三、先鋒孫堅
曹操は公孫瓚の一軍及び劉備三兄弟を手厚くもてなした。諸侯とその軍勢もまた一堂に会し、それぞれの張った幕営は実に二百里余りに連なった。
かくて諸侯へ曹操から牛馬の肉が振る舞われ、進軍の策を協議する大規模な会議が催された。
河内太守の王匡が口火を切る。
「今、大義を奉じようとするからには、盟主を立てて各々命令に従う事を承知させる必要があろう。進軍するのはその後だ」
曹操が言う。
「袁家は四世三公、門下には多くの故吏を抱えており、袁本初は漢王朝の名宰相の末裔に当たる。盟主とするにふさわしかろう」
袁紹は再三に渡って断ったが、
「本初どのでなければ不可能である」
との皆々の懇願を受け、ついに応じた。
明くる日、三層に渡る台が築かれ、五方向に遍く旗指物が列ねられ、その上に※白旄黄鉞が建てられた。
(※ 黃鉞は天子が親征の際に用いる斧。白旄は犛牛の尾から成る白旗。周の武王が殷を打倒した際に用いた)
兵には符、将には印。登壇を請われた袁紹は衣を整えて剣を佩き、慨然と台へと上ると、香を焚いて再拝──盟約を述べた。
「漢室から幸いは去り、皇綱の統制は失われた。賊臣董卓は釁隙に乗じて欲しいままに害を為し、至尊に禍を加え、百姓を虐げている。身共は社稷が瓦解する事を懼れ、義兵を糾合し、国難に揃って赴いたものである。およそ我らが同盟は、戮力同心して臣下の礼節を尽くし、二心など生じようのないもの。この盟約を違える事あらば、その命を落とし、後裔は絶える事になろう。皇天后土よ! 祖宗明霊よ! どうかご照覧あれ!!」
宣誓を終えると、袁紹は血を歃った。居合わせた者たちはその立派な言辞に慷慨し、揃って流涕した。
袁紹が壇から下りると、諸侯は寄り添って帳へと升らせ、上席へと座らせた。各々も爵位や年齢に従って列を分けて座る席を定めていった。
やがて宴会が始められ、酒が数巡した頃に曹操が述べた。
「盟主も既に決まりました。各々その命を奉じ、国家の救済の為に志を一つとし、強弱や功績を比べあう事の無いようにいたしましょう」
袁紹が言う。
「私は不才といえども、こうして公らの推薦を受けて盟主となったからには、功績があれば必ず賞し、罪過があれば必ず罰する。軍にはきちんとした規律を設けるので、各々遵守され、違犯する事の無きように」
諸侯は声を揃えて述べた。
「ただご命令に従います」
袁紹が続けて、
「兵糧の監督については、我が弟の袁術に任せる。各軍営の需要に応じて、欠乏させる事の無いように励め。そして、どなたかの一部隊に、先駆けて汜水関へ直接切り込んでいただきたい。それ以外の部隊は険峻要地に拠り、応変の対処をお願いしたい」
そこで、長沙太守の孫堅が罷り出た。
「どうか私に先鋒をお命じください」
袁紹喜び、
「うむ。勇烈なる孫文台ならば、適任であろう!」
孫堅はかくて手勢を引き連れ汜水関へと殺奔──関の守将は早馬を飛ばして洛陽の相国府へ急を告げた。




