#02 達也は気付く
達也は困惑を隠す事が出来ず、マンションの外へ飛び出した。そこに広がっている風景は達也の目を疑う物だった。
達也「な、な、なんだこれ!?」
達也の目の前に停められていた車が目に入る。それはマンションの向かいの一軒家に住む老人夫婦の車だったのだが、いつもマンションを出て目に入るあのゴツゴツしたセダンではなく、どちらかと言うと少しカクカクしていて、ミラーなんかはボンネットから突き出している、いわゆるフェンダーミラーと言う物だった。初めは車でも変えたのかと思ったが、周りの状況がそうはさせなかった。
達也「おかしい、おかしい、これは何かの夢だ。きっと、何か変な夢でも見てるんだよ。」
達也は自分にそう言い聞かせながら歩みを少しずつ進めて行く。
マンションを出てすぐに面している道路は車通りが少ないので、目に入った車はあのカクカクした車だけだった。取り敢えず近所にあるコンビニまで歩く事にした達也はまたもや何かに気付く。
達也「あれ??なぜマスクをしていないんだろう??」
達也が思っている時代は2020年のはず。新型コロナウイルスが流行っている為か、道行く人は皆マスク姿だった。それでも時たまにマスクをしていない人を見かけるが、こんなに頻繁にマスクをしていない人を見るのは初めてだ。無論、自分も慌てて家を飛び出ているので、マスクをせずに外出しているが...
達也はコンビニに辿り着く。
達也「車は一台も停まってないのか...」
コンビニの前にある少し広めの駐車場に停まっていたのは、一台の少し見慣れない自転車だった。
〜〜コンビニ入店音〜〜
店員A「いらっしゃいませ〜」
コンビニに入るとほぼ同時に店員の声がお店に響き渡る。
達也の心の声(さて、なんか変な感じに喉が乾いたからここは爽快にコーラでも買いますかっ...。... ... あれ?コーラのデザインちょっと変わったか?まるで時代が遡ったかのようなデザインだなぁ。まっ、でも最近は少し古くするデザインが流行ってるからこれはこれでありなのかもなっ。)
達也はコーラを右手にレジへと進む。
達也「お願いしまーす。」
店員A「ありがとうございます。お会計の方は一点で90円でございます。」
達也「90円!?大胆な値下げですね。」
達也が手に取ったコーラは500mlの物で、安くても120円+税込み(消費税10%)だ。
店員は達也の驚きにとても不思議そうな顔を表にしてこう放った。
店員A「はい???お客様は一体何を言っておられるのでしょうか?90円は普通だと思いますが...」
達也「え?でもでも、90円って消費税も込みで90円って事ですよね??」
店員は更に困った顔をして言った。
店員A「しょ、消費税?そんな物はございませんよ?」
達也は店員が惚けてるのかと思いさっさとここを立ち去ろうと財布から500円玉を店員に渡した。
達也「え〜?もー意味が分からないよ。取り敢えず500円で。」
店員A「500円お預かりし... お客様...大変申し上げ難いのですが、こちらの500円は偽装品ですよね?」
店員は真面目な顔で言ったので達也は少し焦ったが、そんなはずはないと声を張り上げて言った。
達也「そんな訳ないだろ。よく見てみろよ、俺にこんな事が出来ると思うのか??それとも何だ、未来から来たとでも言うのか??」
その通りである。
店員は仕方なしに達也が渡した500円玉を凝視した。すると店員は驚きの一言を述べた。
店員A「お客様。一つお聞きしてもよろしいですか?」
達也は店員の疑問そうな顔付きに少し驚き軽く頷いた。
店員A「硬貨には必ず元号の表記があるじゃないですか?この500円玉に記載されている平成24年とは何でしょうか?明治、大正、昭和なら存じ上げているのですが...」
達也は衝撃に一言に耳を疑った。
達也「はい??それは平成ではなく、平成なんですけど??これくらいは一般常識でしょ??明治、大正、昭和、平成、そして令和でしょ??何を言ってるんですか??」
店員は少し笑みを溢しながらこう言った。
店員A「お客様の方こそ何を言ってるんですか??平成、令和??何かの予言ですか?冗談もいい加減にして下さいね。今は昭和50年ですよ。」
達也はそう言った店員を顔を見てとても嘘をついているとは思えなかった。この瞬間、達也の頭の中にはいろんな記憶が巡っていた。老朽化で汚いはずのマンションの壁が新築のようになっていたり、何度も雨風に晒されて錆だらけだったポストが景色を反射する程輝いていたり、向かいの一軒家に停まっているあの車も。店員の言っている'昭和50年'が体に溶け込むように、自然と受け入れられた瞬間であった。
店員B「あの〜、お客様?他のお客様もお待ちですので...」
達也が後ろを振り返ると少々の行列が出来ていた。達也はあまりの困惑に唖然としながら500円とコーラをそのままにコンビニを後にした。