三、宦官掃滅
一方、何進がなかなか戻ってこない事を不審に思った袁紹は、そこで宮門の外から大声で呼ばわった。
「大将軍、お戻りくださいませ!!」
程なくして門壁の上から首が降ってきた。袁紹と曹操が駆け寄りてみれば、これぞまさしく大将軍何進の首級。張譲らは更に門の奥より説諭を宣う。
「謀反人の何進は已に討ち取ったぞ。やつに脅されて付き従っていた者ども、汝らは特別に赦免してやろう。降伏せよ」
諸将は狼狽したが、袁紹は敢然と叫んだ。
「大将軍が宦官どもに討ち取られたぞ! 悪党どもを誅せんとする者は前に出よ! この袁紹に続くのだ!!」
そこで何進の部将の呉匡が青瑣門から火を放ち、袁術が兵を引き連れて宮廷へ突入してきた。宦官と見れば大小の区別なく盡くが殺され、宮内は血風で朱に染まった。
袁紹と曹操も次々と斬り倒して入殿し、翠花樓の前まで追い詰められた趙忠・程曠・夏惲・郭勝は無惨な肉塊へと変えられた。宮中に放たれた炎は天をも焦がさんばかりに燃え上がり、窮地に陥った張讓・段珪・曹節・侯覧は、何太后と太子劉弁、陳留王の劉協を無理矢理に連行して北門へと逃れた。
一方、官職を棄てた盧植はいまだ洛陽におり、宮中にて変事が起こるであろう事を見越して、武装した上で高殿の下に待機していたのであるが、眺めやれば、すわ段珪が何太后を押さえ付けて連れ出そうとしている。
「逆賊段珪! 太后に狼藉を働くか!!」
盧植の怒声に怯んだ段珪は直ちに身を翻して逃走、太后は窓から階下へと飛び移り、盧植によって保護された。
呉匡の一団もまた宦官を薙ぎ倒して宮室の中庭まで到達、そこで何進の弟の何苗が剣を提げて脱出しようとしているのを見て大喝した。
「何苗は宦官と共謀して兄である大将軍を害した! 謀反人として処刑する!」
諸将も声を揃えて、
「兄殺しの賊を討て!!」
と述べ、なおも逃れようとする何苗を取り囲み、ばらばらに切り刻んでしまった。
袁紹は兵士たちに十常侍を家族もろとも皆殺しにするように命じ、該当者は老若男女に区別なく盡くが殺された。この時、「髭が生えていない」という理由で、宦官と間違えて殺された者もかなりの数にのぼったという。
曹操は一方で宮中の鎮火に当たり、何太后に一時的に政を代行するように請願すると、兵を遣って張譲を追わせ、少帝と陳留王を取り戻そうとしていた。




