超防水シート
超吸水シート、
超吸水キューブの続編。
「日本人の奴らめ。
これで奴らをぶっ潰せる」
彼は米国天才科学者だった。
彼が発明した超吸水シートでノーベル賞を受賞していた。
人間が食べても安全な、有機高分子ポリマーの超吸水シートは、
強力な保水力を持っていた。
これを使用すると、その保水力で砂漠でも植物が育てられるのだ。
彼は競争相手だった日本企業に先駆けて開発した。
しかし、日本国民は驚くべきことをした。
超吸水シートを使って。
ハンバーグに入れたり、パンのようなモノを作ったり。
(『超吸水シート』、『超吸水キューブ』を読んでね)
でも、そのおかげもあって、ノーベル賞を受賞した。
「今度こそは、完璧に日本に勝ったな」
彼はニヤリとした口から漏らした。
彼が発明したのは、超防水シートだった。
空気は通すが、水や水蒸気の分子は通さないシートだった。
以前に発明した超吸水シートの保水力は絶大だったが、
砂漠で植物を栽培する際、それでもかなりの水が必要だった。
しかし、この超防水シートでプラントを覆えば、
水を逃がすことがなくなり、わずかな水で植物が栽培できるのだった。
「日本人が悔しがる顔が目に浮かぶ」
彼は顔を崩す。
「でも、ちょっと・・・
いや、そんなことは・・・
もう、ないだろう」
彼は首を何度も振った。
彼の発明した超防水シートは爆発的に売れた。
彼は怪訝に思った。
砂漠のプラントに使うには早すぎると思った。
まだ、実験中であり、シートの強度に問題があった。
発注先を確認すると、90%が日本だった。
しかし、相手は総合商社であり、何に使用されているか不明だった。
1年後、日本は激変した。
彼が発明した超防水シートによって。
崩壊だった。
日本文化の崩壊だ。
・・・いや、再生というべきなのか・・・
彼はモニタを見つめる。
日本の料理番組だった。
『このシートでアイスクリームを包みます。
そして、衣をつけて、揚げます』
白衣を着た料理人がゴルフボール大のモノを天ぷら鍋に入れた。
彼の口にはツバがたまっていく。
「完璧な利用方法だ」
ツバを腕で拭う。
『これを使えば家でも簡単にアイスクリームの天ぷらができます。
他にもオレンジの天ぷら、スープの天ぷらもできます』
料理人は続ける。
『天ぷらの弱点は水分が多いものです。
油の熱によって水蒸気となり、膨張して爆発するからです。
このシートはこの水蒸気を逃がしてやることができます。
だから、水分を含んだ素材も天ぷらにできます』
料理人は締めくくった。
崩壊いや再生したのは、和食の天ぷらだった。
超防水シートは超吸水シートと同様、食べられる、環境に優しい素材でできている。
かくして、日本の天ぷら、いや世界の揚げ物が激変したのだった。
彼は苦虫を潰した。
「日本人の奴らは・・・」
それは超防水シートの欠点だった。
水蒸気を逃がさないという名目だったが、
高温の油で揚げる場合、水蒸気の粒子は細かくなり、
シートを通ってしまうのだった。
太陽による蒸発では特に問題ないのだが。
「あつッ」
彼は口をホクホクさせる。
ネットを真似て、アイスクリームの天ぷらを作ってみたのだ。
「日本人め・・・」
彼の目は少し優しくなっていた。
住野よる著『君の膵臓をたべたい」を読んでいて思いつきました。
オレンジの天ぷらを作るには。