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魂を殺された世界で叫ぶ者  作者: 深月 良介
第一章 騒乱の幕開け
1/3

0節 プロローグ

 ――辺りは真っ暗だ。



 黒よりも黒いと言った方がいい様な空間に一人の少年はいた。

 その少年は虚ろな表情をしており、生気が一切感じられないほどに疲弊している様だった。

 その少年の瞳の奥には黒い光がある。

 この空間よりさらに黒く、それは怒りと表現しても良い様な複雑に混ざりあった色だった。



 ――なんで



 そう少年は心の中で問いかけた。

 しかし、心の中で答えてくれる訳もないどころかこの空間には誰もいないのできっと答える人間はいないだろう。



 ――どうして?



 再び問う。


 

 ――なんで!



 その心の思いは悲痛な物であった。

 それは少年が体験するにはあまりに厳しい思いであった。



 心の奥底からドロドロとした液体が溢れる。



 ――その様な表現しか出来ない。



 少年の心が抽象的な物ではなく実体として存在していた。

 そこからドス黒い液体が溢れる。



 ――はっ?



 少年は理解が出来なかった。

 きっとそれが心であるという事すら知る事が出来ずにその光景を眺めていた。


 その心は球体の様で激しい光が輝いている。

 その光は黒くなく普通の眩しい光であった。

 その心からどこからともなく黒い液体が流れる。

 その心がまるで嘔吐するかの様黒い液体が流れる。



 ――気持ち悪い……



 いつしかその瞳に光が戻ると同時にその空間自体も光っている様だった。



 空間が明るくなるにつれ今度は心の光の輝きがどんどん小さくなってゆく。



 ――なんだよ……これ?



 少年は未だに理解できない。

 だがその少年の頭の中にはまるで軽蔑するような感情が入り乱れていた。



 やがて液体も溢れなくなった。



 自分の体を動かそうとする。







 ――だが動かない。



 訳が分からなかった。

 体が言う事を聞かない。

 すると下の方からガラスが割れる様な音が小さい音がその空間に響き渡った。



 少年はその音の振動を耳の器官を通じて脳にそれが伝わった。



 ――直後、激痛が走った。



「っ!?」



 その激痛によって叫びが響き渡るはずだったが、空間がそれを拒否する。

 この世界の法則じゃ理解できない様な力によってその叫びを喉から発する事すら出来ない。



 何とか音の出処を見ようとようやく動かせた首の筋肉を使い下を見た。



 自分の体が壊れているのがその光景に見えた。



 少年は何も示さなかった。

 もう何もかもどうでもいい様な感情だった。

 そして痛みはなくなってしまった。

 辺りはさらに明るくなり、眩しすぎる程だ。

 明るくなるなればなるほど意識がはっきりする。



 ――ここ……どこだ?



 少年はすっかりさっきまでの怒りの理由を忘れてしまった。

 少年は今置かれている状況に理解出来ずにいた。

 訳が分からずにしばらくすると……。



 ――Do you know fj9nom2 8ow3806vi tym?



 そう問いかけられた。

 心の中に激しい程に浮かんでくる言葉だった。

 その声は無機質だがどこか感情が込められている様だった。

 その言葉を翻訳すれば『何かをお前は知っているか?』となる。

 その『何かを』の肝心な部分がノイズが入ったかの様に聞こえなかった。

 それどころか最早言葉にすら出来ない言語だった。



 その問いを突きつけらた少年はそれを知っている様だった。

 なにか後悔するような表情だった。

 その少年はまさにその問いについて答えたがってた。



 そうしてる間に自分の肉体がどんどん崩壊していった。

 体の中には何も無いように見える。

 まるで体の中に何も詰まってなく空っぽの容器の様でもある。



 少年は答えを言いそびれたくない思いで必死に声を出そうとする。

 だが出ない。

 だんだん空間自体も明るくなってゆく。

 その中でいかにこの空間内での情報が少ないかがわかる。



 あまりにぼやけている。

 それを知覚出来ないだけで実際はぼやけている。



 まだ声は出ない。



「っ!」


 しかししばらくして何故か声が出せるようになったと本能的に理解した。

 そして少年はその思いを心の奥底から出す様に声を出した。



「俺は……」



 声を出した瞬間身体中に亀裂が走った。

 だがそんな事はどうでもよかった様だった。


 そして少年はその言葉の続きを言った。



「それでも……やって……やるんだ!」


 静かにだが心の決断は重く、決意と後悔の念に満ちていた。



 直後、心の色と空間の色が反転すると同時にその少年の身体は砕け散った。

 暁 和人という少年の心だけを残して。



 ――そしてこの記憶はこの瞬間に忘れ去られた。

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