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女王の斬首線  作者: CGF
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秋の収穫祭が迫っていた。


王都でも収穫祭は行われる。王都に農夫がいる訳ではないが、祭りというものは活気をもたらすものだ。一時的にも消費があがり、経済が活発化する。



収穫祭が過ぎれば冬支度である。


寒さの中では処刑見物などに人が集まる訳も無い。また寒さというものは罪人への同情を集める。どんな極悪人に対しても見物客が可哀想と感じるものだ。


それでは民衆が政道に不満を持つ。反乱の種にもなりかねない。



よって収穫祭から春の祈願祭までの期間、ソフィアの『贖罪』は眠りにおちる。





「暇だな」



暇なのは良い事だ。と、女王は独りごちる。



小春日のテラスに茶を嗜むのは贅沢な楽しみ。


と思いながらも季節の移ろいを肌刺す風に感じて口にする茶はやめられない。



「あぁ……暇だ」


「お暇でしたら『贖罪』の手入れなどなされては?」


「昨日した。たまには菓子でも焼くかな」


「……お止め下さい。セレナが泣きます」


「この間焼いた時はお前もセレナも喜んだではないか」


「あれは初めて頂戴したからでございます。あの後、片付けに泣きました」



女王は笑って伸びをすると席を立った。



「ひどい云われ様だ、なら散歩でもするか」


「お供を」


「よい……あぁ、たまにはセレナと歩くか」


「呼んでまいります」





町娘の成りでは困るとセナに小言を云われ、セレナと二人軍装に身を包んでの散歩となった。


二人とも黒の略式軍装である。赤は処刑人の装具であるから着るのは不味いし、町娘や侍女の成りでは腰に剣を履く訳にもいかない。



街は収穫祭の支度で賑わっていた。



「良い日和だ。散歩にはうってつけだな」


「御意」



往き来する人々の表情は明るい。今年は例年になく豊作であった証だろう。



「これならセナも連れてくればよかったかな」


「……あれは煩そうございます」


「はははっ、兄妹でも煩く感じるか」



子供らが二人の横を駆け抜ける。親らしい女性が荷物を抱えながらその後をついていく。



「……私もあれくらいの子がいてもおかしくないのだな」



母親の姿を横目で見たソフィアが呟いた。同じくらいの年格好だ。





「……陛下」



セレナが声を潜める。


その響きに緊迫感があった。



「解っておる……そこを曲がろうか」



ソフィアが示したのは人気の無い裏通りへの横道であった。






────────


陽の当たらない横道は閑散としている。



道の中程まで歩を進めると女王は足を止め、今来た通りへ向き直った。



「ここらで良かろう」


「御意」



物陰に身を隠していると、表通りから数人の男が横道へ曲がって来た。誰の姿も無い事に気付き足を速める。





その男達の前に女王は姿を現した。



「尾行にしては下手だ。暗部の者では無いな?」



女王の姿を認めた男達の足が止まった。


皆、顔に驚きが見える。まさか気付かれていたとは思ってもみなかったらしい。



「さて」



女王は腰に履いた剣を抜いた。鞘から走った剣の振えが微かにチィィィ……ンと響く。



「尾行は素人だったが、こちらの腕はどうであろうな?」


「うぬ!?」



一人が呻くと男達が次々腰から抜く。


女王独りに五人掛かりだ。狭い路地を一人が先走る。



「ぐわっ!?」



その男の横腹を、身を潜めていたセレナの剣が串刺しにする。



「注意力散漫だ。先程まで二人で歩いていたのだぞ?」



倒れる男を見下ろし、残りの者達に声を掛ける。



「これで2対1という割合だな、数的にはまだそちらが有利だが……?」



落ち着いたソフィアの声に焦ったのか、三人が同時に突っ込んでくる。



……しかし三人が並んで剣を振るうには狭い。



「かっ……ゴポッ」



女王の剣は先頭の喉笛を裂いた。倒れた男が自分の血で溺れる。



「ぎゃっ!」



セレナの剣が一人の手首を弾く。男の剣は宙を舞い、地面に刺さる前に持ち主の方が先に倒れた。



「ち、畜生っ!」



三人目が勢いをつけてソフィアへ斬りかかる。


その脇をすり抜ける様に女王の剣が走った。



どさりと倒れた男から目を表通りへ向ける。



「逃げたか」



最後の一人は消えていた。



「追います」


「いや、捨て置け。すぐに司直の者が来よう」



女王が云った通り、程無くして騒ぎを聞き付け警羅の者達が現れた。



「御苦労、執行官のソフィアだ。暴漢に襲われやむ無く斬った」


「経緯をお聞かせ頂けますか。御同行を」



警羅の前にセレナが立ち塞がる。



「亡国とはいえ女王陛下である。特権にて調書は無用と知れ」


「よい、セレナ。同行しよう」



襲ってきた者達、おそらくハプス男爵の謂う『彼の御方』が差し向けたのだろう。



「やれやれ、とんだ散歩だ」



女王は王太子を思い浮かべ、明日にでも顔を見に行こうと思った。






────────

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