告白
「行きます…。」
日菜子の返信を見た直哉は、少しだけ驚いたが、内心は「やっと来た」と思っていた。
嬉しくないわけでは無い。
目の前で話す修二とあおいを見ながら、家に帰った後の事を少し考えていた。
日菜子は…
恐る恐る直哉を見た。
直哉は暗がりの向こうで真っ直ぐに日菜子を見ていた。
鋭い眼差しのような気がしてドキッとしたが、直ぐに直哉は笑顔になってこちらに手を振って来た。
また日菜子の携帯が鳴る。
「帰り俺ん家の駅の前で待ってる!」
日菜子は緊張と後悔がグルグルと混ざり合った気持ちでいた。
この後、直哉の家に行ったら
きっと何かが変わる…。
今までの様な生活には戻れない気がする。
穏やかな日常が壊れてしまうだろうか…。
でももう後には引き返せない。
もう昨日の2人には戻れない。
------------
店を出た時はバラバラに帰った。
あおいは2次会に誘われ、私も一緒にと声を掛けられたが、
また会社に戻ってやる事があると言って1人で別れた。
誰も不思議がる人は居なかった。
改札を降りると直哉の後ろ姿が見えた。
「お…お待たせしました…。」
「おお!俺も一本前の電車で来たところ。帰る時大丈夫だった?」
「はい。会社に帰るって言ってきました。」
「俺も一応修二に女と会うって言って帰って来たから。」
「…そのままじゃ無いですか。」
「大丈夫!それが一番自然な流れだからさ!
さぁ、行こう!」
さりげなく直哉は日菜子の手を繋いだ。
日菜子はただ下を向いて
引っ張られて歩く。
「…緊張してる?」
「…。」
「前にも来たことあるじゃん。」
「それと今日は別です…。」
「どうして??」
「どうして??
どうしてって…………どうしてか分からないです。」
「それはね〜〜!」
クルッと直哉が日菜子をのぞいて言った。
「日菜子が俺の事好きな証拠だな!」
言われた瞬間、顔が近くて
日菜子はキスされるのかと思った。
でも直哉はまた前に向き直して歩き出す。
鼻歌なんか歌い始めちゃって、日菜子はどうしていいか分からなくなっていた。
でも、このマイペースな行動が
まさに日菜子を夢中にさせ、
こんなにも好きになってしまったのだ。
今は心臓が口から出ないように、なるべく黙っておくしかなかった。
ピーッ。
ガチャ。
久しぶりに聞いた。
玄関の電子ロックが開く。
「さぁ、来て。」
直哉が日菜子を引き入れる。
引かれるままに日菜子はソファーに座らせられ
そして…そのまま、直哉に抱きしめられた…
日菜子も直哉の背中に手を回す。
「日菜子…。」
静かに日菜子を離し、直哉は真っ直ぐに日菜子を見た。
「結婚してくれ。」
「ん?」
「俺たち結婚しよう。」
「え?」
「結婚して欲しいんだ、俺と。」
「は?」
「だから!結婚するんだ!!!俺と!!!」
「……………………えーーーっと…。
少し早く無いですか?その言葉は?」
「なんで?」
「なんでって、私達まだ付き合ってもないし。」
「え?付き合わないと結婚てしちゃダメなの??」
「いやそう言うわけじゃ無いけど、普通は何年か付き合って、それから結婚する人が多いかと?」
「そうなの?」
「そうです。」
あぐらを組み、腕組みをして、下を向いて悩み始める直哉。
パッと顔を上げて直哉が言った。
「結論!俺はそんなに待てない。」
「は?」
直哉と日菜子がしばらく見つめ合っていた。