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ライバル令嬢がライバルじゃなくなった件

掲載日:2019/03/24

薄暗い路地。古びたローブで姿を隠した小柄な影。

わたしはそれが同級生のフルールという少女であることを知っている。

本名をフルール・ネージュ・コルネール。伯爵家の令嬢だ。

色とりどりの髪を持つこの国でも珍しい透けるような白髪と赤い瞳。

寡黙で何を考えているかわからないが、その儚げな容姿から

ただただ神秘さしか感じられない。彼女に、こんな薄汚い場所は似合わない。

なのに、彼女はここへ来てしまった。その理由を、知っている。


『私から王子を、運命の人を奪おうとする貴女が憎い。それだけで、殺す理由になるわ』


病弱な彼女は、幼い頃ただ一度会ったきりの第二王子に焦がれていた。

だが第二王子の婚約者は彼女ではなくわたし――アルウェト・フィーユ・ジャンシャーヌ。

公爵家の娘で、王子とは曾祖父を同じとする又従兄姉だ。

家柄の釣り合いから婚約者にこそなったが、顔立ちだけなら彼女の方が断然上だ。

そういう理由で嫉妬と憎悪に狂った彼女は、ごろつきを雇って私を殺そうとする。

そんな物語を、物語として知っている世界から私は転生してきた。

わたしが記憶を取り戻したのは今から半年前の学園の入学式。

せめて幼い頃からであれば軌道修正もできたのに、と唇を噛んだ。

わたしは婚約者の第二王子フォコンが好きだ。

命が惜しいからって理由では譲り渡せないくらいには。


だから、わたしはここにいる。フルールがごろつきと直接会って、

私を殺すよう依頼を持ちかける瞬間をこの目で確認するために。

あわよくば、先手必勝で倒すために。


「あなたが、転生者だったらよかったのに。幸せになるのを、手伝えるような」


呟きは隠密行動用の特殊結界に阻まれて彼女にも誰にも届かない

足早にうらぶれた酒場へと入り込む彼女。そっと後を追って窓から中の様子を伺う。



「おうなんだ、オレらに仕事か?」


酒場の中、筋肉質な体に黒いボサボサ髪の男。清潔とは言い難い格好だ。

あの佇まい(デザイン)に見覚えがある。彼がゴロツキの頭目だろう。


「ええ、貴方たちに頼みたい仕事があったわ」

「……あった?」

「私から欲しいものを奪う泥棒猫を殺してほしかったの」

「……ほしかった?」


急に過去形になった。


「でも、そんなの全部どうだっていい!」


ローブを脱ぐ。雪の髪とルビーの瞳が露になる。

美しい姿にヒュウ、とゴロツキたちが口笛を吹く。口元に下卑た笑いを浮かべている。

ただ頭目だけがひゅ、と息を飲んだ。


「会いたかった! 会いたかった! 思い出したの! 今、全部!!」


服が汚れるのも厭わず、フルールが頭目へと縋りつく。


「何を、言って」

「ねえ、わかる? アタシ! アタシよぉ! 見て、これ、全部、アナタの色!

アナタの白! アナタの赤! アタシ、アナタの色よダーリン!」


ゴロツキたちはぽかんと間抜け面。そりゃあそうだろう。絶世の美少女が突然むさいおっさん(頭目)に

抱きついて嬉しそうに頬をすり寄せているのだから。

多分わたしも同じような間抜け面をしている。


「……お嬢さん、あー、その、なんだ、俺はな」


頭目は困惑しながらも、ぽつぽつ言葉を紡ぐ。


「俺は、髪も、目も、真っ黒だろう? 両親に、似てなくてな、それで捨てられて、こんなとこにいる」


呟きにはっとする。この国の人々は色とりどりの髪をしているけど、黒髪はとても珍しい。

そして黒髪は貴族に生まれた場合、捨てられることさえある。

黒髪は魔力無しの証。ある程度の魔法が使えて当然の貴族にとっては忌まわしい色だ。


「でも、一度も、髪色を変えようとは思わなかった理由が、今わかった」


ぎゅう、と頭目がフルールを抱きしめる。

小柄な彼女を潰してしまうんじゃないかってくらい力が入っているようだ。


「オマエの色だ。オマエの黒を、オレは惜しんだんだ! オマエが死んでどれだけ苦しかったことか」

「ッ、ダーリン、思い出してくれたの?!」

「ああ、そうだ! 会いたかった! もう一度!」


なんと。どうやら二人は転生者で、オマケにあの熱烈っぷりは恋人か、そんな感じの関係だったようだ。

しかも前世では互いの色合いは逆だったらしい。あまりに運命的だ。


「フルルフ! マジャジン軍カラス邪ジンのフルルフ!どうかあの頃は呼べなかったハニーと呼ぶことを許してくれ!」

「ダーリン! ロエンロエ!マジャジン軍サギ邪ジンのロエンロエ! ええ、アタシ、嬉しい!」


なんでやねん。

聞こえてきた呼び名に、脳内でツッコミを入れながらズッコケてしまった。

マジャジン軍。『星守戦隊アースV』に登場した悪の軍団で、地球征服を目論む怪人の集まり。

フルルフは第十三話『黒が覆う街』に、ロエンロエは第十五話『悲しみの影を撃て』の怪人だ。

そりゃあまあ確かにロエンロエは『昔馴染みのフルルフの仇討ちだよヒーッヒッヒ』と笑っていたが。

そういえばフルルフとロエンロエは中性的な姿をしていて、性別が公言されることもなかったので

ネット上ではどっちなんだ?と時々話題になっていたなあとそんなことを思い出した。


「……おめでとうフルール!」

「っ、泥棒猫?!」


思い出したので、わたしは窓から酒場に飛び込んだ。


「実はわたしにも前世がありまして!」

「ええっウッソー?! 何邪ジン?!」

「邪ジンではなかったですね。ともかく、お二人は元々思い合っていた様子!

今世でこそ幸せになりたいですよね? なりましょう! ね!」


つかつかと歩み寄って、赤と黒の目を覗き込む。

心臓がやかましく高鳴っているのが、聞こえてないといい。


「お手伝いします! させてください!」

「……えっと、どうする、ダーリン?」


フルーは当惑の表情を浮かべた顔を頭目へと向ける。


「……オレは、この世界で三十年生きてきたソンドレとしてのオレは、手を、貸してほしい」


白い少女を膝に抱え上げて、ぽつりと。


「オレは、ロエンロエだった頃より、ずっと、弱い。きっと、フルルフを、守れない。

オレはもう、オマエを失いたくない。だから、失わずに済む方法を、教えてくれ」

「ロエン、ロエ。アナタ、アタシのために、人間なんかに頭を下げるの?

どうしよう、どうしたらいいの、下等な人間の手を借りるなんて、いやなのに、

そこまでしてロエンロエがアタシを守ろうとしてくれることが、嬉しくて、たまらない!」


頬っぺたを真っ赤に染めて、フルーは男の胸板へ顔をうずめる。

ソンドレ、という男に生まれ変わったロエンロエはその白い髪を愛しげに撫でる。


脳内にファンファーレとサンバのリズムが流れ出してお祭り騒ぎ。

名を聞いた瞬間に思い出した。私は前世ではこの二人がめっちゃ推しだった。


「絶対、幸せにしてやる……!」


ぐっと拳を握りしめて、わたしは誓った。



数年後。平民だけで結成された伯爵令嬢の護衛騎士団の長が、

主でもある伯爵令嬢と結ばれた時に一番泣いたのは、

多分、わたしだ。



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