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女王の斬首線  作者: CGF
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初霜のおりる頃、ソフィアは王宮の客となった。


以前から一日二日泊まる事はあったものの、長期間逗留するのは初めてである。主従共に客用寝室のある続き部屋をあてがわれ、荷を下ろしたのは夕刻であった。



「マルファス国王に挨拶をしてくる」



部屋着に着替える前にソフィアは王の居室へ向かった。今時分は執務を終えているだろうと見ての事である。



いくつもの取り次ぎを済ませ、客間に通された。マルファス王は連合の宗主である故、取り次ぎの数は多くなる。



夕陽の射し込む客間にて直立し、王宮の主を待つ。



「おぉ、ソフィア殿、息災でなによりだ」


「お久しゅうございます。仕事柄登城する機会に恵まれてはおりますが、陛下にお目通りする機会に乏しく、無沙汰をしておりました」



現れたケイレブ・ケイラン兄弟の両親であるマルファス王国の主と妃に一礼する。



「しばし逗留してくれるそうだな?」


「御意」



同じく『陛下』と呼ばれても相手は連合の宗主、ソフィアは国持ちですら無い。


親子程の長幼の差もあり、自然へりくだるソフィアであった。



「如何であろうソフィア殿、冬の間と云わずこちらで過ごされては?ケイレブも喜ぼう」


「さ、それは」



国王夫妻もソフィアとケイレブの仲を知っている。


とはいえ、ケイレブと婚姻となれば王家が一つ消える事になり、なかなか公式に取り沙汰すのは難しい。マルファス王が口にしたのは他に余人が居ない場であるからだ。



「他の王家の方々にも計りませんと決められるものでもありますまい」


「それよ。詮議するにも時間が必要ゆえ、ソフィア殿が心を決めてくれるならば来春にも少しづつ詰めていきたい」


「陛下、早急ですわ。ソフィア殿もお困りでしょうに」



万事控えめな王妃が口を添える。



「ソフィア殿、冬の間はどうか安らいで下さいませ。陛下の今のお話は追々、と致しましょう?」


「ありがとうございます、両陛下方」




マルファス王の許を辞し、滞在する部屋へ戻ると夕陽は沈んでいた。


部屋には夕食の支度がなされている。



「腹が減ったな、食事にしよう……どうした?二人共席につけ」



ソフィアの言葉にセナが苦笑する。



「陛下、王宮ですよここ。私達は控えの間で頂きます」


「……王宮に泊まると面倒だと感じるのがこれだな、家族との晩餐にも気を使う。食事は大勢で楽しむものだというのに」



ほとんど無理矢理に家族と慕う従者兄妹を座らせ、ソフィアは夕食を口にした。





────────


初雪も降ろうかという早朝、窓の下に近衛の練兵を発見したソフィアは、間近に見ようと表に出た。


白い息を吐きながら訓練する近衛の兵達を監督するのはケイレブ王太子である。



ソフィアは邪魔にならぬよう静かにケイレブの後ろに立ち、練兵の様子を眺めた。



「第一隊防御陣、構え!」



ケイレブの声が響くと速やかに陣形が変わった。


兵達は隙間無く盾を並べ、盾を肩で支える様に構えると足を踏み締める。


近衛とは王家を護る最後の壁であるから、防御陣の構築には力が入る。


ケイレブは検分すると次に第二隊、第三隊と防御陣を命令する。その度に前の隊は散開して下がり、後方に集結した。





「なんだ来ていたのか、声くらい掛けてくれればいいものを」



訓練を終えた兵達が解散し、自分も戻ろうとしたケイレブは、ソフィアの姿を見付けて破顔した。



「なかなかの指揮官ぶりだ王太子殿下。これで剣の振り方が様になれば見事な男振りだぞ?」


「云うな、剣の才が無いのは先祖代々だ」



いつもの様に二人、気安い口調で話しながら歩く。



「どうだ?少し剣の稽古に付き合え」


「見るだけなら構わんが、打ち込みの相手にはならんぞ?」



自分の腕を把握しているケイレブは、ソフィアの相手を断ると屋内にある稽古場、そこに設えた長椅子に腰を下ろした。


そうしてソフィアの訓練を眺める。



ソフィアはまず腰に履いた剣を抜き、確認する様にゆっくりと振った。


大気の抵抗を少しでも受ければ、たとえゆっくりでも剣は振りが鈍る。



「綺麗に振るものだなソフィア」


「なに、ケーキナイフと変わらん。刃が斜めになれば切ったケーキの形が崩れよう?それと同じだ」


「ふむ……?ケーキなど自分で切らぬから例えが今一つ解らんな」


「……先程見直したばかりだというのに、自分の評価を下げるのが得意だな」



ソフィアは呆れた様に言った。



ソフィアの剣は執行人としての剣である。


寸分狂わぬ正確さを必要とする為、剣の振り、その確認には余念が無い。その点、一般兵士などの力任せの剣とは違う。



振り方の確認を終えると鞘に戻し、訓練用の木剣を手にする。そうしてソフィアは打ち込み台に向かうと木剣を叩き付けていく。



「やはり綺麗な振りだな、近衛にも採り入れるか」


「止めておけ、私の剣は戦場に向く訳では無い。戦には勢いがものを謂うものだ」



戦上手の家系である。力の無い分を精度で補った故のソフィアの剣は、執行人として特化している事を彼女自身が承知していた。





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