#06 認めざる得ない現実
カレンダーを見た達也は一瞬、頭の中が真っ白になりかけた。1975年と言えばまだあの学園ドラマの金字塔である3年なんちゃら組なんとか先生もやっていない頃だろうと思い、達也は名波さんに思い切って聞いてみた。
達也「そう言えば、学園ドラマの金字塔と言えば何が思い浮かびますか?」
そう聞くと名波さんは少々、不思議そうな顔を浮かべながらすぐに答えた。
名波「学園ドラマの金字塔?う〜ん、金字塔と呼べる物はまだないかな」
名波さんの答えを聞いた達也は軽く頷きながら奥にある棚に目をやった。そこには達也にとってはすごく懐かしいビデオテープが並んでいた。
達也「あっ!ビデオテープだ!懐かしいなぁ」
達也は懐かしさのあまり少し大きめの声を放ちながら、ビデオテープが並んでいる棚の近くまで歩み寄った。ビデオテープが並んでいる段は自分の胸の辺り。達也は少し屈んでその一段を隅々まで見渡した。達也は懐かしさで興奮していたので、自分の置かれている状況を忘れていた。そんな状況は程なく失われた。達也が見渡したビデオテープの中に自分が懐かしいと思える物が一つもなかったからだ。しばらく呆然としていると名波さんが突然口を開いて言った。
名波「真ん中ら辺にさ、'男はつらいよ'ってあるでしょ?あれ良かったんだよねぇ。流行ったんだ。普段、ドラマ見ない私が唯一見た作品の一つだよ。映画もあったんだけど、あれがもう6年前の事かぁ。友達といっぱい語りあったなぁ。」
とても懐かしそうに語る名波さんを見て達也は少しドキッとした。
達也は冷静になって心の中でこう考えてみる。
達也(名波さんの言ってる映画が6年前?って事は今が本当に1975年の世界なら、1969年公開って事になるのか??あっ、そうだ。ビデオテープのケースの裏面にいつの物か書いてあるはずだ。ちょっと確かめてみよう。)
達也は少し小声になりながら名波さんに聞いた。
達也「あのー...、そのビデオテープ...、手に取って見てみても良いですか?」
すると名波さんは少し食い入るように答えた。
名波「おぉ!?達也くんも興味あったの?この映画。」
達也は少しの間を埋める為に、適当な返事をした。
達也「そ、そうですね。流行った事だけあって気になったので...」
達也は上手く誤魔化しながら、ケースの裏面を確認した。良く見てみると、少し年季が入っているようだ。それほど気に入っているのだろう。大事にしなくては。。。そう思っていると発売年が確認出来た。
そこに書いてあったのは、''©️1969''と書かれていた。それは間違いなかった。何度確認しても'1969'だった。第1作から第13作まで揃っていた。達也はいつもの癖でスマホを取り出し調べようと思ったが、そこで'圏外'だという事に改めて気付いた。カレンダーはエラー表示。時計も止まっている。更に充電も残り僅かだった。この世界に充電器などある訳もなかった。
少しの間、沈黙が続いた。辺りを見渡せば2020年と思うと違和感がある部屋の雰囲気。しかし、1975年と思うと何の違和感のない部屋の雰囲気や街並み、物の全てに呑まれ、達也は次第に現実を受け止めていった。