十二、愚かなり、何進
百官による万歳斉唱が終わると、袁紹は蹇碩を捕えんと宮中へ向かった。蹇碩は慌てて逃げ出し、庭園の花の陰に隠れたが、味方の筈の中常侍・郭勝の手によって殺され、蹇碩の領有していた禁軍は挙って袁紹に投降した。
「宦官どもは宮中にて結託しております。この際、勢いに乗じてやつらを皆殺しにしてしまいましょう」
との袁紹の提案を耳にした張譲たちは、慌てて何太后に危急を告げた。
「大将軍を亡き者にしようと謀ったのは、もともと蹇碩ただ一人にございまして、我々はかような企てなどに一切関与しておりませぬ! 今、大将軍が袁紹の言を容れて我々を根絶やしにしようとしておりますが、娘娘《皇后》様、どうか憐れみを!」
何太后は、
「心配する事はない、私がそなたらを救ってやろうぞ」
と述べ、聖旨によって何進を宮中に招き、密かにこう告げた。
「もともと我々は寒門の出です。張譲らの存在無くして今のような富貴に与る事はあり得なかったでしょう。不埒な企てを立てた蹇碩は既に誅殺されたというのに、どうして兄上は人の言葉に従って宦官を殲滅なさろうとするのかしら」
何進は妹の言を容れ、諸将に向かって、
「わしを害そうと謀ったのは蹇碩だ! やつの親族郎党を手打ちとし、その他の宦官には妄りに危害を加えぬように!!」
袁紹が言う。
「ここで禍根を絶ってしまわねば、後で必ずや御身が危険に晒されますぞ!?」
「わしの考えはすでに決まった、これ以上は何も申すな」
かくて何進は諸将に撤退を命じ、袁紹以下は渋々引き下がったのである。




