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価値観

直哉は静まり返る部屋の中、茶々丸を抱きながら、さっきまでの日菜子とのやり取りを思い返していた。







15分前



「…今日は私、帰ります。」




「いや、何で…。日菜子…。」




直哉は焦っていた。



「…俺なんか不味い事言ったか?


俺は日菜子には何も望まないし、むしろセックスだって望まない。

そのままの日菜子でずっと側にいてほしいと思ったらいけないのか?」



「…。」




「好きなものは全てあげるよ。


服だって、食べ物だって、旅行だって、日菜子の好きなようにして良い。


金も好きなだけ使って良い。


俺は日菜子がただ側に居てくれれば良いんだ。


それじゃいけないのか?」





日菜子はうつむいたまま応えた。


「…今度冷静になって話をしましょう。


きっとお互いの価値観がズレてると思います。」




日菜子は直哉を振り払い、玄関の方へ歩いて行く。



「…ちょっ、待って。」


直哉は日菜子を必死に止めた。




「今日はお酒も飲んでいるし、お互いに感情的になることが予想されるので、別の日に話し合いましょう。」





少し困った顔で日菜子がそう言い、また直哉に背を向けた。



直哉はすがりつくように日菜子の肩を掴んだ。




「俺の事…好きなんじゃないのかよ。」





「……………好きですよ。」



振り向かずに日菜子が言った。





「じゃあ、行かないでくれ…。今日は側にいてくれ…。」




日菜子は振り返り一瞬悲しそうな顔で直哉を見て、また下を向いて答えた。




「…ごめんなさい。気持ちは分かりますが、今日は帰らせてほしい。」





日菜子は玄関のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。



ガチャガチャと何度か試すが開かない。




「…鍵…開けてもらって良いですか?」





「…。」






「…鍵開けて。」





「…。」





「鍵!開けて!!!」



日菜子の大きな声で少し驚き、直哉が急いで鍵を開ける。




…日菜子は振り向かず外へ出て行った。








静まり返る部屋の中を、直哉はただ茫然と立ち尽くしていた。



茶々丸が側に来て、直哉は少し我に帰った。






直哉は分からなかった…。







何がいけなかったんだよ。


俺はただ好きな気持ちを伝えた。


側にいてほしいと伝えた。


それの何がいけないんだ!


全て日菜子に与えるつもりだった。


金も何もかも、日菜子には全て与えるつもりだった。


それで何が不満なんだ。


なんで…


なんで…


なんで…。





…日菜子は俺の事を嫌いになってしまったのか?


今まで積み上げた時間はなんだったんだ。


俺は日菜子を大事に大事にしてきた。


それをどうして分かってくれないんだ。


会社も日菜子と一緒に居たいからあそこまで作り上げてきたんだ。


日菜子がいなければ何も意味がない。


日菜子に嫌われてしまった…。


日菜子に嫌われてしまった…。



もしそうだとしたら、俺は生きていてもしょうがない…。


大切なものが無くなるなら、俺は生きていてもしょうがない…。


俺は…


俺は…。







プルルルル。



電話の着信が鳴る。





気がつくと直哉はベランダに出ていた。



しばらくは電話を無視していたが、しつこく鳴り続けるので仕方なくリビングに戻った。




相手は島田セリカだった。




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