プロローグ
(寒いな…)
洞窟で縮こまり、体を温めようと魔法を使い炎を燃え上がらせる
(あぁ…)
全身が火に覆われた所で、竜は寒さを感じなくなり、再び眠った
火が消えれば起きて火を付けて眠り、火が消えれば…の繰り返し
(孤独か…いや、私は二度と人間とは関わらないと決めたのだ…そう、人のこないような雪山の洞窟で一人…)
「すみませーん…誰か居ますか…?」
かすかに、寒さで震えた少女の声が聞こえる
その声の主は、おそらく遭難してしまっているのだろう
(さてどうするか…念話も人化も習得してはいない…そもそも私は二度と関わらないと誓ったのだ、放っておこう…いやしかし…)
黙考する竜、二つの意志が葛藤を引き起こしどうするべきか考える
「すみませーん…助けてもらえませんか…?」
先程よりも弱々しく助けを求めた声に、竜は咄嗟に反応する
考えるよりも先に、体が動いてしまっていた
少女は洞窟の入り口から飛び出した竜の顔に腰を抜かし尻もちをつく
涙目のその顔は、竜の庇護欲を刺激するのには充分だった
竜は手を…いや、前脚を差し出し、少女に乗れと促した
少女は戸惑いながらも、その誘いに乗り竜の手のひらに乗る
「あったかい…」
竜の手のひらの上はとても暖かく、吹雪で冷えた少女の体を芯までポカポカにしてくれた
洞窟の中は、先程まで火の海だったのにも関わらず、熱過ぎず寒過ぎず、人には…人間にはちょうど良い温度へと切り替わっていた
「わぁ…!すごい…!」
人間にとってとても広い空間に少女ははしゃいで手のひらから落ちてしまう
慌てて少女を掴む竜、しかし少女は慌ててしまって力のコントロールを怠った竜の手のひらにより潰され、死んでしまった…
(また…またやってしまった…なにが高尚な生き物だ…なにが神に近い生き物だ…こんな体は欲しくなかった…)
ポタポタと溢れる涙、その一滴でさえ人だったものを洗い流すには充分な量だった
竜は竜の中でも高位なドラゴンで、力も魔法もハイレベルな終末龍の末裔
この物語は強大な力であるが故にコントロールができない体を持ってしまった幸せを求め、求めた物を自分で壊してしまう竜の物語である…
一応補足
竜=龍の幼体です、龍と呼ばれるのは産まれてから500年経った個体となります