十三、何太后対董太后
明くる日、何太后の命により何進は録尚書事を加えられ、付き従ったその他大臣も皆官職に封じられた。
董太后は張譲を招いて相談を持ちかけた。
「何進の妹は私が推挙してやったのに、今や嬰児を皇帝位に即け、内外の幕僚を腹心で固めて権威を縦にしています。どうにかならないものですか」
張譲は述べた。
「太后様が垂簾政治をなさるというのは如何でしょう。劉協様を王の位に即け、国舅の董重さまを重役に任じて軍権を掌握させ、更に我々を重用していただければ、大事を図る事も可能かと」
董太后は大いに喜び、かくて翌日、自ら詔勅を下して皇子劉協を陳留王に、董重を驃騎将軍に任命して、張譲らとともに朝政を執る事を内外に告げた。
何太后は董太后が権力を独占しようとしている事を鑑み、宮中に宴席を設えて董太后を招いた。宴も酣となった頃に何太后は身を起こし、董太后の盃に酒を注ぐと、再拝して述べた。
「我々は婦人の身、本来朝政に参画すべきではありませんわ。かつて呂后(劉邦の夫人・呂雉)が権威を掌握した際、宗族の千口は皆誅戮を被りました。我々は奥御殿に引っ込んで、朝廷の大事は大臣や元老にお任せすればよいではありませんか。これこそ国家の幸いですわ」
董太后は激怒して、
「そなたは嫉妬に駆られて王美人を毒殺したではないですか。今となっては自分の子を帝位に即け、兄何進の威を借りておきながら……ふざけた事を抜かすのも大概にしておきなさいよ。言っておきますが、私が驃騎将軍に勅願すれば、そなたの兄の首など掌を返すかの如くに容易く飛ばせるのですよ!?」
何太后もまた怒り、
「私はあなたの為を考えて勧めておりますのに、何ですか! その言い草は!?」
「卑しい肉屋の小娘ふぜいが! そなたに何がわかるというのか!!」
そこからは両太后面罵の応酬となったが、見兼ねた張譲らの仲裁を受けて、ともに自室へと戻って行った。
何太后が連夜に渡ってこの時の事を何進に告げ口したので、何進は三公を召し寄せて協議の場を設け、翌朝に廷臣を遣わして上奏文を奉じさせた。
「董太后は元を正せば藩臣の妃であり、久しく宮中に居らせるべき人物ではない。すぐにでも太后の地位を剥奪し、縁故の地の河間に遷して国門から追放すべきである」
かくて人を遣って董太后を護送させ、一方で禁軍に驃騎将軍董重の屋敷を攻囲させるとともに、将軍の印綬を返還するように迫った。董重はもはやこれまでと悟り、後堂にて自刎した。董家の親縁は挙って声をあげて哀しみ、軍士は四散した。
張譲と段珪は董太后の一門が零落した事を鑑み、かくて金銀宝石を何進の弟の何苗及びその母親の舞陽君に捧げて誼を結ばせた。何太后に抜け目なく媚を売った十常侍は、再び近臣として用いられるようになっていった。




