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淡々三国演義  作者: ンバ
第十四回 曹孟徳駕を移して許都へ御幸させ、呂奉先夜に乗じて徐郡を襲う
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五、駆虎呑狼の計

 次の日、劉備は都へ帰還しようとする勅使を送り出す際に、恩徳に感謝する旨を上奏文に認めてこれに渡すとともに、曹操に対しては単に「ようように対処する」との返書を与えた。勅使は許都へ戻って曹操と見えると、劉備に呂布を殺す意志の無き事を告げた。


 曹操は荀彧に問うた。


「この計略が外れたとなると、どうすればよい」


 荀彧は言った。


「もう一つの計略がございます。名付けて《《驅虎吞狼の計》》──」


「それは、如何なる計であるか」


「人に命じて袁術の所まで密書を届け、劉備から『南郡を攻略したい』との上奏文が秘密裏に寄せられた、と報せてやるのです。袁術はこれを聞かば、間違いなく怒って劉備を攻撃いたしましょう。明公はそこで、劉備に袁術討伐の詔勅をお与えなさいませ。両雄が争えば、呂布に異心が生じるは必定──これぞ、『虎をり、狼を呑ましむる計』にございます」


 曹操は大いに喜び、すぐさま袁術のもとへ人を遣ると、続いて天子の詔と称して徐州への使者を発たせた。


 徐州の劉備は、勅使が至ったと聞くと城郭を出て迎接した。詔書を開いて読んだ所、兵を挙げて袁術を討て──との内容。劉備は拝命すると、使者を先んじて送り返した。


 麋竺びじくが言う。


「これも、やはり曹操の計略でしょうな……」


 劉備、


「計略といえど、王命を違えるわけにはゆかぬ」


 かくて軍馬が起こされ、期日を定めた上で出陣の準備が整えられた。


 孫乾そんけんが言う、


「まずは、城の留守を預かる者を決めておかねばなりますまい」


 劉備、


「二弟のうち、どちらかに守らせるべきか……」


 関羽、


「この城の守りは長弟にお任せください」


 劉備、


「そなたには早晩相談に乗って欲しいと考えておる。どうして離れられよう」


 張飛、


「だったら、この城の守りは次弟に任せてくんな!」


 劉備、


「そなたにはこの城を守り通せまい。一に、そなたは酒が入ると気が大きくなり、士卒を鞭で打とうとする。二に、そなたはやる事が軽率で、人の諌めに従わぬ。私は心配でならんぞ」


 張飛、


「俺が、今後酒を飲まず、兵士を鞭で打たず、広くみんなの諌めを聞けばいいんだろ?」


 麋竺、


「口と内心が伴わぬのではないかと、ただただ心配になりますな……」


 張飛は怒った。


「何だとぉ! 俺は兄貴に長年仕えてきたが、一度でも信用をなくすような事をしたかってんだ! お前は、どうして俺を軽んじるんだよ!」


 劉備、


「弟がここまで言っても、私はやはり心配で仕方がない。ここは、陳元龍ちんげんりゅうどのに翼徳の補佐をお願いいたしたい。弟が朝晩酒の量を抑え、失敗を致さぬように見張っておいてくだされ」


 陳登ちんとうが応諾すると、劉備は口を酸っぱくして張飛に禁則を言い付けた。それが終わると、かくて歩兵と騎馬三万を統率し、徐州を離れ南陽を目指して進発したのである。


 さて一方、袁術は劉備が此方の州郡を併呑しようとしていると聞いて、怒号をあげていた。


「彼奴め、むしろ織りやくつ編みの分際で大郡を占拠し、諸侯と同列に並ぼうというのか! ちょうどわしの方から出向いてぶち殺してやろうと思っておったが、反対にわしを図ろうとするとは……憎んでも憎みきれぬ!」


 かくて上将の紀霊きれいに十万の兵を率いさせ、徐州へと殺奔させた。両軍は盱眙くいにて行き当たったが、兵力が劣っている事を自覚した劉備は山地に依り、水辺に陣を構えた。


 この紀霊は山東さんとうの出身であり、重さ五十斤の三尖刀さんせんとうの使い手である。この日兵を引き連れて出馬した紀霊は、劉備を大罵する。


「劉備! 田舎者風情がしゃしゃり出て、我が境域を侵さんとするか!!」


 劉備は言う、


「私は天子の詔を奉じて、不忠の臣を討たんとする者。汝ら、敢えて抗おうとするのであれば、誅戮を免れ得ぬぞ!」


 激怒した紀霊は馬に鞭入れ、刀を舞い踊らせて劉備に直接打ち掛かってきた。そこへ関羽が大喝一声、


「匹夫め、強がりもそこまでにいたせ!!」


 出馬して紀霊と大いに戦い、打ち合うこと三十合に及んだが、勝負がつかない。


 紀霊が大声をあげて水入りを申し出ると、関羽はすぐに馬を叩いて帰陣した。


 しかし、紀霊はそこで副将の荀正を出撃させてきたため、関羽は言った。


「紀霊、かかってくるがいい! 雌雄を決そうではないか」


 荀正が、


「貴様のような名も無き下将など、紀将軍のお手を煩わせるまでもないわ!」


 と言うなり関羽は激怒し、馬を交えてただの一合でこれを切って落とした。


 劉備は兵馬を駆動させて大進し、大敗を喫した紀霊は退却、済陰の河口を固め、妄りに交戦しようとは考えずに、ただ兵士たちに奇襲に徹するよう仕向けたものの、その都度徐州兵に破られてしまった。


 以降、両軍防戦の一辺倒となった事については、さておく。

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