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やっぱり駄目な子でした

2016/11/27(改)


暇なのに眠く無いという罠!

目が覚めると外は日が登り始めたばかりの早朝だった。


「知らない天丼だ…」

「いやいや、そこは天井だろっ!」


横で既に起きていたようちゃんからナイスな突っ込みを貰って目が覚める。

ふぁ~と欠伸をしながら身支度を整えはじめる。そしてふと思う。


「お風呂…」

「あー、入りたいな」

「お・ふ・ろ!」

「はいはい、今度な」

「おー・ふー・ろー!」

「わーったからっ!つかそういうのはぴょんの担当だろっ!」


不毛なやり取りの後でそれもそうかと納得し、肌寒い中で宿屋備え付けの水瓶から桶に水を汲んでそれまた備え付けのタオルというには少し薄っぺらい布を桶の水で絞り体を拭いていく。寒くてひもじくて寒いので早々にお風呂をなんとかしようと心に決めながら今日の日程を組み立てる。


「俺は昼位からランディさんの手伝いだけど、ようちゃんはどーする?」

「んー、俺はギルドで適当に依頼でも受けてやっとくよ」

「じゃあこの宿集合にしとく?」


とりあえず降りたらもう一泊とっておこう。でも爆乳さんに合うのが気まずいな。


「そーだな、あと今から武器屋行くけどぴょんも行く?」

「あ、いきたい!」

「おけ!30秒で支度しなっ!」

「ふっ…我が布陣に死角無し!準備は終わってるぜ!」


そんなこんなで一階に降りるとこれまた食欲をそそる香ばしい匂いが鼻を刺激する。


「ねぇ、ハラヘッタ」

「んー、食ってくか?」


そう言って俺達は食堂に入り二人で銅貨1枚払い朝食を食べる。

朝食は謎肉のベーコン焼きと謎鳥卵の目玉焼き。そして白パンに謎野菜のスープだ。


ベーコンは程よい塩加減と焦げの香ばしい味わいに白パンが進む進む。卵は醤油が存在していないがベーコンと合わせて食べると溶けるような黄身の濃厚さとベーコンの塩辛さが相乗して白パンか進む進む。白パンが足りないぜ。

そして最後に野菜のスープだが、ちゃんと動物性の出汁が出ていて、それが野菜の旨味と溶け合うようにバランスが工夫されている。そのまろやかさの中に絶妙なバランスで胡椒のスパイシーさが交ざりまさに絶品のコンソメスープのようだ!

この世界は調味料が足りない分素材の味を引き立てる調理方法が特化しているようで、元の世界に負けない味付けがあるようだ。


「なあ、そのグルメリポートで本でも作れば売れるんじゃね?」


どうやら思っていた事を口に出していたようで周りの視線を独り占めしてしまっていたようだ。

羞恥心を隠すようにどうもどうも、と周りの人に両手を上げて挨拶した後で席で落ち着いていると。ダンディーな口ひげを生やした黒髪オールバックの筋肉質なおっさんがサービスだと言って水気を含んだ白パンのスライスを焼いた物を俺とようちゃんに渡してくれた。


一口食べてみるとほんのりとした甘味の後に濃厚なミルクと濃厚な卵黄、そして白パンの小麦の味を自然な状で結びつけ昇華させているバターの風味。

塩気の多いものを食べた後でのこの濃厚な甘さは砂漠のオアシス!しかしこのフレンチトーストはそれだけで終わらず後味にほんのりとバニラの風味…まさに絶妙!


「もうグルメリポーターにでもなっちまえよ?」


再度集めていた視線には緊張まで混じり、所々でごくりと生唾を飲む音が聴こえる位に皆自分のリポートに聞き入っていたようだ。


改めて恥ずかしさを隠すようにどうもどうも、と両手で挨拶した後、足早にカウンターに向かい、もう一泊する旨と料金の支払いを済ませ、宿を後にする。どうもこの宿は俺達の黒歴史になりそうだ。


因みにこの宿では先ほどのリポートが広がり、宿泊客とそうで無い客、その全てが競って席を埋める様になり、この町一番の食堂として町の名物になったのはもう少し後のお話。




宿を出た頃には太陽の暖かさを感じる程に明るくなっていた。その光にほのぼのしながら大通りにある武器屋に入る。この町には武器屋は一軒しか無く、ギルドの隣に構えている割りと大きめな建物である。因みにギルドも三階建てで結構な大きさはあるのだが、この町で一番大きいのは教会だ。


武器屋の中は防具屋とは違い綺麗に整頓されており、ショーウィンドーなどもあ設置してある立派な作りだった。それでも中古品が木の箱に適当に放り込まれているクオリティはどこも一緒なようだ。

俺達はショーウィンドーに入っている金貨うん枚する剣や、そう言えば持ってなかった盾、長弓やクロスボウと一通り見ていると店員さんがようちゃんに近づいて話しかけて来た。


「そちらの剣は鞘もしっかりしていて粗も無く、名のある剣匠のものとお見受けしますが、良ければ拝見させていただいてもいいですか?」


やっぱり創造ってチートなんだなあ、と思いながらようちゃんから剣を受け取っている店員を見る。

なんとそれは今までに見たこと無いような美人さん!いや、まじ美人すぎて怖い位。キューティクル全開のさらさら銀髪ストレートロングの髪にスーっと通った鼻。赤みの差した純白の肌質をもつ頬。シャープな顔立ちに線の細い目。

更に特徴的なのは長い耳!初めての異種族交流です!どう見てもエルフ!

前の世界なら間違いなくスカウト…いや、本気のナンパをしてましたとも!


ようちゃんの顔も心なしか惚けて居るように見える。


エルフな女性は剣を鞘から抜いて剣身を見てこれまた惚けている。


「鋼のような鋭さと重圧…銀のような曇り無い剣身…柄は重心を計算しつくしたような完璧なバランス…あぁ…」


更に何処からか取り出した鍛冶道具を使って柄から茎を抜きだし、銘が無い事に落胆しつつもその茎のバランスがどうのこうのと誉めちぎっては身悶えし、独り言を呟きはじめる。


あれ?この人ちょっと駄目な人かも…

そう思っていると、あなた!と叫び、ようちゃんにビシッ!と人指し指を指す。


「こんな素晴らしい剣を持っていながら、ちゃんと手入れしていないなんてどういう了見かしら!?」


「「え?」」


つい俺まで反応してしまう。


そうして残念なエルフは何処からか取り出した手入れ道具を使ってようちゃんに手入れの仕方を教え、サービスよ!といいながら手入れ道具一式をようちゃんに押し付けていた。

困惑してるようちゃんも可愛いよ!


一息ついて落ち着いたのか落ち着いてないのかようちゃんに何処で買ったのかとか色々詰めよっている。


その矛先はついに此方に向いて来た。

よ、ようちゃん、俺には荷が重いぜ…


「これはあなたが作ったの!?あなたの名前は!?誰に師事したの!?何処の出身!?鉱石の入手経路は!?彼女居るの!?加工の方法は!?………etc」


俺はそれはもう必死になって鍛冶の知識をフルに創造から絞り出し、彼女の有無は関係無いだろ?とか思いつつも仮にも美人からの質問なので悪い気もしないので全てに満足行くまで答えてあげた。ようちゃんは飛び火しない様にその場から離れて商品を見ていた。コノウラミ、ハラサデオクベキカ!


そうして一通り聞き出して満足いったのか、やっと落ち着いた駄目フ(え?駄目なエルフだから駄目フだよ)はやっと自己紹介を始めた。


「ふぅ、質問ばかりしてしまってごめんなさい。わたしは鍛冶職人のメル・アウディアよ。」


曰く、彼女は本来冒険者なのだが、昔お世話になったここのオーナーに頼まれて留守中の店番をしているらしい。

オーナーは絶賛新婚旅行中で今いる国、アルスフィア王国の王都に行っているらしい。


因みに俺の方の自己紹介は質問責めの中で大方…綺麗さっぱり丸裸になる程に終わっている。異世界転移の事は言ってないけど。


「良かったら今から鍛冶について私と語り合いましょう!」


何を言ってるんだこの駄メルは!因みに駄目なメルだから駄メルだよ。


「え…お客さん結構来てるし、かなり並んでるよ…?」

「そんなの気にしなくていいわよ!」


自分の店じゃないんだから気にしろよ!とか思っていたが、今では店員に間違われたようちゃんが何故かカウンターに立ち、表記の値段を見ながら会計を始めていた。やーい!ざまぁ!


「えーっと…今日はこれからランディさんの店で手伝いがあるので、あし」「それじゃあ、それが終わった頃に迎えに行くわね!」


うぉぉぉい!こいつなんか勝手に決めやがった!美人ならなんでも許されると思うなよ!今日は手伝い終わったら鉢合わせる前に直帰してやる!


そんなやり取りが終わり、ようちゃんが一通り客を捌いたのを見て店を後にする。駄メルに後でねー!なんて凄く可愛らしい笑顔で見送られながらギルドに向かう。


「ぴょんやるなっ!」

「ふざけろっ!確かに美人だけどあれは駄目だろ!駄メルだろっ!」

「もう呼び捨てする仲か!気使ってレジやった甲斐あったな!」


ようちゃんも駄目な子だった。俺は初めて異世界の恐ろしさを思い知った。


ギルドに到着すると、俺達は依頼の張ってある掲示板を見に行く。


依頼は基本的に素材の収集系が多く、その中に危険な魔物の討伐が然り気無く紛れてる様だった。


「今日はようちゃん1人だから簡単な収集系にしとこう?」

「うーん、そうだな」


ようちゃんはそう言って魔物素材の収集依頼を手に取っていた。いやいやいや、ようちゃんどうして戦闘必須なクエスト選んでる?そんな思いをぶつけようとしていると、横から声を掛けられる。


「ほう、グラスウルフの毛皮か…」


そこにはダンテさんが立っていた。ダンテさんはブロンズ冒険者で、基本的に即席パーティーやソロをメインに活動している人だった。

得意な武器は短剣だけでなく弓などの遠隔武器も扱える立ち回りの広い人で、即席パーティーを行う際には多才であるのは大きなアドバンテージになると教えてくれた。


「ヨウは星4つ持ちなんだってな!道理で強い訳だ!だが、まだまだ剣筋なんかも甘いし戦闘経験は少なそうだから今日は俺とパーティーを組まないか?心得くらいなら教えてやれるぞ?」


心配性の俺としてはありがたいお言葉だった。


「ようちゃん良かったじゃん!今日一緒に行ってみなよ!」

「ん?ユウは行かないのか?」

「俺はランディさんの手伝いがあるから行けないんだ。だから何卒ようちゃんをお願いします!」

「はははっ!同い年とは聞いていたが小さい方が保護者役か!」

「「です!」「ちげーよ!」」


なんてやり取りをした後で、ようちゃんはダンテさんと組む事になり再三うちの子をお願いしますと言ってポーション5個をダンテさんに押し付ける。お!このポーションは!と呟きながらダンテさんはポーションを仕舞い、また後でと言って二人は掲示板を見ながら話始めていたので、俺はもう一つの用事の為に依頼カウンターへ向かう。


「いらっしゃいませ!ご依頼ですか?」


今回は茶髪ボブカットの利発そうなお姉さんだ!一瞬、奥にいるおば、、お姉さんと目があった気がするが気のせいだろう。


「緑引草の葉を30枚依頼します。」


緑引草とはポーションの材料になる薬草の名称で、そろそろ心もとなくなっていたのでお願いする事にした。


「畏まりました。依頼料はいかがなさいますか?」


詳しく聞くと、注意点を3つ教えてもらった。

一つ目は、依頼する際には依頼したものに対しての金額をこちらから提示する事が出来、それが相場より少くても問題は無いのだが、受注効率が下がり、大抵は普通より日数が経ってしまうという事。

2つ目は、依頼する際にはギルドにも手数料を支払わなくてはならず、依頼料の1割を支払わなければならないという事。

最後は、依頼掲示期間は5日であり、銭貨1枚を手数料に乗せる事で3日ずつ延長していけるという事。


俺は掲示板で相場は見ており、緑引の葉1枚に銭貨8枚だったので、少し高めに緑引の葉1枚に青銅貨1枚の報酬を設定して依頼する事にした。


「それでは依頼達成時には銅価3枚となりますので1割の青銅貨3枚と合わせての支払いになります。失敗もしくは期限切れの際には依頼料は返却されますが手数料は戻りませんのでご注意ください。」


青銅貨4枚を渡してお釣りを受け取る。


「それでは先ほどの内容で依頼を受注させていただきます。商用カードか国民カード、もしくは冒険者カードの提示をお願い致します。」


因みに国民カードとは教会で作ることの出来る国内限定の身分証で、基本的に農民や地元民、地元自営業の人達が使っているカードだ。俺は冒険者カードを提出して手続きを済ませる。


「因みに一つ聞きたいのですが、これを売りたい時はどうすればいいですか?」


そういってポーションを取り出す。


「そちらは商用カウンターの方をお使いください。」


そういって商用カウンターを促された。

しかし、そろそろランディさんと約束した昼前位の時間なので今回は見送る事にしてお礼を言ってギルドを後にする。


待合室にようちゃんとダンテさんが居なかったのでもう行ったのだろう。とりあえず心の中で頑張れ!と言っておいた。

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