#05 部屋で解かれる謎と真実
やがて名波さんは大通りから少し細い道路が入り組んだ場所にある住宅街のある一角に車を停めた。
名波「さて、着いたよ。それにしても雨止まないね〜」
達也「そ、そうですね。僕がここに辿り着いてからほとんど雨ばっかりですね。雨男なのかな、、、」
名波「雨男ね〜...。まっ、取り敢えず、私の家に入ろっか。」
名波さんは僕の背中を押すような形で、半ば強制的に家の中へ押し込まれるような感じで玄関の中に入った。
名波「ちょっと玄関散らかってるけど、靴くらいなら置けるからその辺に適当に脱いで置いといて。」
少し散らかった玄関には右手側に花瓶に入れられた枯れそうな花や少し見慣れない白黒の写真がたてに入って置かれている以外は特に僕が知ってる玄関とそう変わらない感じだった。
今まで訳の分からない事が立て続けに起こった達也はちょっとばかりの安堵を覚えた。
名波「そんなに広くないけど、どうぞ遠慮なく上がって〜」
名波さんがそう言ったので達也は電気の付いていない薄暗いそこまで奥行きのない廊下を歩き、名波さんが案内してくれた部屋に入った。そこに広がっている光景はまさに達也が思い描くような昭和風の部屋だった。
達也「すごく昭和風ですね。趣があって良いと思いますよ。」
達也はその光景を見て自分の想像する昭和のイメージとぴったりだったせいか、思わず'昭和風'と言い放った。すると名波さんは少し間を置いて、苦笑いしながらこう言った。
名波「'昭和風'って言ってたけどそりゃ'昭和'だからね...」
達也はその言葉を聞いて思わず苦笑い。達也が少し目線を逸らすとそこには正に昭和という物が置かれていた。
黒電話だった。
達也はおかしい事を言わないように言葉を選んで言った。
達也「電話、そんな所に置いてあるんですね。」
名波「そうだよ。受話器が重いからさ、友達とかと長電話しちゃう時に肘をつけられるようにもしてあるよ。」
名波さんはそう言った後、少し食い気味に僕の目を見てこう言った。
名波「あっ、もしかしてだけど、わざわざ電話に目を向けたって事はこれにも何か言いたい事とかある??あるならお姉さんに遠慮なく話してよ。」
達也は図星をつかれて少し驚いた。達也は問いかけるように話し出した。
達也「この電話はあまり触った事ないですが、'9'が多い電話番号とかだったりすると、ちょっと面倒だったりしませんか?」
その問いかけに名波さんは少し大きめの声で答えた。
名波「あ〜、それ分かるわ。'9'だけじゃなくて、'6'から上は全部面倒だね。そういう場合はダイヤル回しながら何話そうかなって考える時あるね。」
名波さんは達也の質問に答えた後、少し達也の扱いが小慣れたような感じで問いかけた。
名波「その部分にわざわざ触れるって事は、君が知ってる世界ではその部分が違ったりするのかな?」
達也はまたもや図星をつかれて驚いた。
達也「ま、まぁそうですね。一度でいいから素早く電話番号入れられたらなっとか思ったりしませんでしたか?」
達也の質問に名波さんは腕を組んで答えた。
名波「そうね〜。考えた事ないって言ったら嘘になるけど...。もしかして?」
達也は少し目を細めて問いかけてくる名波さんを見て、素早く言葉を返した。
達也「恐らくその'もしかして'です。僕が知ってる電話は受話器も軽くて、9も一押し。もっと言えば電話番号を登録しておけばワンタッチで電話をかける事が出来ますよ。」
達也は自分の知っている電話像を何一つ包み隠さず話した。そんな達也の返事を聞いて名波さんはとても落ち着いた様子で答えた。
名波「君が言ってる世界って、なんか私たちが'こうなったらいいなぁ'って思ってるような事が実現してるように思えて来たな。それに、驚くような発言ばかりするからちょっと慣れて来たな。」
名波さんは微笑みを溢しながらそう言った。達也も思わず微笑みを溢した。
達也は微笑みを溢しながら電話から少し上に目線を逸らすと、そこにはカレンダーが壁にかけられていた。達也はカレンダーが見える場所まで足を運ばせ、今は何年なのかを再度、自分の目で確かめた。
そこに書かれていたのは【1975年(昭和50年)】の文字だった。
それを見た達也は、どこかこの世界に対してどこか半信半疑だったが、現実を飲み込まざるを得ないと確信した。