二、何進の最期
張譲らは外部からの兵団が至ったと聞くと協議して、
「これは何進の謀略だ。こちらから先手を打たねば、族滅されてしまうぞ」
そこで十常侍は長楽宮の嘉徳門の内に武装兵五十人を潜ませ、入宮して何太后へ告げた。
「今、大将軍が詔勅を偽装して外部から洛陽へ兵を呼び寄せ、我々を殲滅しようとしています。どうか娘娘様、我々をお救いくださいませ」
何太后、
「そなたらが直接大将軍に詫びればよいではないか」
「もし相府まで直接出向けば、我々は血も骨も残らず木っ端微塵にされてしまいます。どうか娘娘様から大将軍をお諌めくださいますよう! お聞き届けいただけませぬならば、今すぐこの場で我々に死をお命じください!」
太后はかくて詔勅を下して何進に参内を促した。何進が直ちに向かおうとすると、主簿の陳琳がこれを諫めて、
「この太后からの詔は、間違いなく十常侍が裏で糸を引いています。決して参内してはなりませぬ! 必ずや禍が至りますぞ」
何進は笑って、
「それこそ小童の見解と申すものよ。わしは天下の権勢を掌握しておるのだ、十常侍が待ち構えていたとて一体何ができよう!」
そのやり取りを傍らで見ていた袁紹が申し出る。
「どうしても向かわれますか。ならば、我々が武装兵を率いて公を護衛し、不測の事態に備えましょう」
こうして、袁紹と曹操はそれぞれ選り抜いた精鋭五百を袁紹の弟・袁術に命じて頭領させた。袁術は全身を武装で固めると、兵を引き連れて青瑣門の外に陣を構えた。
袁紹と曹操は帯剣して何進を長楽宮の前まで護送したが、そこへ黄門の傳懿がやって来て、
「太后は大将軍お一人を召しておいでで、他の者は長楽宮に立ち入らせるなとの事です」
として護衛の者達を入殿を阻んだ。なお食い下がる袁紹と曹操を制して何進は昂然と立ち入り、嘉徳殿の門前へと至ったが、そこへ張讓と段珪が現れ左右にぴたりと付き添った。狼狽する何進を、張譲は激しい口調で詰り立て、
「董太后は一体なんの罪があって毒殺されねばならなかったのだ! 国母の葬儀にも病と称して参列しなかったな。もともと貴様は肉屋の小人、我らが天子に推薦したがために現在の栄華があるというのに、恩を返すどころか害を為そうとするとは! 貴様は我々の事を『腐り切っている』と抜かしたが、粛清が必要なのは果たしてどちらの方かな?」
恐懼した何進は慌てて引き返そうとしたが、宮門は盡く封鎖されてしまっていた。埋伏していた兵士達がこの機に一斉に飛び出し、あわれ何進は叩き斬られて真っ二つ。
後世の人がこの事件を歎いた詩にこうある。
漢室傾危し天数を終え、
無謀なる何進三公と作さん。
幾番忠臣の諫めを聴かず、
宮中にて剣峰受くを免れ難し。




