十二、虎狼と虎狼
明くる日、呂布が丁原の首級を持参して李粛のもとに現れた。李粛はかくて呂布を董卓に引き合わせ、董卓は宴席を設えてこれをもてなした。
董卓はまず呂布に跪き、こう述べた。
「わしがこうして将軍を得た事は、旱魃の大地に甘露の降るかのごとくじゃ。よくぞ来てくれた!」
呂布は董卓の座に拝礼して、
「もし公さえよろしければ、この呂布の義父となっていただきたく存じます」
かくて董卓と呂布の間で親子の契りが交わされた。董卓は呂布に金の鎧と綿の戦袍を下賜し、大いに酒を飲み交わした。
董卓の威勢は呂布を幕下に加えた事でますます強まり、自らは前将軍の事業を統括するようになり、弟の董旻を左将軍兼鄠侯に、呂布を騎都尉及び中郎将兼都亭侯に封じ、その他息のかかった人物を次々と高官に任じていった。
朝廷にもはや董卓に太刀打ちできる者はいない。腹心・李儒は一刻も早くに帝を廃立するよう董卓に説いた。
後日、董卓は再び宮中にて宴席を設え百官を招いた。呂布及び武装兵千人余りが董卓の周囲を固めており、宴席と呼ぶには余りにも異様な雰囲気のなか、太傳の袁隗以下文武百官が揃って至った。
かくて宴が始められ、前回同様に酒が数巡してから董卓は本題を切り出すと同時に、抜剣して周囲を脅し付けた。
「今のお上は暗愚にして惰弱、宗廟を奉じる事など出来ぬ! わしは伊尹と霍光の故事に倣い、帝を廃立して弘農王とし、新たに陳留王を即位させようと思う! さぁ、異議のある者は前に出よ、皆殺しにしてくれようぞ!!」
群臣は震え上がり、誰も反論する事が出来ない。この様子に業を煮やした袁紹が、とうとう身を乗り出して言い放った。
「主上は即位してより日が浅く、過失などは一つもない! 貴様は嫡子である陛下を廃立して庶子を立てようとしているが、それこそ国家に対する反逆ではないのか!!」
対する董卓は怒声をあげて、
「天下は既に我が手中にある! 今、わしが為そうとしている事に、一体誰が逆らえよう!? 袁紹よ、貴様は我が剣の切れ味を身を以て知りたいと見えるな」
袁紹もまた抜剣して叫んだ。
「貴様の剣がいかに鋭かろうと、我が剣の鋭さには及ぶまい!!」
董卓と袁紹、席上にて睨み合い。一触即発。
ああ、丁原まさに義に拠りどころに命を落とし、袁紹もまた董卓と切っ先を争い、未曾有の危機に陥らんとしている。
果たして、袁紹の運命やいかに。
それでは、また次回。
─第三回、おわり─




