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淡々三国演義  作者: ンバ
第一回 桃園に宴し三豪傑義を結び、黄巾を斬りて英雄功を立てる
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四、桃園の誓い

 檄文を目の当たりにした劉備が慨然として深い嘆息を漏らしていると、その後方にしたがっていた一人の男が声を荒立てた。


「大丈夫たる者が国家のために力を尽くさず、どうして溜息なぞついているのだ!」


 劉備が振り返って声の主を見れば、身長は八尺(約193センチ)、豹のような頭に丸い瞳、燕のように張った顎に虎のような髭を生やし、声は大きな稲妻、勢いは荒馬の如し。劉備はその容貌が非凡であることを鑑みて、男に名前を問うたところ、


「俺様は、姓はちょう、名は、※字は翼徳よくとく! 先祖代々涿郡に住み、家には田畑があるぞッ! 酒を売り、ぶたの屠殺を生業として、天下の豪傑と進んでよしみを結んでおるのだ。あんたは今、立て札の檄文をちらりと見ただけで嘆いていたが、どうしてだか気になってな」


(※正史では張飛の字は益徳えきとくとある)


挿絵(By みてみん)


 劉備答えて、


「私は漢の宗室で、姓は劉、名を備と申す。聞けば今は黄巾族が声高に理想を唱え、世を乱しておるとか。私は賊を打ち破り、民を安んずることを志してはいるのだが、いかんせん力が足りぬ。故に嘆息していたのだ」


「俺は資財ならたらふく持っているぜ? 郷土から勇士を募って、あんたと一緒に大事を成し遂げたいと思うんだが、どうだい?」


 張飛の申し出に劉備は大層喜び、かくして彼とともに入村し、店内で酒を飲んだ。


 劉備と張飛が酒を飲んでいる折、一人の大男が現れた。車を一(りょう)押して店の玄関先へと至った男は、入店して座に就くや喚呼して、


「美酒を一献持って来てくれい。それがしはこれから城へと向かい、義勇軍へ身を投じようとしておるのだ」


 劉備が男を眺めてみれば、身長は9尺(約217センチ)、ひげの長さは2尺(48センチ)、顔はくすべた棗の如く、唇は脂を塗ったかの如し、威風堂々たるその姿。


 劉備が姓名を問うた所、男は答えて、


「それがし、姓はかん、名を、字を※寿長じゅちょう、後に雲長うんちょう河東かとう解良(かいりょう)県の生まれにござる。本籍地において豪勇では並ぶ者なく、殺人を犯して江湖こうこへと逃れてから五、六年になり申す。今しがた聞いたところによれば、此処では賊を撃ち破る為の軍勢を招致しておるとかで、応じようとやって参った次第にござる」


(※正史では、関羽のもとの字は長生ちょうせい。三国志集解(しっかい)では范長生はんちょうせいとの被りを避けて改名したものとしている)


挿絵(By みてみん)


 劉備がかくて己が志を告げると、※関羽は大いに喜んだ。張飛も意気軒高に寄ってきて、三人は共に大事について語り合った。


(※原文では関公または雲長とあるが、以降「関羽」と表記する)


 張飛が、


「俺の荘園の後方には桃園とうえんがあるのだが、まさしく今は花真っ盛り。明日になったらその桃園にて、我ら三人兄弟の契りを結び、協力して心を一つにし、しかる後に大事を図ろうという旨を天地に報告しようではないか」


 と提案すれば、劉備・関羽はともに応じた。


「そのように致そう。なんと素晴らしき考えか!」


 明くる日、桃園に於いて黒毛の牛や白馬といった祭礼物の準備を整えると、三人の英雄は香を焚き、再拝して誓いを立てた。


「劉備、関羽、張飛は、姓名を違えてはいるが、ここに兄弟の契りを結び、すなわち、心を一つにして力を合わせ、困窮する者を救い、上は国家に報い、下は民を安んず。同年同月同日に生まれることを得ずとも、願わくば同年同月同日に死せんことを。皇天后土よ、我々の心を鑑みよ。義に背き、恩を忘れることあらば、天人ともにこれを戮す」


 宣誓を終えると、劉備が長兄、関羽が次兄、張飛が弟と為された。天地を祭祀し、生贄の牛を捧げて酒を設え、同郷の勇士を募ると、三百人余りが劉備三兄弟のもとに参集した。


 桃園にて酒を浴びるほど飲んだ後、劉備たちは軍用品を回収したが、ただ惜しいかな、乗る馬を持っていなかった。


 どうしたものかと沈思していると、夥しい馬群を伴った二人の客人がやって来た──との報せが齎された。


 劉備は「天佑我にあり!」と叫び、二弟とともに即刻彼らを応接した。聞けば彼らは中山ちゅうざんの豪商、名を張世平ちょうせいへい蘇双そそうといった。毎年北方へ馬の行商へ出ていたものの、近年は賊が発生して回帰せざるを得なかったのだという。


 劉備は両名を桃園に招いて酒を振る舞うと、賊を討伐して民を安んじたいという微志を伝えた。張世平と蘇双は大いに喜び、劉備たちに良馬五十頭、金銀五百両、鑌鐵(磨かれた鉄)一千斤を融通してくれた。


 劉備は深く感謝の意を告げて二人と別れ、直ちに職人に命じて雌雄一対の双股剣そうこけんを造らせた。


 関羽は青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを造らせた。──またの名を冷豔鋸れいえんきょ、※重さ八十二斤の業物である。


(※約22キロ、明代の度量衡に準えると48キロ)


 張飛は一丈八尺(434センチ)の點鋼てんこうの矛を造らせた。


 それぞれ全身を鎧で固め、郷里の勇士五百人余りとともに校尉の鄒靖すうせいに見えた。鄒靖は劉備らを太守の劉焉りゅうえんに引見させた。三兄弟が見参して名乗りを上げると、劉焉は劉備が漢の宗族であると知っていたく喜び、かくて劉備を甥と認めたものである。

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