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序章・逢魔が時

 世の中とは得てして上手く行かないものである。

オレが高校を卒業する前の最後の夏、両親が事故に会い帰らぬ人となった。ちょうど家の建替えをしたので蓄えに余裕はなかった。

自分一人ならどうとでもなったがオレには妹達がいた。まだ中学にも入っていない幼い妹達をせめて高校は卒業して貰いたかったので自分の進学は考えていなかった。

高校を卒業したオレは親戚が営む工務店に就職した。本当に良い人たちでオレまで進学させてくれると言ってくれた。

しかしそこまで甘えるのはとしょうもない自尊心で断ってしまった。そもそも将来やりたい事なんてなかったのでこれで良かったんだと思う。

そうこうして生活している内に3年の月日が流れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なあ、兄貴・・」

「どうした優?」

出社する直前、上の妹に話しかけられた。

「今日、ちょっと時間ある?」

「今更進学しないなんて認めないぞ。」

「もうそこは諦めたよ。そうじゃなくて(レン)の事。」

「そういえば来月は恋の誕生日だな。」

下の妹は来月、14歳の誕生日を迎える。優は口調はガサツだがこういう事に気が回せるとても出来た妹である。

「わかった、帰ってから話を聞く。」

「おう、じゃあ後でな。」

そう言うと優は足早に玄関を出た。

「さてと、オレも出るか。」

時計を見るともう7時半を過ぎていた。職場が家から近いとはいえそろそろ出ないと遅刻してしまう。オレは鍵を閉めてから早く帰る様にしようと心に決め職場へと急いだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「くそ、あんなギリギリで言いやがって!」

今日は早く帰ろうと仕事を進めたのに終わる間際に依頼主が「よく見たら思ってた物と違う」とやり直しを要求してきた

途中までうんうんと納得していたのに完了直前で意見を変えなくてもいいだろうに。

結局終わったのは予定より1時間遅れてしまった。

夏とはいえもう日も傾き辺りは茜色に染まっている。

所謂、逢魔が時というヤツだ。

帰りを急いでいると横断歩道に幼い姉妹の姿が見えた。妹達にもこんな時があったなあなどど感傷に浸ってみる。目の前で横断歩道を手を繋いで渡る姿は微笑ましい。

その時、ふと違和感に気づいた。

「前から来る車、スピード出しすぎてないか?」

こちらの信号は未だ青であるのにあれでは止まれないのではないか?

目の前には幼い姉妹、そしてすごいスピードでやってくる車。

「ヤバイ!」

オレはとっさに姉妹を乱暴に突き飛ばす。何とか間n・・


ドシャアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!


突如体に走る衝撃と浮遊感、そして更に衝撃。

激痛の最中、顔面蒼白のジジイが車から出てくるのが見えた。

最近ニュースでよく見る事件が我が身に降りかかるとは思わなかったなどど思いつつオレの意識は闇に溶けていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「災難だったね。」

そんな声でオレは目が覚めた。ここは・・・・

「ここは現世と常世の境、稀人の集う地だよ。といっても地面なんて無いけどね。」

クククと笑うその声は子供の様でもあり老人の様でもあった。

「キミは運が良いよ。死んじゃった人に運が良いとか無いかな?」

「死・・・」

そこで突如記憶が甦った。幼い姉妹。車。血の海。

「ふ、巫山戯るな!!オレにはアイツらが!!!!」

オレが死んだら妹達はどうなる!?アイツらはまだ子供なんだ!

「何と言おうがキミが死んだ事には変わらない。ただ・・・」

方法があるといったら?その声は確かにそう言った。

「どんな事でもアイツらの為ならなんでもやる!」

「じゃあ、カミサマになろうか?」

「は?」

「もちろんここじゃないよ?そんなことしたらボクが怒られちゃう。」

まったく話が見えてこない。いったい何を言っているんだ?

「今からキミが行く世界はカミサマがいないんだ。ある事情で居なくなっちゃったんだ。」

「死んだのか?」

「カミサマは死なないよ。居なくなるだけ。」

「なんでもいい、つまりお前の言うことを聞けば妹達に会えるんだな!」

「ククク、理解が早くて助かるよ。」

声が言うにはデウセレスという世界がありそこは神が不在のため消滅の危機らしい。

「そんな所で神なんかになったら妹のいる世界に行けないんじゃないか?」

「ボクを信じられない?」

「信じるしかないんだろうが。」

またクククと笑うと「わかってるじゃないか」と言うのが聞こえると自分の周りが光っている事に気づいた。

「キミはまだ弱い。取り敢えずまた死なない様にある人の下で修行しておいでよ。」

「誰だ、それは。」

意識が薄れていく。声が遠くに聞こえる。

「その名は・・・」

フドウ、そう聞こえた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「まったく、面倒を残してくれちゃって。」

ひとりぼやく声色は嬉しそうだ。まるでプレゼントを貰った子供の様に。

「さあ、カレはどこまでやってくれるかな?」

その場はそれきり静かになった。

まるで最初から何も無かったかの様に・・・・・


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