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女王の斬首線  作者: CGF
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ケイラン第二王子は、押し出しの良い兄に比べて線の細い印象を受ける若者である。



彼はソフィアの前に現れると、優しげな顔に悲壮さをにじませ一礼する。



「御無沙汰しておりますソフィア陛下」


「うむ、殿下も息災そうだ……で?まだ明るいが夜這いか?」



思わずギョッとしたケイランだったが、すぐに立ち直ると噴き出した。



「いえ、それは兄にお任せします」


「聞いたか?やはりあやつは種馬だ。陰で何人泣かせている事やら」


「黙らっしゃい……殿下、失礼しました。最近この手の冗談がお気に入りなのです」



顔にシワを寄せて取り繕うセナに、ケイランはくすくすと笑った。



「御変わりがなくてなによりです」


「うむ……面倒なやり取りは止めにしよう、そなたとは幼い頃からの付き合いだ。どんな用事かな?」



ソフィアが水を向けると、ケイランはまた生真面目な顔に戻り一礼する。



「陛下……姉様が休んでおられると聞き、まかり越しました。暴漢に襲われたとの事、よもやお怪我を」


「いやいや、これはケイレブの肘鉄が入っただけの事。怪我などはしておらん」



ほっとした表情のケイランに、女王は続けた。



「しかし、そなたの取り巻きどもは残念であったろうな?」


「……申し訳ありません。姉様に手を出さぬ様言ったのですが」



誤魔化す事も無くケイランは謝罪した。


その姿に女王は彼の覚悟を感じ取った。



「……昔は良かったな、三人でよう遊んだ」


「えぇ、戻れるものなら」


「戻る気は……無い、か」



幼い頃はケイレブと二人遊んでいるといつもついてきた。ソフィアを姉様と呼び、ソフィアにとっても弟と呼べる若者は実の兄を廃して立つつもりである。



「兄が立太子された時点で、こうなる事は決まっておりました」


「まこと、王宮の子供部屋は毒蛇の巣よ。国持ちでない事が一番の幸せと感じるとはな」



しばし二人の間に無音の時が流れる。






「……私はしばらく王宮ここで厄介になろうと思う」



ケイランの目を見てソフィアは言った。



「そなたが引かぬなら私がケイレブの盾となる」


「姉様が盾となるなら、兄は果報者です」



今にも泣きそうな顔のケイランに、女王はニヤリと笑う。



「なに、アレは剣が不得手だ。知っておろう?刺客にあの男のひょうげ踊りを見られたらマルファス王家末代の恥だからな」






────────


園遊会が終わり、ケイレブが顔を出した。


その手には果物の詰まった籠をぶら下げている。



「水菓子なら腹に入るだろうと思ってな、ろくに食って無かっただろう?」


「まめな奴だなお前……一番上にレモンとは」


「妊婦は好むと聞いたぞ?」


「馬鹿め、お前の肘鉄のせいだ。妊婦であるものか」



籠をセレナに預けると、ケイレブは寝台の前に椅子を置いて座る。



「まだ顔色が優れんな……ケイランが来ただろう?」


「先程な」



ケイランに配下があるように、ケイレブにも手の者はいる。そちらからの情報だろう。



「謝りに来た。私には手を出すつもりがなかったとな」


「甘い奴だ。知らぬふりをしていれば良いものを」



その様に考えるところが、国持ちの王族というものなのだろうとソフィアは思う。



「しばし厄介になろうと思う。そうだな、冬の間」



ソフィアの言葉にケイレブは目を丸くした。



「なんだ?冬の薪代を節約したいのか?」


「馬鹿め……ふむ、確かに節約にはなるな」


「なら俺の部屋で過ごせ、二人で熊の様に冬眠としゃれこもう」


「種馬め」






王宮で過ごすにしても準備がある。


ソフィアと二人の従者は一旦屋敷に戻る事にした。女王襲撃に失敗したばかりだ、すぐに王太子暗殺はあるまいと見て、今の内に入念な準備をするつもりであった。



「おぉそうだ、ローワン殿に書類を出しておかないと」


「陛下、また拷問長だの獄卒長だの言わないで下さいよ?」


「なに、ローワン殿は洒落の解る御仁だ」


「ローワン様は洒落が解っても配下の方々が怒ります」



セナを連れて監獄島へ向かう。館内は静かであった。



「ローワン殿、今年最後の書類だ……ずいぶん静かだな」


「あの泣女バンシーがいなくなったからな、ついでに看守が一人死んだ」


「ふむ?」



ローワン看守長は書類をしまいながら言った。



「妙なものでな、後で判った話だが泣女はその看守を見る度に悲鳴をあげていたらしい」



その看守は泣女を追い出した後、間もなく事故で死んだのだそうだ。



「なにやら怪談めいているな?」


「監獄に怪談はつきものさ、私の前任者やそれ以前は拷問が罷り通っていたからな」



監獄島を出て、渡し守に預けていた馬車で王都へ戻る途中、ソフィアは馬車を停めさせた。



「どうなさいました?」


「うむ……少々酔った様だ」



ガタつく田舎道だ、馬車の揺れが効いたらしくソフィアは道端へ降りると林へと歩き始めた。



(……最近、具合が良くないな)



屈んでえずく。胃の中は空だ。



「……っ!?」



顔を上げた時ソフィアは驚いた。




目の前に、見知らぬ女が貼り付く様にソフィアの顔を覗き込んでいた。






────────

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