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淡々三国演義  作者: ンバ
第十六回 呂奉先轅門に戟を射、曹孟徳師を淯水に拝す
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七、東方の鷹匠

 曹操が兵を許都へ帰還させた事はさておいて、王則おうそくは詔を徐州へと齎していた。呂布が彼を迎接して役府へ招き、開示された詔書を読むと、「呂布を封じて平東へいとう将軍と為し、特別に印綬を賜る」との旨。一方で王則は曹操からの私信を取り出して呂布の面前に晒し、「曹公が特別な敬意を示している」としきりに述べた。


 呂布が歓喜する折、俄かに袁術えんじゅつからの使者が至ったとの報せがあり、呂布は招き入れて目的を訊ねた。使者の言うよう、


「袁公は早晩にも皇帝位に即かれ、東宮を立てられます。皇妃を早くに淮南わいなんへ打ち立たせるよう、催促されてございます」


 呂布は激怒して、


「逆賊めが、敢えてこの様な事を仕出かそうというのか!」


 と言うや遂には使者を殺してしまい、韓胤かんいんを枷に嵌め、陳登ちんとうに感謝の意を告げる上表文を持たせて、韓胤を送り王則と同行させて許都へと上らせ、謝恩に来訪させる事とした。さらに曹操に返書を与え、正式な徐州牧の地位を要求した。


 曹操は呂布が袁術との婚姻を拒絶したと聞いて大いに喜び、かくて韓胤を市にて斬刑に処した。陳登が密かに曹操を諌めて言うよう、


「呂布は豺狼にございます。武勇はあれど知謀はなく、去就を軽んじるたちですから、早くにこれを図られるべきかと存じます」


 曹操は言う、


「吾には呂布がもとより野心を抱いた狼子であり、久しく養うのは困難である事はわかっておる。そちらの情勢について知り尽くしているのは貴公ら親子のみ。貴公よ、ここはわしとともに謀ってはもらえぬかね」


 陳登、


「丞相がもし動かれるとあれば、それがしが内応いたしましょう」


 曹操は大いに喜び、上表して陳珪ちんけいに中二千石の秩石を贈り、陳登を広陵こうりょう太守に任命した。


 陳登が辞去しようとすると、曹操はその手を取って述べた。


「東方の事はそなたに任せたぞ」


 陳登は點頭してしかと応諾し、徐州に戻って呂布と見えた。呂布が経緯を尋ねると、陳登は父の禄が増え、自らは太守に任命されたと告げた。呂布は怒って、


「お前は俺の為に徐州牧の地位を求めず、自分達の爵位や俸禄を求めたのか! お前の親父は、俺に曹公と共同して公路との婚儀を絶つように勧めたが、俺が求めたものは何一つ手に入らんではないか! 親子揃って重く取り立てられおって……お前たち、俺の事を売りおったな!!」


 とうとう抜剣して斬りかかろうとしたが、陳登は大笑して述べた。


「はっはっは。将軍がここまで愚かだとは思っておりませんでしたぞ」


「なにい⁉︎ なぜ俺が愚かなのだ!」


「それがしは曹公に見え、『将軍を待遇するのは例えるなら虎を養うようなもので、肉を当てがい、腹を満たさねばなりません。腹が空けば、即ち人を喰らうでしょう』と申しました。すると曹公は笑いながら仰いました、『貴公の言葉は間違っておるな。わしが温侯を待遇する事は例えるなら鷹を養うようなもので、狐や兎が残っておるうちは、不用意に餌を与える事はできぬ。敢えて餓えていれば用を為すが、満腹になれば飛び去ってしまうのだからな』それがしが『狐や兎とは誰のことですか』と問うと、曹公は、『淮南の袁術、江東こうとう孫策そんさく州の袁紹えんしょうけい州の劉表りゅうひょうえき州の劉璋りゅうしょう漢中かんちゅう張魯ちょうろ、これらは皆、狐や兎と申すものじゃ』と仰ったのです」


 そこまで聞くと呂布は剣を擲ち、


「なるほど、曹公は俺の事をよくよく承知しておられるのう」


 と述べて破顔した。さらに話を続ける所へ、俄かに袁術の軍勢が徐州に攻め寄せてきたとの報告があり、呂布は言葉を失った。


 まさに秦晋の好も相成る前に呉越の如くに争い起こり、めでたき婚姻却って兵難の火種を生む、というところ。


 はてさて、事の顛末如何様に。


 それはまた次回で。


 ──第十六回、おわり──

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