魔王やめて神になる
2016/11/20(改)
向こうでは夜だったのだが、こちらはまだ太陽?がてっぺんにあるあたり昼間のようだ。空気の質感が全く違い、深呼吸するとむせそうになるが、すぐに慣れてくる。
目の前は一面の木、木、木。森の中に飛ばされたようだ。
自分の手を見てグーパーを繰り返し、なんとなく動きを確かめてこの世界での自分を実感する。服装は元のものと同じ。
そして隣にいるようちゃんと視線を合わせる。
だが一瞬困惑してしまう。もともとイケメンだったけど今は何処の王子さま?という風貌だ。暗めの茶髪だった髪は燃える様な紅蓮、正に炎を体現したような幻想的な朱色となり、それと同じく瞳も紅蓮。さらに顔立ちも、パーツなどの特徴は引き継いでいるものの西洋風に補正が掛かっている。多分慎重も若干の伸びてる。気がする。
「ようちゃん?」
流石に疑問系である。
その超絶イケメンに声をかけるとイケメンもこちらに気づき視線を落とす。
「うわっ!ぴょん?うわあー、チビじゃねーかよ?理想残念じゃね?つか白髪かよ」
なんかいきなりディスられた。なんでも俺の容姿は160センチ程の身長で白髪に蒼い目、やはり元の日本人顔から西洋風にビフォーアフター。これで眼帯とか着ければどこぞの悪魔みたいな執事と契約出来そうな仕上がりだ。眼帯着けようかな?
「いやいや、よーちゃんも頭燃えてんよ?しかも王子顔で居酒屋の格好ミスマッチだし」
二人じゃれあいつつもお互いに自分の姿が見えないので取り合えず休戦協定を結び、目の前の親友の姿をみて本当に異世界に来たんだと実感し、口がにやける。
ようちゃんも同じ事を思ったのかようちゃんの口端もつりあがり目が合う。
「目指せまおー!」
「おう!」
そうして俺達の異世界生活が始まった。
「よっし、それじゃあステータス確認しよー」
ステータスと念じると視界にウィンドウのようなものが出現し、ステータスが表示される。それに一瞬驚くがVRRPGみたいなもんかなと納得し、ようちゃんを確認するとようちゃんは宙を見て唸っているのでようちゃんも確認中のようだ。
相手のステータスは見えないんだなと確認する。
あの井戸のお化けみたいな女、もう貞子でいいや。から力を貰ったときに自分の能力について全て理解することが出来た。不思議能力である。
そういえばと自分のステータスを確認する。
【魔族:朝木夕(仮) Lv.1】
〈刻印〉『創造』
〈加護〉「幸運」
〈スキル〉
〈魔法〉
ステータスはレベルくらいしか数値表示できないしスキル確認位しかできないのでちょっと微妙だった。
順番に確認すると〈刻印〉は魂に刻まれた力らしい。これも理解したものだがそうとしか分からなかった。
そして『創造』は文句なしのチートだった。
対価を払えばどんなものでも創りだせる。どんなものでもだ。対価というのは3パターンあり、『金』『魔石』『材料』の何れかを指している。『金』はそのままなので割愛し、『魔石』というのはこの世界の魔物の心臓の事で、文字通り魔力の込められた石だ。そして『材料』とは簡易化され要点を押さえた材料。例えば鉄の剣を作る為には鉄と柄に使う木材そしてグリップに必要な革を必要とし、更には製作過程で炉に使う炭や打ち水、蝋と挙げればキリがないのだが、この『創造』で必要なのは『鉄』だけである。他の材料や変形するエネルギーはどこから来るのかと気にはなるが、とりあえず便利な事に変わりはないので深く考えるのは止めることにする。
更に『創造』にはあらゆる製作スキルの熟練度に補正がかかるという事と製作しようとするものの知識を必要に応じて引き出せるというおまけまで付いていた。
貞子様ありがとうございます。創造だけに想像以上でした。
最後に『加護』については神の贈り物という詳細だけで大した事は分からないけど、きっとこれも貞子様のくれたものだろうし、いいものだと思う。因みに幸運は運気上昇らしい。
「ようちゃん…俺、神になったよ」
「魔王になれよ」
なんて突っ込みを入れられながらお互いに能力を伝える。
そして分かったようちゃんのステータスはこちら!
【魔族:鈴木陽(仮) Lv.1】
〈刻印〉『破壊』
〈加護〉「生命」
〈スキル〉
〈魔法〉
というラインナップです!因みに『破壊』も勿論チートです!
詳細としては、攻撃にあらゆる属性、デバフ乗せ放題で、破壊する度に破壊したものに応じたステータスボーナスが入るというもの。数値は見えないが上乗せされるなら戦闘力天井知らずですね。分かります。
それともう一つ、あらゆる戦闘スキルの熟練度に補正がかかるという事と戦闘知識を必要に応じて引き出せるというものだ。
もう戦闘はようちゃんに丸投げでいいかな?
ようちゃんの加護である『生命』は生命力上昇というものでやっぱりわかり辛い詳細だった。とりあえず貞子様ありがとう!
「そういえば俺ら魔族になったんだな」
「なんか魔族と裸族って聞き違いしそーだね」
「裸族で魔族ならありじゃね?」
「そういえば名前カッコ仮になってて変えれるっぽいけどどーする?」
「んー、とりあえず落ち着ける場所に行ったら考えよ」
とりあえず名前とか今は困らないので後回しにする。
お互いに詳細を確認した所で現状の確認をする。
見渡す限り森であるという事しか分からないので当てもなく前進する方針に決まった。
魔物という存在に遭遇する事を前提に考えると、自分達は武器を持っていないので、とりあえず大きめな石でも拾ってみる。
こいつ投げつけたらダメージなりそうだな、とか考えていると突然頭の中にレシピが浮かぶ。
おおっ!とつい口に漏らしつつ、脳内のイメージを確認してその辺から手頃な木の枝を無理やり折って創造する。
すると石と木の枝は光の粒子となって混ざり合い別の形を浮かび上がらせて形を作る。片手用の石斧が完成した。
魔法みたいだと感動したが、はっ!としてようちゃんに自慢しようとするも、こちらを見ていない。なんかイラっとしたので怪我しない程度にようちゃんに投げつける。
「いたっ!なんだ?」
「魔物対策でようちゃんにあげるっ!」
「どっから出した?つか何怒ってんの?」
「なんでもないっ」
というツンデレを演じるとようちゃんは不思議そうに石斧を拾いあげ、進み始める。ようちゃんの手のサイズに合わせて作ったよ!
そうしてしばらく当てもなく進むと小さな小川らしきものが見えてきた。
「こういう水場は生活で必要だから下ってけば村でもあんじゃね?」
そんなようちゃんの豆知識を信じて小川を下ろうかと近づいてみると、そこには3体の緑の子供ゴブリンさんみたいな奴らが焚き火をしている所だった。
ゴブリンさんはこちらの足音に気づいていたのか各々が自分の獲物を持ってこちらを向いて威嚇している。俺フリーズ。
「ようちゃん、俺、刃物むり…」
「期待してないから任せろ」
目線を外さずにそんな会話をする。
もうようちゃんイケメンすぎてやばいよ!
とか考えていたらようちゃんが動いた。
ようちゃんは少し離れてる一体に狙いを定め石斧を振りかぶり、投げた。
獲物を投げるとは思わなかったのかゴブリンは避ける余裕も無く直撃して頭部の半分ほどにめり込み、構えていた短剣を落とす。それを皮切りに二匹がようちゃんに狙いを定めて棍棒と長剣を振りかぶる。
しかし、それが当たる直前にようちゃんはバックステップをして避け、落ちていた短剣を拾い無駄のない動きでスローイングすると長剣を振り切ったばかりのゴブリンの腕に命中させる。
短剣を腕にくらい長剣を手放したゴブリンに一気に間を詰め膝蹴りし、ゴブリンは3メートル程吹き飛ぶ。
それを見送る前に棍棒を持ったゴブリンのスイングがようちゃんの横腹を打つ。しかしそれに一切怯まずに肱落としを決め、ゴブリンの頭部が歪む。吹き飛ばされていたゴブリンが起き上がり武器もなく突っ込んできたところをようちゃんは大振りの蹴りを当てる。ゴブリンは物凄い勢いでくの字に曲がり木にぶち当たって活動を止めた。
体感的には一瞬だった。
「ようちゃんって…何物?」
「なんとなく出来た」