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「王太子殿下を護り切れなかった咎は私にあります」
国王夫妻の前に跪き、ソフィアは頭を垂れた。
悲しむマルファス国王であったが、ソフィアに罪は無いとかえって彼女を労う。
しかし、ソフィアはかぶりを振った。
「医師・薬師の見立てでは王太子は持って数日、それも私を庇い射られた矢を受けた為」
「それがそなたの罪とは謂えぬ」
「いえ、私が王太子を庇うのが筋でございます」
王族を護り切れなかった咎は死罪にあたる。
「罰は存分に受ける所存、どうか供回りの者達には慈悲を賜りたく存じます」
「そなたはケイレブの想い人、また連合の一員ぞ?死罪など……」
「どの様な理由であれ、例外を作れば政道が曲がります」
「むう……」
執行人としてソフィアは民衆の熱情をその目で見てきた。
例え王族といえ例外をもうけたならば、民の不満は増すだろう。度重なればそれはいずれ爆発する事になる。
国王は唸るしか無い。
「ただ一つ、処刑は一年後に願いたく」
一年後、との彼女の願いに国王夫妻は訝しむ。
「……この身には、ややがおりまする。王太子殿下の」
ソフィアの告げた言葉は国王夫妻を震撼させた。
雷に撃たれたかの様な二人にソフィアは続ける。
「私と共に死なせるのは不憫、わがままではございますが」
「あ……あい分かった」
「ソ、ソフィア殿……陛下、ソフィア殿を免罪出来ぬのですか!?」
妃殿下は泣き崩れた。王太子の妻と望んだ娘が王太子の子を身籠っている。その娘の首をはねねばならないのか?
「妃殿下、免罪はお断り致します」
「な?なぜです!?やや子を残して……」
「先程述べました通り、政道が曲がります。それに」
ソフィアは少し困った様な顔をした。
「きっと大いなる光の許でケイレブは待ちくたびれましょうから。あまり待たせたくはないのです」
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「……大丈夫…か?」
いまわのきわにケイレブは目覚めた。
枕元にソフィアの顔を見付け、声を掛ける。
「あぁ。私を庇うなど、馬鹿なのかお前?」
いつもの物言いにケイレブは静かに笑う。
「つい……ついな?……身体が動いた……」
「このままでは済まさんぞ、きっと首魁を挙げてくれる。だから逝くなケイレブ」
「……色気の…無い……」
「……ケイレブ?ケイ……」
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冥い部屋に男が二人、椅子に縛られていた。
暖炉も無い冷えた部屋である。一つだけ灯された蝋燭が男達の吐く息を白く見せた。
やがて、扉を開けて入ったのは赤い軍装。
「待たせたな。さて」
二人の顔を見比べ、年上と思われる男に声を掛ける。
「首魁の名は?」
「誰が言うか!」
「だろうな、では言わぬがよい」
男の前に立つ赤は、うっそりと微笑んだ。
瞬間。
男の膝に深々と短剣の光が突き立った。
「ぐわああぁぁぁ!?」
「ローワン看守長殿は拷問がお嫌いだそうだ……矢を射たのはお前だそうだな?あぁ、答えぬでよい」
懐から取り出したのは庭師の扱う剪定鋏。
男の握り拳を柄で殴り付ける。無理矢理開かせた指に鋏の刃をあてた。
「ひっ!?や!やめぎゃあああぁぁ!」
「なるほどローワン殿が拷問を嫌う訳だ、無駄に騒がしい」
ぱちり。
ぱちり。
「や、やめ……言う!言う!」
根をあげた男の声に、しかし赤い軍装は不思議そうに首を捻った。
「何を言うというのか?」
「く、黒幕の」
「要らん」
ぱちり。
「ぎゃあああ!言う!」
「要らん」
「な、なんで……?」
顔に嫌悪感を滲ませて、赤い拷問者は言った。
「自分で言わないと決めたのだろう?なら訊く気は無い」
「なっ……!?」
更に鋏を指にあてた時、隣に座らせられた男が叫んだ。
「やめろ!俺が言う!やめてやれ!」
「そうか、それはありがたい」
ぱちり。
「うぎゃあああぁぁ!」
「言うといっただろ!?やめてやれ!」
「首魁の名を貴様が言うのは貴様の勝手、拷問を続けるのは私の勝手だ。この男は王太子暗殺の実行犯だぞ?」
そう言った後、痛みに悶える男の耳許に口を寄せた。
「寸刻みだ」
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