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淡々三国演義  作者: ンバ
第十五回 太史慈酣に小覇王と鬥い、孫伯符大いに厳白虎と戦う
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七、備え無きを攻め、その不意に出ず

 会稽太守の王朗おうろうは兵を率いて厳白虎を救援しようと考えていたのであるが、忽ちに一人が進み出て述べた。


「なりません。孫策は仁義の師団を用いておりますが、厳白虎などは暴虐の軍団でございます。反対に厳白虎を捕えて孫策に献じるべきです」


 王朗これを見れば、乃ち会稽余姚(よよう)の人、虞翻ぐはん、字を仲翔ちゅうしょう、この会稽の郡吏であった。王朗が彼を怒鳴りつけると、虞翻は長嘆して退出していった。


 王朗はかくて兵を率いて厳白虎と合流し、ともに山陰さんいんの平野に布陣した。両陣営相対すると、孫策が出馬して王朗に言った。


「俺が仁義の兵を興して浙江を安んじようとしているのに、貴様はどうして賊などの手助けをする!」


 王朗は面罵して、


「貴様の貪欲な心は飽き足りるということを知らぬのか!? 既に呉郡を得ながら、更に我が界域を強引に併呑しようとするとは。今日ここで厳氏の仇に報いてくれようぞ」


 孫策が大いに怒って打って出るよりも早くに太史慈が飛び出していた。王朗は馬に鞭入れ刀を踊らせ太史慈を相手取ったが、数合打ち合わぬに王朗の部将の周昕しゅうきんが助太刀に乗り出してきた。孫策の陣中からは黄蓋が馬を飛ばして踊り出で、周昕と鉾先を交える。


 高らかに打ち響いた陣太鼓の下、両軍は激戦を展開したが、出し抜けに王朗の陣の後方が乱れ、一団の兵馬が背後より迫ってきた。王朗大いに驚き、慌てて馬首を巡らせて迎撃に出れば、これぞ周瑜と程普による強襲部隊。前後から押し寄せる敵勢に王朗は衆寡敵せずと見て、厳白虎・周昕とともに血路を開いて城中へ逃げ去り、吊り橋を引き上げて城門を堅く閉ざしてしまった。


 孫策は大軍の勢いに乗じて城下へ押し寄せ、諸軍を四方に分けて攻撃に出た。城内の王朗は孫策の激烈な攻めを見て、再度兵を出して雌雄を決そうと考えたが、厳白虎が言った。


「孫策の兵の勢いは凄まじい。足下はただ溝を深くし砦を高くし、ひたすら守りに徹するべきだ。一ヶ月も経たぬうちに敵軍の兵糧は尽き自ずから退却していくであろうから、その虚に乗じてやつらを掩襲すれば、戦わずして敗れるのではないか」


 王朗はその提案に乗り、とうとう会稽を固く守って打って出ようとはしなかった。


 孫策は数日に渡って攻め続けるも成功せず、そこで諸将と合議した。孫静が言うよう、


「王朗は城を固守する腹づもりであり、すぐに抜く事は難しかろう。会稽の金銭糧秣の大半は查瀆さとくに蓄えられており、その地はここより数十里。まずはそこに據るに越したことはなかろう。所謂、その備えなきを攻め、その不意に出るというものじゃ」


 孫策は大喜びして言った。


「叔父上、それは妙計だ! これで賊どもを破る事ができる!」


 即座に命が下され、各門に火を点けて偽りに軍旗を打ち立てる事でさも兵がいるかのように見せかけ、当夜のうちに囲みを解いて南へと去る運びとなった。


 周瑜が進み出て言うよう、


「主公が大勢を一挙に起こさば、王朗は間違いなく城を出て追撃してくるであろう。奇兵を用いれば、これを破る事ができる」


 孫策は、


「俺もたった今その準備を済ませたところだ。今夜のうちに会稽は落とせるな」


 と述べ、かくて軍馬を打ち立たせたのである。


 さて、王朗は孫策の軍馬が撤退したと聞き、自ら衆人を引いて櫓の上から敵陣を観望したのであるが、城下には多くの篝火や煙が見え、旗指物も整然と並んでいたために疑心暗鬼に陥ってしまった。


 周昕が言うよう、


「孫策は本当に逃げ出したのですよ。わざわざこのような計を用いたのは我々を欺こうとしたに過ぎませぬ。兵を出して急襲するべきです」


 厳白虎が言うよう、


「孫策が立ち去ったのは、查瀆さとくを狙っているからではないか? わしが部兵に命を出し、周将軍とともに奴等を追おう!」


 王朗、


「查瀆こそは我らが食糧を集めておる所、是が非でも守らねばなるまい。汝らは兵を率いて先行されよ、わしも後から向かう」


 かくて厳白虎と周昕は五千の兵を率いて城から追撃に出た。初更の時刻に差し掛かろうとした頃、城から離れる事二十余里の地点で出し抜けに茂みから太鼓が鳴り響き、松明が一斉に輝きわたった。大いに驚いた厳白虎はすぐに馬を勒えて踵を返そうとしたが、一人の将が行手を阻んだ。火光の中に目を凝らせば、これぞ孫策である。


 周昕は刀を手に迎え撃ったが、孫策の槍に刺し貫かれ、余勢は皆投降した。厳白虎は血路を開き、余杭へと落ち延びていった。


 王朗は前軍が已に敗れたと聞くと、敢えて城へ戻ろうとは考えず、部下を引き連れて海隅の方へと逃げ去ってしまった。


 孫策は大軍を再び旋回させ、勢いに乗じて会稽の城池を取ると、人民の安撫につとめた。それから一日を隔てずして一人の男が孫策軍の前に現れ、厳白虎の首級を献じてきた。孫策が見れば、身長は八尺(193センチ)で、顔も口も大きな男である。その姓名を問えば、乃ち会稽余姚の人、董襲とうしゅう、字を元代げんだいといった。孫策は喜び、彼を別部司馬に任じた。


 こうして揚州の東方を全て平定すると、孫策は叔父の孫静に会稽を守らせ、朱治を呉軍太守に任じると、軍を収めて江東へ戻っていった。

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