一 侵入者
白銀龍、雪山に住みつき氷を操る姿からその名が付いた
その実力は計り知れず、対峙した敵は自らを認識する事なく凍てつかせる
彼の名は【クラッド】白銀龍の子供、白銀竜である彼は、只今住処となる山を探し高高度を飛び回っていた…
『はぁ…』
竜は昨日の出来事を思い出し、また自分を戒め、どうすれば良かったのかイメトレを重ねる
『ん?』
感覚が鋭敏である竜は、外からの来客を察知する、とはいえ招いてはいないのだが
風を切る音、強まる冷気、そして何よりも…自分と同等の魔力を持つ事により、竜は【白銀龍】の接近を察知する
迎撃を行うため外に出た竜は、大地を焦がさんばかりの炎を燃え上がらせ白銀龍の撃退の準備を進めていた
しかし白銀龍は炎に臆することなく、自身を氷の粒子で守り、竜目掛けて高速で衝突した
間抜けにも地面に突き刺さった白銀龍へ反撃を仕掛け、大玉の火球3つ4つを白銀龍へとぶつける
普通の白銀龍ならば死んでいただろう攻撃を、彼はかろうじて防ぎきる、属性相性なしに考えれば、彼は竜と同等以上の存在だと…
『キサマ、なかなか強いな』
術式もメチャクチャ、攻撃を防いだのも魔力を放出しかき消しただけという非効率的な戦い方…
『何者だ…?』
竜は白銀龍にそう問いかける
【龍】というのは、元々こんなに乱雑な術式では無く、もっと合理化、効率化を徹底している、白銀龍がこんなにもメチャクチャな術式を使う所など見た事が無い、それに白銀龍は高位な種族ではあるが竜よりも位は低く、竜の姿を見れば離れる…しかし
(まさか、この私を知らない…?)
成長途中の白銀竜であるなら敵の力量を計る技術が不足していてもおかしくは無い、乱雑な術式もそうだ、鍛える時間が無かったとするなら…?だとしても、【終末竜】に匹敵する大量の魔力…【突然変異】か【始祖返り】…?
そう、この白銀龍は余りにも乱雑な術式であるにも関わらず、その大量の魔力量のみで竜の攻撃を防ぎ切った
しかも、驚くべき事にその白銀龍は、よく見ると元々の白銀龍とは違う姿をしている…白銀龍よりも二回り程小さく、所々が自ら発光している、この特徴に当てはまるのは…
『聖銀竜…か』
終末龍の対となるとされている聖銀龍、その幼体…終末龍が「世界を滅ぼす龍」と恐れられているのなら、聖銀龍は「世界を救う龍」と敬われている龍である、その翼からは癒やしの光を放ち、かの龍の起こした風はどんな危機でさえ切り刻むとされる、正に竜のライバル
『始祖帰りか、ここ数千年産まれていないとお祖父様は仰っていたが…』
『シソガエリ?シソガエリってなんだ!?教えてくれ!』
竜の言葉に反応し飛び起きる聖銀竜
『ふむ…始祖帰りの事を知らないのか、やはり数千年産まれていないせいか』
『良いから教えてくれ!俺は一体何なんだ!?』
切羽詰まった様に始祖帰りの事を質問する聖銀竜、なにかあったのだろうな、始祖帰りを知らない龍の元で始祖帰りとして産まれてしまえば…想像は容易だろう
『始祖帰り、始祖龍様の力の一部を受け継いだ龍…お前の場合は聖銀龍だな、そいつの力を極稀に受け継いだ状態で産まれる事があるのだ、簡単に言えば先祖帰りだな』
この長ったらしい説明を聞いていた聖銀竜は、徐々に顔を青ざめさせた
想像通り、それが原因で追い出されたんだろうな
『なんだよそれ…どうにもならねぇのかよ…』
『我々は生まれ先を選べる訳ではない、だが一緒に居る者達を選ぶ事はできるだろう、その様な輩は放っておいて、自分の力を認めてやれる竜と居ると良い』
絶望する聖銀竜だが、竜の慰めで気が紛れたようだ、いや、どこか納得したような顔をしながらこちらを見ている様だな
『なるほどな!俺の名は「クラッド」!よろしくな!』
なぜそうなる…
『はぁ…「フェド」だ』
フェドは長い間教えた事のない一つの単語を他人…いや他竜に教えてしまった
それすなわちクラッドのしようとする事を認めたという事
『洞窟が狭くなるな』
久しぶりに口にした自分の名前を付けた存在を思い感傷に浸りながら、フェドはそうつぶやいた
始祖帰り
先祖返りみたいな物で、子竜を産む際、稀にその親の上位種または根源種が生まれる事がある
上位種
普通の龍よりも上位に位置する龍
白銀龍など
根源種
上位種よりも上位に位置する龍
終末龍、聖銀龍など始祖龍に最も近い龍