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魂を殺された世界で叫ぶ者  作者: 深月 良介
第一章 騒乱の幕開け
3/3

2節 嘘っぽい遅刻原因

 --高層マンションにて



 外からは容赦のない日光が降り注いでいる中、それを物ともせず目的地へ急ごうとする少年が居た。


 その少年の名前は暁 和人。 彼はその特殊な見た目とは裏腹に平凡な人間で、これといって特出すべき点が無い人間だ。

 そんな少年は現在、学校へ急いでいた。


 玄関から出て、電子ロックをかけた後に全力疾走でエレベーターへ向かう。 ここは二十階建てのマンションで和人の部屋は十三階の二号室なので、エレベーターを使った方が速く地上へ到着出来るのは誰でも容易に出来るだろう。


 和人はエレベーターの入口に着くと連打で下矢印ボタンを押した。


「遅刻するから、早く! 早く!」


 タイミングが悪い様で現在のエレベーターの位置は一階で、一番時間がかかるという最悪な位置であった。

 横にはもうひとつのエレベーターがあるがあいにく故障の看板が立っていたるため状況を打開するのは難しそうだ。


 その後ろには階段もあったが、今更遅いためそのあの案は無いに等しかった。


 電子音が発せられ、エレベーターがこの階に来た事を伝えられる。

 ゆっくりと扉を開かせるエレベーターにいち早く乗り、行先の階のボタンを押してエレベーターのドアが閉まられる。


「まだ……大丈夫だよな?」


 ゆっくりと降下するエレベーターの中でそんな独り言を呟く。

 和人は忙しく時計型携帯のホログラムを見ながら時刻表と駅に着く時間とを暗算して、何度も何度も確かめた。


 その後に『一階です』という音声をスタートの合図で開く扉から全速力で駆け抜ける。 マンションの一階であるエントランスは広々としており、エレベーターの入口の先にはシャングリラが飾っており、その下のはまっさらな空間が広がるエレベーターのすぐ前に出入り口が構えてあった。

 二重扉の自動ドアがあり、その間に事務所の様な受付や郵便、インターホン等があった。


 どうやら今日は人がエントランスにおらず、事務所の方もまだ開設時間が早いのか、カーテンによってその窓口が閉ざされていた。 和人は誰も居ない空間を通り抜けると言う様な感じで出口へと走り出した様だ。


 しかし和人は自動ドアのせいで速度を遅めなければならざる負えないが、そのタイムロスを取り返す様に最後の扉をくぐり抜けると一気に走り出して行く。


 扉から外に出ると舗装された道に出る。 その道はボコボコのアスファルトでは無く、明るめの灰色のコンクリートの見た目をしたブロックが均一に敷き詰められた道であった。 それは歩道らしく一直線に続いていた。


 改めてマンションを見るとさすが二十階建てと言うべき高さで、黒と灰色を基調としたマンションであった。 各部屋のベランダには透明を曇らせたガラスの柵が人間の落下を阻止する。


 目の前には国道があり、朝だというのに車が忙しなく走っている。 その朝日が少し出て経った所に高速に回転したタイヤと地面との摩擦音だけが鼓膜に情報である空気の振動を伝えている。 他の音はそれに打ち消される様にしているため、ほとんど聞こえない。

 歩道と車道には明確に自分の身の丈程度のガラス壁が貼られており、車道の上側に横断歩道橋が所々にあり、階段だげでなく所々にエレベーターもある。 そのためか車道の両脇は歩道橋に占有されている状況であった。


 和人は早速その自分の身長の1.5倍程の歩道をその道一つ一つを何度も何度も自分の体重を足に乗せてぶつける。 その時に地面にぶつけた体重分の重力の反動が足の底から伝わった。 それが連続して続き、リュックはその反動で上下左右に激しく揺れ動いていた。


 息を切らしながら制服のズボンの右ポケットから小さな箱状の物を取り出す。 その箱を走りながら開けるとワイヤレスイヤホンが収納されていた。 その中からそれを取り出し、片方ずつ付けて、ケースをしまった。 イヤホンに音は聞こえず、どうやら駅などに着いた時に流すようだ。


 和人が走っている歩道の周りには磨き上げられた石材や金属を用いた高層ビルが立ち並んでおり、車道やビルの壁にはホログラムによってきらびやかな装飾を付けられた広告が永遠と横にスクロールする。


 しばらく走り続けると国道と市道が交差した十字路に着く。 そこにはコンビニやらドラッグストア等の店があり、ここもホログラムの広告が散見される。 十字路という事あってか信号や標識、案内板が多くあり、その多くがホログラムの役割である。 和人は先程進んだ方向から十字路の左に曲がった。 曲がった先にはぐるりと回れる車道があり、正面に駅がある。 具体的に言うと、上から見た場合に中心に植物である木がありその周りに車道があるのだ。その車道のさらに外側にはアクセスしやすい名だたる有名店が立ち並ぶ。


 そこの車道には歩道とを分け隔てるガラス壁が無いため、車による迎えとかタクシー等を使うために無いのだと思われる。

 和人は車道を敢えて通る事せずに律儀にその車道のさらに外側の地面の歩道を道をすうように走って行く。

 それは禁止されているためである。もしやろうならば時計型携帯が激しくバイブレーションにより警告された挙句、それを記録されてしまうからである。 それは溜まると罰金が発生するために誰もその禁止行為をやろうとすらしない。


 駅の正面に着くと目の前は壁で、右横に階段があるのでそれを駆け走る。


 --そこに電車の出発を伝えるサイレンが鳴り響いた。


「やべぇ! 急がねぇと!」


 サイレンを聞いて時間の通告に焦る。

 この電車を乗り過ごしたら遅刻がほとんど確定したと言ってもいいので、どうにか間に合わせようと和人は走り出した。


 改札があるがそこにはICカードを提示する所は無く、何も提示せずに通り抜けたので行く手を阻まれると思われた。



 しかし和人の走りを妨害する物も者もいなかった。



 それはつまりICカードが通る許可証と言う訳でな無いのだ。


 それはつまり現在の改札は時計型携帯により自動で残金から引かれるているのだ。 そのため行く手を阻まれる事は無く、万が一残金が無い場合のみ止められるだけだが、お金がある和人には無縁な物だった。


 そうして走って電車の中へ目指す。 こんな時代になったのにも関わらず駆け込み乗車は無くならず、あわよくば自分もという欲が世代を渡っても受け継がれている証拠なのだろう。 そんな事を心の片隅に置きながら全身の筋肉を使い、目的達成へと走り出す。


 改札を出た後に和人は階段を駆け下り、電車を目指したが……


『ドアが閉まります。 ご注意ください』


 アナウンスと共にドアが閉められてしまった。

 この時の和人の心情と言えば。



(あっ、終わった)



 和人は完全に遅刻確定という申告に心を打ち付けられてしまった。 試合に負けた後の燃え尽きたボクサーよろしく、意気消沈してしまった。

 燃え尽き症候群なのだろうか、目的を果たせない事を悟り、更なる努力の追求を諦めだした和人。


 そんな意気消沈の心の後にもうどうでもいいと言う考えが過ぎる。


 --そうだ、別に遅れても良くね?


 そんな考えがよぎった後に開き直るという手段を持て心身を落ち着かせようとする。 空元気でその様な状況に心の平静を無理矢理取り繕う。


(まぁ、少しくらい遅れても……大丈夫だろ。 最悪仮病で乗り越えられる……?)


 そんな考えがよぎったせいか先程までの緊張感は薄れ、後に来る朝の急な疲労が押し寄せる。

 和人は駅のホームの椅子に座り、その疲れを椅子に任せる。


 駅のホームには天井があるが、まるで虚空を眺める様にぼーっと上の空を眺めていた。


 少ししたら首が痛くなったのか、元の体勢に戻る。


 時計型携帯の一つのボタンを押してホログラムを時計表示板の上に展開させる。 時計型携帯の横に付いた上下にスクロールさせるための調整するための操作盤を動かす。 例えるとを見せるならばギザギザの付いたゼンマイの一部が横から露出していて、それを動かすと言った物だ。


(開き直ってゆっくりしてるけど、逆に暇になってやる事無いなぁ……)


 ダラダラと目に付いたネット記事をホログラムを介して見る。

 そして和人は何故か無性に検索サイトを使いたくなる。 第三者から見てもその発想に至る発端が不明だから、所謂思い付きの様な物だろう。

 日本開発で独自の検索アプリを起動させる。


「母親」


 和人はその何の因果性の無いワードを言葉を発した。 そうすると時計型携帯は反応してその言葉を自動入力して検索する。

 これは音声入力で現在は文字盤による入力は時計型携帯の増加により近年はあまり見られなくなった。 文字盤を用いたとしてもパソコン等しか一般人には面識が無く、スマホもパソコンと同じ立ち位置までに衰退してしまっているので必然的に音声入力が主流になっている。


 しかし唯一の例外として個人情報が絡む事に関してはその狭苦しい表示板で入力しなければならない。 指紋認証や顔認証もあるが導入段階で強制的に認証させられた例もあるので念には念を入れた結果この様になったのである。 よくホログラムが邪魔になって打ち込みずらいのは最早不便を通り越して愛嬌になりつつある。


 そして肝心の性能はかなりの小声でも識別できるらしく自分の声を登録しているので騒音の中でもある程度なら使う事が出来る。


「えーと、何々。 ふむふむ」


 和人はわざとらしく仕草を付けてその情報について納得と情報確保をする。

 現在もSNSはあるのだが、健康上等で被害が拡大したため規制が大量に盛り込まれてしまっている。 しかし日本はまだマシで、一部の外国は禁止すらしている。


 だがユーザー数は年々減っているらしく、この手に関して業界は衰退気味であった。 肝心の和人はそもそもSNSを利用しない人種らしく、使う人の考えが理解出来ない様だった。


 粗方調べたい事を検索し終わると今一度ネット記事に戻る。


 そこで和人は目の前の情報に興味を持ったのか、瞳孔が大きく開く。

 その情報はネット記事で、最近の電車の遅れに関しての記事であった。


(ココ最近電車遅れ気味なんだよな。 それで遅刻すると面倒臭いから困るんだよなー)


 最近は首都圏に限って電車が遅延したり停止したりが頻繁に起こっているために学校や会社は時間を繰り下げている状況なのだ。 最近はそれについての話題がちょっとしたネタや都市伝説等があるらしく、今の日本のそこら辺のゆるさのせいかそういった面白半分な情報(信じる人はほとんど居ないが)や、ありもしない都市伝説等が出回っている。


 和人は早速来た情報が虚偽の情報か、それとも面白半分のネタなのか、はたまた有益な情報なのか、そのネット記事を開いて確かめた。



 --結果は虚偽の情報であった。



 内容はこうであった。

 実は超上的な能力を持った人間を抱えた政府が外国に襲撃されているために電車が遅れていると言った、いつの時代の物なのか疑いたくなる物だった。


 確かに遅延や停止する場所については封鎖されて民間は見る事が出来ないにしても超上的な能力を持つ人間がどうにも嘘の様に見える。 それに一貫性が無く、コロコロ変わっていて余計に説得力が失う。

 そしてもって今どきに都市伝説、しかも超能力と言ったらスプーン曲げに始まり、アニメ文化等でバトル物も伝播した物だがこんなにも発展した時代でその様な物は嘘だと言われ見向きもされないのが現状である。

 もう今どきと言う言葉すら一昔前に流行った物なのだから。


 あまりに稚拙するぎる記事で虚偽の情報流したとして訴えたいレベルの物だと和人は激しく思ってしまった。


 そのネット記事を閉じたちょうど同じタイミングで駅構内にアナウンスが響き渡る。


『本日は当駅のご利用ありがとうございます。 本日は時刻通りに運行が出来ず、遅れてしまい大変申し訳ございません』


 どうやら電車の遅れについてのアナウンスの様だ。 そういえばここにも電車がもうすぐ来てもいいのに来ないのは例の如く遅延や停止だろう。


(もうちょっとここで待つのかなぁ……?)


 伺う様にそんな思いを心の中で吐露しているとまたもやアナウンスが鳴る。


『まもなく2番線に電車が到着致します』


 どうやらもう来るらしい。 ここは2番線であり、近くの踏み切りも危険信号を伝えるけたたましい音がこちらからでも聞き取れる。


 しばらく待つと電車が到着した。 時刻表から約10分程度の遅延である。


 そのスピードをつけていた電車は徐々に速度を落とし、やがて停止した。

 停止した後に電車から発せられた合図音を聞くとすぐに電車の扉が開く和人はその電車と地面のステップを軽く乗り越えて電車の中に侵入する。


 乗った直後にもう閉まる合図音が流れ、即座に安全を確保した電車はその扉を閉める。


 そうして電車に揺られながら目的地へ目指す。

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