油断の先で
今日はお休みなのでたくさんかける!
迷宮を出た俺とキリエは最初にウォール魔法道具店へ向かった。
中へ入ると緑頭のウォーリーがかなり馴れ馴れしく近づいてきたがそれをキリエが首元に刃を当てて阻止する。
「いやぁー、マジ本気で作り込みんだんすよ!この駆動部分とかヤバくないっすか?魔石一個一個、壊さないように削り出すのとかマジやばかったっすよ!?」
とりあえずこいつの言葉は今一訳が判らない。
とりあえずその義手をよく見ると、中はどういう原理か判らないが、外側はプラチナで加工された小手が覆っており、シンプルでかつ格好いい!さらには手の甲から指先の稼働部分に関しては3ヶ所関節ではなく、4ヶ所の関節を導入しているので自然な手の動きが再現出来そうだ。
俺は早速取り付けて貰うように頼む。するとウォーリーが渋い顔をして断る。
なんでも義手を取り付ける為には一度傷口を開けて、骨部分と魔石の部分を接触させた状態で回復魔法や回復薬を飲んで接続しなければならないようだ。
俺は目玉が飛び出したりなんなりでその変微妙に慣れてきたのでキリエにやってもらう。
ポーションを準備して、よろしく!というとキリエはスパンっと表面の皮膚だけ切り落とし、義手を一瞬で骨に当てる。
骨に直接当たった瞬間の痛みはかなりのものだったが、何とか食い縛りポーションを飲み干す。すると義手と腕の皮膚が不思議な感じで絡み合い、そこに魔力を通すとまるで最初から自分の腕だったかのように自然に動かすことができた。
ウォーリーに凄いな!と感想を伝えようとしてそちらを見るとまたしてもウォーリーは床に倒れていた。血が苦手だったようだ。
キリエもキリエで主様に刃を向けた罪とかなんとか言って自分の腕を切り落とそうとしていたので本当に面倒くさいが止めたり叩き起こしたりで色々大変だった。
落ち着いた後でウォーリーに聞いてみる。
「所でこの腕なんだけど、ツヤ消しとかなにか出来ない?ピカピカしてて目立ちそう!」
「折角上等なプラチナをくすませるのかっ!もったいねぇな!けど、まぁ、塩化させりゃあ黒っぽくくすむだろうが、そのままのが格好いいぜ!?」
「そうか?うーん…キリエもそう思う?」
「私もそのままの方がいいと思います」
そいってキリエは頷き、隣でクロトも頷いている。
「うぉわっ!クロちゃんはいつから!?」
クロトは何を言ってるんだ?という顔で答える。
「ウォーリーさんが″ぎぃやあああああぁぁぁぁ!!!!″ って避けんで倒れる辺りから居ましたですよ!」
「今日は叫んでねーよっ!」
そしてクロトは改めて此方に振り返り、90度直角に頭を下げてお礼を言う。耳がぶつかってふわっとなる。なにこれ可愛い!
「先日の鎮圧を止めてくださったのは魔王様ですよね?ありがとうございます!」
なんだ、普通の言葉も喋れるのか。
「けどけど、大変なのであります!この前の鎮圧騒ぎが終わってから大人達が本当に暴動を起こそうとしてて僕じゃ止められないのですよ!!」
この都市は本当に厄介事が絶えないな、と苦笑する。
ウォーリーをチラッと見ると何も聞こえないぜ!と言ってヘッドホンのような物を耳に当てて音楽が流れているのか勝手にノリ始める。なんだかんだこいつはいい奴なんだなと思う。
クロトに向き直り伝える。
「それじゃあ、俺をそこまで案内して?」
俺とキリエはクロトの案内で下水を通っている。匂いがひどく、衛生面も悪そうだ。こんな所に追いやられたら俺でも暴動を起こすなと自嘲する。
ついた所は亜人の居住スペースとなってる区画の様で、空気が籠っている為獣臭さや生臭も相まって余計に臭いがヤバい。
「みんな!魔王様を連れてきたですよ!」
クロトがそう叫ぶと奥の方から巨大な体格をした熊耳のおっさんが鋭い視線を向けて此方にやってきた。
「てめえがクロトをタブらかした人間が、のこのここんな場所までやって来て帰れると思うんじゃねぇぞ?」
どうやら心まで荒んでしまっているようだ。まあ、こんな場所なら当然か。
「どうも!魔王やってます!変わりに教会ぶっ潰しに来ました!夜露死苦!」
「主様、最後は死語です」
突っ込みがあるってなんて素晴らしい!
そう思っていると、熊さんはふざけんなと言って殴りかかって来た。
キリエが動こうとしていたので俺はそれを制してその拳を何もせずに受け止める。
顔面を思いっきり殴られ多少よろけるが、痛くない。
俺は熊さんを見据えて問う。
「それで満足しましたか?今ので気は晴れましたか?無理ですよね?こんな場所に追いやられてゴミ以下の扱いされて無念ですよね?」
熊さんは黙っている。なので続ける。
「だから俺が教会をぶっ潰してきます。その後はこの都市から出るなり許せるなら共存するなりしてください。俺は貴方達を救う為でなく、俺がムカつくから教会を潰すだけです。ただし、それで貴方達が他の人間を同じように虐げたのなら、その時は貴方達をぶっ潰します。」
俺はそう言ってクロトの頭を撫でてから背中を向けて立ち去る。
「ま、待て!おまえは、お前はどうしてそれを俺達に話した!」
「貴方達が暴動を起こして、この都市の偏見を持たない人間に嫌われて欲しく無かったからかな?」
俺は今度こそ足を止めずに下水の出口へ向かう。正直ここの臭いは堪えられない。その現実が余計に教会へ対しての殺意に変わる。
外に出て俺は深呼吸をした。外の空気って素晴らしい!
「さーて!教会ぶっ壊すか!」
そう呟いた時、後ろから声を掛けられる。
「ユウ君…?」
そこにはゴブリン殲滅戦の時に見た装備を纏ったメルがいた。
「メル…?」
メルは俺の声を聞いた瞬間胸に飛び込んできた。流石にキリエは空気を読んでくれた。
俺はメルの頭を撫でてやる。しばらくそうして落ち着いてからメルは口を開く。
「さっき教会ぶっこわすって言ってたけど…」
「あー、それね…今からぶっ壊してくる!」
そう言うとメルに小一時間説教された。なんでそんな危ない事しようとするのやらなんでもっと静かにやらもうちょっと自分の事をやらエトセトラエトセトラ。
一通り聞き終わってからもう一度ちゃんと告げる。
「メルを苦しめるような世界は俺がぶっ壊す!」
するとメルは、分かったと静かに言ってその代わり一緒に手伝わせて?と聞いてくる。
本当はメルに危ない事をさせたくないのだが、メルも同じ様に思っているのだろうなと折れる。
その代わり危なくなったらすぐ逃げる事!お互いに!と決めて一緒に教会へ向かう事となった。
途中メルとキリエが自己紹介をしていたが、なんとなく気まずかったので聞いてない振りをしていたが、予想外に二人は仲良く会話をしていたので少し驚いた。
言葉少ないキリエからあれだけ言葉を引き出すとは、メルやるな!
教会へ到着すると、そこは戦場だった。
ようちゃんの背中にヤンデレ少女が乗って仲良くしているし、豚みたいなザビエル頭の豚、じゃなく司教らしき人物がようちゃんに向かって何か魔法使ってるは、教団兵らしき人部がようちゃんを囲もうと集まってきてるはで正直状況が飲み込めない。
とりあえず一度見なかった事にしてもう一度その戦場に足を踏み込む。
「たのもー!魔王様、降・臨!」
「ユウ君それ辞めたら?」
今回の突っ込みは手厳しい!
そのザビエル頭は此方をギロリと睨むと急に張り付けた笑顔をつくって挨拶をしてくる。
「初めまして、私はヴァン・アメット司教です。入信ですか?死にますか?」
「うわぁー、引くわぁーでも意外とこういうキャラ嫌いじゃないんだよなぁー」
「お褒めに預り光栄です!それでわ貴方も神の為に死んでください!」
そう言ってヴァンは詠唱を始める。
そういえばとようちゃんを見るとようちゃんの足が膝まで埋まって動けなくなっているようだった。
ようちゃんなら自分で引き抜けそうな気がするんだけどな、と思っていると気づいたら俺も足が膝まで埋まっていた。
まあ、くの位の雑魚は余裕だろうと考えていたが、どうも俺の周りは喧嘩っ早い。
足が埋まった俺を見たキリエがヴァンに飛びかかるが、それを教団兵が許さずボウガンの矢でキリエを狙い、魔法が障壁を作る。
ヴァンはキリエを見てニヤリと笑うと、呪われた血筋に裁きを!と言って詠唱する。
『煉獄より訪れる裁きの門よ!』
このフレーズは似たようなものを聞いたことがある。迷宮のキエルだ。
『罪人の魂に永劫の牢獄を!』
俺の時は何も起きなかったが、それでもヤバいと思いキリエの元へ進もうとするが足が動かない。
『喰らい尽くせ!』
キリエの足元に魔方陣が展開する。その刹那、メルがキリエを魔方陣から押し出し魔方陣から伸びた腕がメルを飲み込む。
最後にメルは俺に視線を合わせて呟いていた。
「ありがとう」
その一瞬の出来事に時間が止まる。思考が止まる。音が止まる。
なのに周りの時間が進んでいる。
俺はメルが沈んだ地面を見る。
何もないただの地面だ。
そこに向かおうとして足が動かない事に気づく。
邪魔だ。
俺は氷の剣で自らの足を切断し、倒れ混む。
俺は這ってメルが消えた地面までたどり着き地面を掘る。
助けなければ。掘っても掘ってもメルは出てこない。
時間が動く。思考が回り出す。音が聞こえるようになる。
「無駄だ無駄!呪われた血は煉獄の檻で永劫の責め苦を味わうのです!」
視界の先でようちゃんがようやく地面を破壊してヴァンへ向かって飛びかかっていた。
しかしヴァンは一瞬で俺の目の前へ現れていい放つ。
「ゴミはゴミ箱へ捨てるものでしょう?」
何かがプツンと切れた。
「煩い」
俺は身体中の魔力を放出し、周囲一帯を氷の世界へと変貌させる。
頭上には千を越える氷の剣が空を埋めつくし、その切っ先をヴァンへと向ける。
ヴァンは呆気にとられた様に空を仰いでいる。
俺は氷で作った足を支えに立ち上がり、ヴァンの首を握りいい放つ。
「もう死ねよ」
その瞬間頭上の剣全てが俺を巻き込みながらヴァンへと向かい突き刺さる。
逃げようとしていたが、首を義手で絞められ逃げる事も叶わない。
しぶとい
千の剣全てが刺さっても尚息をするヴァンの首に更に力を込める。
「神…に逆ら…う、亜人…など」
もう聞きたくない。
俺は残り全ての魔力を義手へ集めてその首を握りつぶした。
それと同時にプツリと糸が切れたように俺も力を無くし倒れる。
また真っ暗な世界に意識が落ちる。
それが今は心地いいと思う。




