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女王の斬首線  作者: CGF
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ケイレブの葬儀はしめやかに行われた。


王宮内にある礼拝所にて大司教の執り行う儀式には、連合各国からの代表、国内貴顕が集い、儀仗装備の近衛兵が警備を司る。




礼拝所での葬儀の式次第が済むと棺が持ち上げられた。代々の王族の亡骸が納められた地下納骨所へ運ぶのである。


大司教を先頭に、棺の後ろを国王夫妻、親族が進む。


常には人の出入りの無い納骨所への石段を、一行は無言で進んだ。



納骨所に並ぶ石棺の一つは真新しい。


その真新しい石棺にケイレブが納められ、蓋が閉められた。



「これにて、葬儀の一切は完了致しました」



大司教が石棺から離れ、先にその場を去る。家族が心の整理をつけられる様、邪魔にならぬ為先に立ったのだ。





「さ、我々も行こう」



国王は妃の肩を抱いて地上への石段へ向かった。


納骨所の扉から王宮の回廊に出た一行を、白い一団が待ち構えていた。



「ケイラン殿下、御同行頂きたい」



近衛兵である。


彼等は葬儀の終わるまで捕縛するのを待っていたのである。



「父上、母上……それではこれで失礼します」



国王と王妃に一礼すると、ケイラン第二王子は近衛に囲まれてその場を後にする。





後には寄り添い嘆く父母の姿だけが残った。







────────



「さて、マルファス国王陛下は貴様達に慈悲を与える事とした」



並べられた席につくのはケイラン王子を神輿に担ぐ派閥の者達────





────ケイレブ王太子暗殺の企画者達である。



「貴様達は公衆の面前での斬首を免除された。王太子は病死と公表される。良かったな、お陰で晒し者にされずに済んだぞ?」



セナとセレナが捧げ持つ盆に人数分の杯が乗せられていた。



「さて、乾杯していただこう」



兄妹の従者が彼等の前に盆を差し出した。震える手が順番に杯を受け取る。



「……か、家族に最期の言葉を」


「ならぬ。貴様ら謀叛人にこれ以上の慈悲は認められぬ」



やがて意を決した一人が杯を空けると、他の者達もそれに続いた。



「ぐっ……!」

「……がはっ!」



何人かが呻き、次々と絶命していった。



「医務官、確認を」



立ち合い人の一人が順繰りに脈をとってまわる。



「執行官殿、確認致しました」


「宜しい」



遺体が次々に運び出されていった。





「お疲れ様です陛下」


「『贖罪』を振るう訳で無し、疲れるものか……帰るぞ」







────────


一日中降りしきる雪は街路に白く積もっていたが、その部屋は暖炉で暖められていた。


赤の軍装に身を包んだ女王は、部屋の傍らで罪人を待っていた。


家具の類い、絨毯まで取り払われた部屋は窓を隠すカーテンだけが残されている。これから起こる事を外に漏らさぬ為であった。




「お待たせしました」



部屋に現れたのはケイラン第二王子。


姉と慕うソフィアの前に一礼する。



「部屋を暖めていただき感謝します」


「……寒さに震えられては執行に差し障る」



処刑人姿の女王はむっつりと言葉を返した。



「ケイラン……何故毒杯を拒んだのだ?」



彼の取り巻き達同様、服毒刑が認められたのだが、ケイランはそれを良しとせず斬首刑を望んだのである。



「計画を聞かされていなくとも、私には取るべき責任があります」



ケイランが王太子暗殺計画の全容を知らされていなかった事は、各人からの取り調べで明らかとなっている。


配下の勝手働きがケイランを首魁に仕立て上げたのだ。





『知らぬ』と一言云えば済む話だ。




だが、ケイランは刑に服す事を望んだ。



「……兄が死に、姉様も刑に服すと聞きました。配下の者達も」



一人おめおめと生き永らえ、あまつさえ王位に就く。


厚顔な振る舞いをし続けなければならない事に、彼は耐えられないと感じたのだろう。



「姉様に首をはねられるなら」


「そなたに対して復讐など」


「感謝します。姉様」



跪く彼の前に首桶が置かれた。



「薬酒だ」



セナの捧げ持つ『贖罪』を鞘から引き抜く。


硬質な、澄んだ音を立てて『贖罪』は白銀に光を放った。


清めの聖水が刀身を伝い落ちる。



「……望むなら、最期の言葉を」


「配下の者達に認められなかったものを、私が望む訳には参りません」



堂々とした態度であった。



「これより執行する」



『贖罪』が風切り音を立て……





……振り抜かれた。




首桶が重い音を立てる。




常に観客へ下げる頭を、女王はケイランに向けて下げた。








────────

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