表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂を殺された世界で叫ぶ者  作者: 深月 良介
第一章 騒乱の幕開け
2/3

1節 夢からの目覚め

 --西暦2040年代 ここでは無い別の世界にて




「--んんッ!」


 暁 和人は目を覚ました。

 窓際から陽光が一つ一つの線になり無数に降り注いだ。 机には使ってない勉強用タブレットや小型液晶テレビがある台の下にはコントローラーやカセットが散らばり、スナック菓子などが散乱していた。

 どうやらここは自室らしく、昨夜遅くまで起きていたと分かる痕跡が部屋中で散見出来る。

 また他の物も大量に散らかっており、これだけで片付けが苦手とする事実は容易に推測出来るだろう。


「ううっ……眠い……」


 体が鉛の様に重たく、起き上がるのが苦痛で目蓋は侵入者が入って来た時に門を急いで閉めようとする城の仕組みのそれで、夜型人間の典型的な朝の様子であった。

 和人は深夜まで起きていた事を後悔した。そのツケは強烈な睡眠欲という形で自分に帰ってきた。


「はぁ……」


 溜め息を吐いた後に気分を一心させるきっかけとして背伸びした後に体に乗っかている布団を足で投げ飛ばし、目覚めの良い朝の軌道に乗ろうと試みた。

 しかし勢いの余りに布団を近くの台に飾られていたフィギュアに激突した。


「あっ……やべ!」


 思い切り飛ばしたせいか、かなりの範囲に被害が食らっていた。 ドミノの様に総倒れで被害を被ってしまい、布団の中にフィギュアが埋もれこみ、机の方に飾ってあるのも振動で例外ではなかった。


(はぁ、余計に気分が下がるじゃんか……)


 まだ不幸中の幸いか、朝は力があまり出ないおかげで布団が高く持ち上がってさらに奥にある机に置いてあった食べかけの夜食に当たらなかっただけ良かっだろう。


 和人は悲惨な結果にならなかった事に安堵しが、ふと部屋の机にある時計を一瞥するとこれ以上時間は食えない程差し迫っていた。


「ッ!」


 時間が差し迫っていたからだ。


 ゆっくり寝たいという願望を諦めて和人は溜息をついて、急いで準備をしようとする。

 とにかく部屋の片付けをしようとフィギュアを戻したり、旧時代のテレビゲームや教科書等を急いで整理、準備を一気にする。


 案外身辺の整理と準備は速く終わり、最後に机に置いてあった時計型の携帯とでも言うべき物があった。 名前は差し障りも無い時計型携帯であった。


 それを右腕に装着して和人は時間を確認しようとする。

 時計の表示部分に指が触れると画面が光り時間が表示された。 そこには10/11 木曜日 7:40 と表示されていた。


「おっ、だいぶ早く片付いたから時間に若干余裕があるし……少しゆっくりめで行くか」


 和人は目の前の情報に喜びを感じた。

 表示された時間に心の余裕を持ち出させる要素があるのではなく、単純に学校までの準備が十分どころかお釣りが来るのでゲームが出来るとこれから出来る自由時間の満喫を画作していた。

 そして、和人は独り言を言う性格らしい。


 早速和人は残された準備を実行しようとし、自室の扉を勢い良く開ける。

 廊下に太陽が降り注いでいないのか床から冷たい感覚が直に足に伝わってくる。

 まだ冬来るには早いと今の温度に文句が思い浮かんでしまう。



 まだ朝特有の眠気を取れていない和人はさっさとそれを取ろうと洗面所へ向かった。

 横幅が狭く、さして距離も遠くない扉に手をかけた。そこには洗面所や洗濯機、さらに向こうに風呂場と水回りが集まっていた。

 構造は至って簡単で扉の左に洗面台、右に洗濯機があり、正面に風呂場への出入口がある。


 そこで和人は勢い良く蛇口を回し、意識がぼんやりとしながら水を手ですくいあげて顔にぶつけた。眠気が取れるが……


「冷たっ!」


 しかし、眠気は取れたものの今度は顔にベッタリと体温を下げる冷水に苦しむ事になってしまった。

 内心勢い余って顔にやったのか手に冷たさの感触が伝わる前に一気にかけたせいか床が水で濡れ、冷たさを伝える信号が後から遅れて来て、手もその冷たさに晒される。

 急いでタオルで拭き取ろうと洗面所のちょうど後ろにあるタオルを取ろうとする。


 顔の冷たいという刺激のせいか、タオルを取ろうとするも焦って一回目は近くに手を掠めてしまう。 だが和人は一応は人と同等の学習能力がある為二回目は外す事無くタオルをキャッチして急いで顔の水分を拭き取った。


 水分を拭き取ると、ある程度思考が鮮明になった事で目の前の光景が鮮明に感じた。

 ぼやけていた憧憬は一気に消えて辺りの造形、色彩等の視覚情報がより正確に伝わる様にになる。

 頭の中の重たい物もスっと軽くなった。

 しかしやはり冷たさは水が無くても尚つんざくような感覚を感じさせる。


 ふと和人は今朝の夢について考えようとする。


(そういえば……あの夢……なんだ?)


 夢は目覚めた時間から経ちすぎると忘れるらしいので急いで思い出そうとする。 しかしその夢の内容はおろか光景すら霞んでいた。

 どうにか思い出そうと立ち止まって頭を酷使してまでしようとする和人。


(うーん……)


 しかし、どれだけやっても思い出せず、まぁいいやと諦める事にした。 その後出しっぱなしの蛇口を止めて、また別の方向へ第一歩を歩みだした。



 ----------------------


 和人は一通りの準備を済ませ、その身には学校の制服である紺色のブレザータイプの物を纏っており、ワイシャツは水色で上は水色系統に固まっていた。 そしてネクタイは紺色の物であった。

 ズボンの方は灰色でどこにでもいる高校生という様な風貌である。

 改めて和人の外見スペックはお世辞にもかっこいいとは言えず、どうしてもモブキャラ感が否めない。

 だが、ふたつだけ特出した点があった。



 --そう、それは髪と眼にある。



 日本人は髪の毛は茶色目の黒髪などが多いが和人は銀と灰色が混ざりあっていた。 眼の方もやはり普通の日本人の様なダークブラウン色では無く、黒寄りの灰色と表現した方が良い色だった。


 現在の世の中では昔と違って、髪の毛の染色やカラーコンタクトは緩くなり、それは一種の個性として今の世には受け入れらているため、さして変わった風貌では無い筈だ。それは学校も例外ではなくここ最近はその影響をもろに受けている。


 しかし和人は別である。 この髪の毛も瞳も全て元々備わっていた物なのだ。


 すなわち先天的な身体特徴であったのだ。


 生まれた時はまだ髪の毛を染めるという行為は旧時代の言葉で言うヤンキーや不良に見間違えられてしまう障害があり、しかも子供の頃はまだそういった偏見は無くなっていないのでなおさらである。

 しかしながらそれ等の困難を乗り越えた和人は猛者の戦士(?)の様な雰囲気を漂っているかもと自信で自負しているらしい。

 そんな和人は回りの先入観も無くなり、元気に過ごしている。 その点では普通の学生とは言い難い経験をしていたと言えるだろう。


 全く持って余談だが和人はゲーム三昧な生活とは裏腹に視力は良い為、コンタクトや眼鏡類は使わずに済んでいる。 現在は目の視力回復には手術が必要だが、それも簡易的である。 しかし、色付きの瞳は流石に手術では無理なためカラーコンタクトを用いるしか無く、ファッションで付ける人は多く、一般人も多い。


 そんな和人は身辺の準備を終え、朝ごはんの支度に取り掛かろうとする。

 一度自室に戻り準備しており、再び扉を開けて右の方のキッチンとリビングの方へ向かう。


「よし! 行くか!」


 ネクタイを両手で整え小さな声での意気込みで前へ前へ進もうとする。

 そうして勢い良く開けて気持ち良い朝の第一歩を歩む所で早速音による鼓舞は使えなくなってしまう。


「ッ!」


 そう、扉を開けた先の向かい側には部屋があり、そこから微かな呼吸の音が聞こえるのだ。

 つまりこれが意味する事は同居人が居り、今は静かに床に着いているという事実である。



 和人は知っていた。


 寝てる時にうるさくされる気持ちを



 それ故にこれを反面教師として胸に誓っている。静かに廊下を一歩一歩、抜き足差し足忍び足で極力音を立てぬようにした。

 よくある漫画表現よろしく、そろーりという表現が描かれてそうな歩き方で目的の現場に向かおうとする。


 その甲斐あってか、静かな寝息には雑音が含まれずに音が微かに鼓膜を振動させる事になる。


 その寝息はどうやら女性の様で、その音はどこか幼いという表現を与えられる。 まだ寝ているのかと言う風に表情を浮かべながら目的地へ向かう。



 部屋に着くと自動作動で部屋に電気がつき、部屋の全貌が明らかになった。

 扉の右脇にはキッチンがあり、そのキッチンの前に四つの椅子と大きめの机があり、扉から正面に太陽光がカーテンという微かな布で遮られた窓がある。


「さてと、準備するか」


 若干気だるさを感じさせる様な言葉で、やっと腰を上げたかの様に朝食の準備に取り掛かる。


 まず扉の近くにあるリモコンを押した後キッチンの引き出しから食べ物を引き出した。 先程のリモコン操作は気だるさを無くすほんのささやかな物として和人は起動させた。


 どうやらカーテンを開け、日光を部屋に入れるボタンらしい。

 準備をしている間もカーテンは左右から分かれる様にゆっくりと開く。


 この時代の調理状況はあまり変わらず一般的な家庭には電子レンジや、今は主流の電磁式コンロに冷蔵庫など特に変わった点はなかった。

 和人は昨日の残りのご飯と味噌汁をお椀に乗せて、電子レンジと電磁式コンロを使い温め始める。


 そんなこんなしていると、とっくにカーテンは全開状態でレースカーテンのみが宇宙からの陽光を微かながらに遮っている。


「……まだか?」


 完了時間が来る遅さにせっかちになり、思わず呟く。

 この様に一昔前の電子レンジやカップ麺を待つのが長いという悩みは今も健在中であった。

 しばらく待つと……


 チーン


 今では見ない様なThe電子レンジな音が部屋中に鳴り響く。

 その音が聞こえたという事は即ち完成である。


「おしっ、完成したか」


 ガッツポーズをして、心中で朝食にありつける事に胸を踊らせながら電子レンジの蓋を開く。

 器の中に盛られた昨日のご飯は米粒一つ一つの水分子の運動量の上昇、つまり温度が上がった物から辺りに撒き散らすように湯気が風にそって放出される。


 同じタイミングで、昨晩の味噌汁は既に十分に火が通っており飲むにはちょうど良い温度なのでご飯と並行して電磁式コンロを止め、器に乗せたあとにご飯と一緒にリビング中央にあるテーブルに乗っける。


 そして引き出しから箸や水を取り出し、遂に朝食の完成である。


 それはこれといった意外性も無く、テレビ番組で紹介しよう物ならブーイングを上げられるレベルである。 しかし和人はテレビ番組なんてもう無いけどなと思いながら箸をご飯に付ける。

 それをすくい上げ米の僅かな芳香を鼻に入れながら口に入れる。


 熱かったらしくハフハフと言いながらゆっくりとそれを食んで飲み込む。 続いて味噌汁を飲むが、こちらはぬるかったらしく常温程度の温度であった。


 その一連の行動を済ませ、食器の片付けに入る。和人は食器をお湯で注ぎスポンジで洗った後にタオルで拭き取り元の食器棚に置く。


 やる事を終えた後に和人は自室に戻る。


 その後にゲームをする為に時計型携帯のボタンを押すと時計からホログラムが発生する。 この時代にとってはホログラムは時計表示板に操作しきれない物を操作するための画面でるが、もっぱらホログラムを使わないといけない操作は多いためこれを使う事が殆どである。 とりわけ個人情報等に関しては表示板で完結した方が漏洩する事は少ないためホログラムを使う事はあまりない。


 ホログラムにある接続という項目を時計型携帯のボタンで押すと机にある長い長方形の形をした四角い棒状の上側に棒が横に入れられる細長い楕円型の穴からホログラムが発生する。

 これは言わばテレビの様な物であるが、これもまたホログラム使用であり、先等の時計型携帯を操作機として画面を先程のホログラム設置型表示機としてゲームをするのはもはや当たり前の事であった。 わかりやすい例ならば操作機とテレビという構図である。


 これにて時計型携帯による操作によってゲームをする事が出来る様になった。


 和人のやるゲームはSF系統の銃アクション物で、それぞれのギルド編成で試合マッチングするという昔にもあるごく普通のゲームである。

 それを数試合進めた後に試合の途中で出かける為にセットした時間を告げるアラームがなってしまったが、試合を優先してしまった。



 --現在の時刻は8:15



 和人はゲームを一通り終えて、さっきと同じ手順でホログラム設置型表示機の電源を切り、時計型携帯を急いで右腕に装着する。


 想定よりも長くゲームをしたせいか少し焦っており、事前に準備した部屋の片隅に置いた中身がスカスカなリュックを持ち上げ、それを背負う。


 自室から出た和人は急いで靴を履き、玄関の扉を勢いよく開ける。


「ヤバいヤバい! 早く出ないと!」


 急いで玄関の扉を閉めてすぐに扉に付けられいる電子機器板に時計型携帯をかざす。


『玄関をロックしました』


 機械から無機質な音声が発生する。

 今の世の中は鍵という前時代的な防犯システムは廃れ、電子機器による鍵と指紋や生体認証を用いた物が殆どであった。


 音が発せられると同時に和人は勢い良く駆け出す。



 --騒がしい一日のスタートであった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ