七、大いなる邂逅
さて、城外へと逃れた曹操は、根拠地の譙郡へと馬を飛ばしていた。が、その途上の中牟県にて関所の衛士に捕えられ、県令の前に引っ立てられてしまった。
曹操は、
「私は行商人の皇甫と申します」
と偽って述べたが、県令は曹操の顔をまじまじと眺め、しばしの沈吟のあとこう言った。
「私は以前、士官のために洛陽へ滞在していた事があるが、そこで曹操、そなたの姿を見かけたぞ? 名前を偽ったところでどうしようもなかったな。このまま牢へとぶち込み、明日になったら洛陽へ送って恩賞に与る事としよう」
県令は曹操を捕えた衛士に酒食を賜ると、退出していった。
夜の帳が下りると、県令は近侍者に命じて曹操を牢屋から堂奥の私室へと連れて来させ、かくの如くに問うた。
「私は、そなたが相国から格別の待遇を受けていたと聞いていたが、どうしてまた自ら禍の道を選ぼうとしたのだ?」
「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや! 小人には私の気持ちはわかるまい。貴様はこの私を召し捕ったのだ、さっさと洛陽へ送って褒賞を受け取るがいい」
県令は左右の者を退がらせて、
「見くびってくれるな、私はそこらの木っ端役人とは違う。いまだ真の盟主には巡り会えておらぬと感じておるのだから」
「私の家は漢室の禄を食んできた。もし国家への報恩を思わずにおれば、禽獣と何が異なろう。私が身を屈めて董卓に仕えておったのは、やつの隙を窺い、国家の害毒を取り除かんと思ったまでの事。今、事が成就しなかったのは、それはすなわち天意なのだ!」
曹操の言辞に県令は瞠目する。
「孟徳、ここから出たとして、どこへ行こうというのだ?」
「私は郷里へ戻り、檄文を発して天下の諸侯を召し、ともに董卓を討伐するつもりでいる。それが、私の大願だ」
県令は感じ入り、そこで自ら曹操の縄を解いて上座へ座らせると、再拝して述べた。
「貴公こそは、まさに天下の忠義の士だ!!」
曹操もまた再拝して姓名を問うと、彼は答えた。
「私は姓は陳、名は宮、字は公台。老母、妻子はみな東郡におる。今、こうして貴公の忠義に感銘を受けたからには、官職を棄ててともに逃げようと思うのだが」
喜び勇んだ曹操は、早速陳宮と計を練った。
かくてこの夜、陳宮は旅費を回収し、曹操は衣服を替え、それぞれに剣を一本背負いつつ、馬に乗って中牟県から根拠地へと走ったのである。




