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女王の斬首線  作者: CGF
13/16

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冬の間女王ソフィアは王宮の客として扱われた。


本人は監獄島へすぐ移るつもりであったが、マルファス国王夫妻の慰留があっての事である。


冬の監獄島は暖房などなされない。


腹に王太子の御子を抱えるソフィアを監獄島へ送るのはよろしくない、との建前だが、実際には気落ちする国王夫妻の慰めに置かれたのである。



その様な訳であるから、王宮内ではマルファス国王、もしくは王妃と個別に面談し、今は亡きケイレブ王太子とケイラン王子の思い出話を語り合う相手となっていたのである。




「一度ケイレブ殿下を剣の稽古で散々に打ち負かしてしまい……」




「ケイラン殿下は幼い頃私達の後を追い掛けて……」




「ケイレブ殿下は……」






その日も妃殿下のお相手をした後、ソフィアは部屋に戻るなり寝台に身を投げた。



「さすがにくたびれた、毎日御二人と同じ話で相手するのは」


「御子を全て失った訳ですから、すがる相手が必要なのでしょう。お茶の用意が整いました、寝台でお飲みに?」


「……いや起きる」



身の回りはセナとセレナがそれまで通り世話をしていた。


ソフィアは寝台から席に移るなり、窓の外に目をやった。最近は独り窓を眺める機会が増えている。




それは、今はいない人の姿を探すかの様だった。




暖炉の火があっても部屋は底冷えがする。窓をぼんやりと眺めている内に、茶器からたち昇る湯気は消えてしまった。



「お取り替えします」


「ん?……あぁ、冷めてしまったか」



この様なやり取りがよく行われていた。




窓の外は雪景色だ。今もちらちらと舞っている。



「今日も冷えますね」


「うむ……そうだな」


「夕食の前に湯あみをなさいますか?」


「うむ……そうだな」



気の抜けた返事で茶をすする。またも茶は冷めている。



「浴室の用意が出来ました」


「うむ……ん?風呂か?」



どうやら話も聞かずに生返事をしていたらしい。ソフィアは頭を振りながら湯あみをする。



充分に暖まった身体を姿見に映す。



腹に浮かぶ鏡文字の最後はケイランの名である。



(だいぶ目立ってきたな)



張り始めた腹を軽く撫でると、浴室を出た。


すぐにセレナが着付けをする。



「陛下、先程新任の執行官殿が挨拶に来られました」


「ほぉ、それは間が悪かったな」


「後日改めて挨拶に参るそうです」



暖炉と燭台の揺らめく明かりの中、椅子に腰を下ろしたソフィアは瞳を閉じる。



新任の執行官。




つまりはソフィアの首をはねる者であった。






────────



「この度任官致しました、アロンと申します陛下」



数日後、ソフィアは新任執行官と面談した。


鍛えられた身体をしているのが見てとれる。なかなかの好青年に見えた。



「あぁ、『陛下』と呼ぶのは適切では無い。この場では私もそなたも同じ執行官だ。畏まる事は無い」


「ありがとうございます」


「そなたは近衛に勤めていなかったかな?一~二度見掛けた覚えがある」


「はっ、その通りです」



近衛から執行官では格落ちというものだ。ソフィアはその事を訊いた。



「私は王太子殿下直下の者でした」



アロンという若者は表情を曇らせる。



「……あの日、別の任務に就いておりました」


「そなたが思い煩うべき事では無い。任務を全うしたのなら、それは殿下の喜びと謂えよう」



あの日自分が警護に参加していれば……という思いは近衛一人一人が感じている事であろう。



「……私が出産後、刑に服する話は聞いておるな?」


「はっ、配属を希望しましたのも、ソフィア殿の刑に服された後、執行官の欠員が埋らないと聞きまして」


「うむ、余人に好かれる職では無いからな。故に覚悟がいる。失礼だがアロン殿は……」



ソフィアはアロンの目を見据えた。



「……人を殺めた事は?任務によるものでよい」


「は……任務であれば二~三、抵抗を受けてやむなく」


「ふむ、ならばまだよい。執行官は殺めるのが仕事だ、経験の無い者では務まらぬ」



たとえ腕自慢・力自慢といえども、経験の無い者には酷しいとソフィアは続けた。



「セナ!『贖罪』を持て」



従者の運んできた長剣を鞘から引き抜き、ソフィアは窓からの陽にかざした。



「これは斬首用に鍛えた剣、銘を『贖罪』という」


「……薄い刀身ですな、折れそうな」


「左様、斬首は力任せには無理なのだ。首の関節に滑り込む様に薄くなっている」



ソフィアは鞘に納めると、アロンへ手渡した。



「いずれアロン殿も専用にあつらえるであろうが、それまで預けよう」


「よろしいのですか?御借り致します」





「それで私の首もはねてもらう」



『贖罪』を受け取ろうとしたアロンの掌が止まる。



「王太子殿下を悼む心から執行官を望んだのかもしれぬが、一度きりの仕事では無い。私と殿下の間柄も知っておろうが、職責は全うしてもらう。よいな?」


「……御意にございます」



アロンの真摯な眼差しを受け、ソフィアは微笑んだ。




「では稽古をつけてやろう、まずは剣の振り方からだな。近衛の剣とは違う事、身をもって覚えてもらいたい」







────────

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