に秘策あり。郭汜、張済、樊稠へ協議を要請して述べるよう、


「呂布は勇猛とは申せど無謀であり、憂慮には足りぬ。私が軍を引き連れて任谷口を守り、呂布に誘いをかける。郭将軍は手勢を率いて背後からやつを撃つのだ。彭越ほうえつが、楚の法を乱したかようにな。銅鑼が鳴れば出撃、太鼓が鳴れば撤退せよ。張公と樊公は、私と郭将軍が呂布を引き付けているうち、兵を二手に分けて長安へ向かえ。あちらの首と尾が連携できぬようにすれば、大勝は必然と言える」


 郭汜らは李傕の計に頷いた。


 さて、兵をおさえて山の麓へ至った呂布は、李傕と激突した。呂布の忿怒は当たるを幸いに敵を薙ぎ倒し、敗走した李傕は山へ登った。山上からは矢石が雨の如くに降り注ぎ、呂布の軍をそれ以上進ませはしない。


 そこへ忽ちに、「郭汜軍が陣後方から殺奔してきた」との報せが齎され、呂布は慌てて旋回する。しかし、聞こえてくるのは太鼓の激唱のみで、郭汜は既に撤退した後であった。


 呂布が軍勢を整えようとしたそこへ、今度は銅鑼の音声響き渡り、李傕軍が迫ってきた。敵に対する備えも纏まらぬうち、背後からはまたもや郭汜軍が大挙、呂布が至れば雷鼓によって退却し、呂布が離れれば銅鑼によって出撃する。一連のいたちごっこが幾日も続き、呂布の胸中には怒気が満ち満ちた。戦おうとしても戦えず、止めようとしても止められず、いつしか呂布は完全なる袋小路に陥ってしまっていたのである。


 懊悩と恚怒のなか、呂布のもとへ怱卒と報告の早馬がやって来た。聞けば、張済と樊稠の両軍が、竟に長安を侵犯し、京城が危急に陥っているとの事である。


 呂布は急いで軍勢を返したが、李傕と郭汜がこの機を見逃す筈もなく、両軍が呂布の背後へどっと押し寄せた。呂布の軍勢は戦意を喪失しており、ただ多くの人馬が奔走し、薙ぎ倒されていく様を顧みる事となった。


 這う這うの体で長安の城下へ至れば、賊兵が雲霞の如くに集い、堀を囲んでいる。呂布軍は疲労困憊の身を引きずって交戦したが、勝利を得られる筈もなく──いつしか軍士達は呂布の暴戻を恐れて、多くは賊側に降伏してしまった。


 呂布の心に、暗い影が差していた。

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