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淡々三国演義  作者: ンバ
第十七回 袁公路大いに七軍を起こし、曹孟徳三将と会合す
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四、窮余の一殺多生

 さて、曹操率いる十七万の軍勢が日に費やす糧秣は莫大なものであり、諸郡の荒廃と旱魃の影響で輸送が立ち行かなくなっていた。曹操は速戦でけりをつけようと考えたものの、李豊らは門を閉ざしたきり出てくる様子がない。


 相拒ぎ合う事一ヶ月余りで糧食がいよいよ尽きそうになったため、孫策に書状を与えて十万斛を借り受けるも、配給する前に散失してしまった。


 糧秣の管理官である任峻じんしゅんの部下で倉官の王垕おうこうが曹操に訴え出た。


「兵は多かれど糧秣は少なく、いかがなさいましょう」


 曹操、


「小さなますで分けて、ひとまず急場をしのぐのじゃ」


 王垕、


「兵士が恨みを抱いたら、どうされます」


 曹操、


「案ずるな、わしに秘策がある」


 王垕は命令の通り小さな枡で配分した。曹操が密かに人を使わして各幕営の様子を探らせると、皆が「丞相は我々を欺いている」と口々に騒ぎ立て、怨嗟せぬ者はない有様であった。


 曹操はそこで秘密裏に王垕を召し寄せると、こう言った。


「わしはそなたからある物を借りて皆の心を落ち着けたいと考えておるのじゃが……まさか、断ってくれるなよ」


 王垕は言う、


「一体わたくしの何をご所望なのですか」


 曹操、


「そなたの首を貰い受け、衆目に晒そうかと思うておる」


 王垕は大いに驚き、


「なんと⁉︎ わたくしは、罪に当たるような事は致しておりませぬ!」


「そなたに罪がない事はわしとて承知しておるとも。しかし、そなたを殺さねば軍が心変わりを起こすやもしれぬ……。そなたが死したのち、その妻子はわしが面倒を見るので、心配いたすな」


 王垕は再度何かを口にしようとしたが、曹操は早急に刀斧手を呼びつけて彼を門外へと引き摺り出し、一刀で斬り伏せた後その首を高竿に懸けてしまった。


 かくて立札を出し、〝王垕が小枡を用いるは密かに官糧を盗んでおったがため、軍法によって処断した〟と告示したので、こうして兵士たちの不満はやっと収まった。


 明日、曹操は各陣営の将卒に「三日以内に協力してかの城を落とせねば、皆斬罪とする」と伝令し、自ら城下へ出て諸郡の土石の運搬を監督して塹壕を埋め立てた。城の上から矢石が雨の如くに降り注ぐと、二名の裨将が恐れをなして回避しようとしたが、曹操は剣を掣いてこれを斬り、とうとう自ら下馬して穴埋めを手伝いだした。こうして将士は上から下まで退く事を考えなくなり、士気は大いに振るった。


 城内敵に抗し切れず、曹操の兵は先を争って城をのぼると、関鎖を切って落とし、大隊が一斉に突入──李豊・陳紀・楽就・梁剛はみな生捕りにされた。曹操は全員を市に於いて斬るように命じ、袁術虚栄の宮室殿宇・一通りの干犯の品を焼き払う。略奪を受けた寿春の城は、やがて一空の態となり果てた。


 商議して兵を進め淮水を渡り、袁術を追撃せんとするも、荀彧が諌めて言った。


「連年の旱魃により糧食が欠乏しております。もしさらに兵を進めたならば、軍は疲弊し民を損なう事になってしまい、まず何の利も得られますまい。一旦許都へと戻られ、来春に麦が熟して軍糧が充足するのを待ってからこれを図るべきかと存じます」


 曹操が躊躇い決を出せずにいた折、怱卒と早馬が至った。


張繍ちょうしゅう劉表りゅうひょうを頼り、再び欲しいままに猖獗しょうけつ(好ましくないものが勢いを盛り返す事)し、南陽なんようの諸県がまたも反いてしまいました。曹洪そうこうどのが敵を拒ぐも立ち行かずに敗北を重ねており、今こうして危急を告げに参ったものです」


 曹操はそこで馬を馳せて孫策に書簡を与え、長江に跨って布陣する事で劉表に疑心を抱かせ、妄りに動かぬように命じた。自身は即日撤兵して張繍討伐の事について議し、退陣に臨んで劉備には小沛しょうはいに駐屯して呂布と兄弟の契りを結び、互いに救援し合って再び相争う事のないよう命じた。


 呂布は兵を引き連れて自ずから徐州へと戻っていった。


 曹操は劉備に密かに言う、


「わしが貴公に小沛へ駐屯するように申したのは、すなわち〝穴を掘って虎を待ち受ける〟の計略じゃ。貴公は陳珪親子と話し合われ、取り逃す事のなきよう。わしは貴公の為、外部から救援いたそう」


 話し終えるや、両雄は別れたのであった。

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