王の試練
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「ひ、人族か!何者だ!」
「さっきのやり取り無かった事にしやがった!!」
今度は頭上に5本の氷の剣を創造して「踊れ」と詠唱するとその場で急回転を始め、その刃を自分に向けられている槍に向けて放つとの5本とも槍の先端を落として地面に突き刺さる。
意外と詠唱ってなんとでもなるんだと思う。
「これでその向けられている槍が何の意味も無い事はご理解頂いたかと思うけど」
俺はそう言ってからゴホンと咳払いをしていい放つ。
「我輩は魔王である!」
その瞬間目の前の亜人達は一斉に跪いた。
なんか思ってた反応と違ーう!
俺は一番偉そうな獣人に案内されて一番大きいボロ家に入った。どうぞどうぞと目の前にビーフジャーキーのような物やお茶の様な物が出される。
こんな場所に肉あるんだなと思い詳しく視ると「ヘルハウンドの干し肉」と表示されたので食べない事にした。つまりゾンビ肉だろ?無理無理!
一応と、お茶の方を視るとそちらも「人食い花の煎茶」と表示されたので遠慮する事にした。
偉そうな獣人はゴホンと咳払いし、話はじめた。
「私は村長のヒオルと言う。貴方は本当に魔王になられるおつもりか?」
「二言はないよ」
俺は簡潔に答える。すると、おお!と回りがざわめくがそれを制してヒオルは続ける。
「何故魔王になられたいのか御聞きしてもよいだろうか?」
俺は所処暈しながら神から力を貰った事。前魔王の娘に恋をして彼女が平和に暮らせる世界を作りたいという事を話すとヒオルは納得した後で大笑いする。
「まさか一人の女の為に魔王になろうとするとは正に漢よ!気に入った!私はお前さんを信じよう!しかしそれには条件がある!」
なんだこのおっさん偉そうだなと思って聞いてみると、昔から迷宮を制する者は王になる資格が与えられると言われ、迷宮を征する事を「王の試練」と言われてきたのだと言う。
そしてこのヒオルの一族は代々魔王に使えて試練を執り行う監督者として存在しており、その試練を見守った者は生涯をその者に捧げ影として仕える事を誓うという。
その約束は今でも伝えられており、俺が魔王を名乗った事で皆が跪づいた理由もそれだった。
そして俺は今から「王の試練」を受けて合格しなければならないらしい。
元からこの迷宮は踏破するつもりだったので別に構わないのだが、荷物が増えてしまった。
「初めまして、キリエと申します」
それは深紫の髪を横に一本に纏め、肌は白く目は若干吊り上がった冷たい印象を持つ何処と無く日本人風の顔立ちをした狐の獣人だった。服装は布の軽装で短剣を腰に刺していて何処と無く忍びを連想させる。とりあえずステータスを見てみる。
〈LV.32〉
【獣族】キリエ
〈称号〉「影」
〈刻印〉
〈加護〉「音」
〈スキル〉「短剣V」「毒III」「罠V」「二刀流V」「近接戦闘技術IV」「加速III」「動体視力III」「気配察知V」「魔力感知III」「罠感知V」「気配遮断V」「隠密V」「消音V」「瞬歩III」「空歩II」
〈魔技〉「空蝉」「影渡」
〈魔法〉「身体強化V」「魔力操作V」「水IV」
強い。めっちゃ強い。荷物とか思ってご免なさい。しかもキリエはヒオルの孫で年も17というお年頃なのだそうだ。
ヒオルに問い詰めると、魔王なら女の二人や三人居ても当たり前だろう!と自らの孫を差し出してきやがった。
そうして一晩をここで過ごして翌日になってまた迷宮を進みはじめる事になった。明日からはキリエが一緒だ。
そうした挨拶を終えて何故か宴会の様なものが始まった。ここが迷宮の中だという事を忘れそうになる。
ヒオルが言うには、前魔王が亡くなってからこの「王の試練」は風化してしまい二度と命約を果たす事は無くこの迷宮で終わりを待つだけとなっていた所に俺という命約を果たす機会が訪れた事で皆喜んでいるとの事だった。
宴では神楽舞のようなものも披露されたり、どことなく日本の文化に近いものも見れて懐かしい気持ちになる。俺はここから皆を出した後で絶対に和服を作ってこの一族に着せようと誓う。趣味じゃないよ?恩返しだよ?
宴会では日本酒は無かったが、豆由来の焼酎の様な不思議な酒等も出され、それが結構美味しく気持ちよく眠る事が出来た。
朝起きると隣にキリエが眠っていてかなり焦ったりはしたが、事故は起きていない様で一安心して身支度をはじめる。
迷宮奥へ向かう際は一族総出で見送られて気まずい思いをしながら俺達は奥へ踏み込んでいった。
迷宮に入りキリエには魔物が近くに居たり、罠を見つけたら教えてくれと伝えておいた。
俺は常に氷の剣の展開と即射という攻撃スタンスをとっていたのだが、キリエに魔力無駄?と指摘され、どうすればいいか聞いてみると。「循環」とだけ言われてよく判らなかったが、なんとか諦めずにコミュニケーションを取り続けた所理解する事ができだ。
普段は創造で作った氷の剣に魔力を送り空中展開させ、それに瞬発的に強い魔力を流して魔力を爆発させて発射させていたのだが、それでは魔力を放出するだけで効率が悪いそうだ。
なので魔力を氷の剣に流し、そこから更に自分に繋げる事で過剰魔力を循環させて無駄を省く事を教えてくれた。
やってみると意外と難しく、感覚でいうならば野球のキャッチボールを一人二役でやるようなイメージだ。
今までは投げるだけで済んでいたものが投げてそれを一瞬で視点を変えてキャッチして投げ返し、また直ぐに自分に視点を戻してキャッチし投げ返すというもので。
言葉の説明だと単純に聞こえるが、実際にやってみると脳内処理量の限界を常に維持するような難易度であった。
最初は何度も集中を切らして剣を落としてしまっていたが、今ではなんとか一本を自在に操りながら戦闘の読み合いが出来る程度には使えるようになった。
魔力を循環させる事を覚えて分かったのだが、今までは放つという一動作しか出来なかったが、自分に反応を戻して再度送るという事が可能になった為に、切り、防ぎ、突く等自在に動かす事が出来るようになった。
更に、今まで使っていた瞬間的に強い魔力を送り爆発させて放出するという使い方だが、その発射させた後も魔力の循環を維持する事で威力を更に底上げし、放出後の軌道修正まで出来るようになった。
この魔力操作では魔力量というのは威力に直結し、自分から操作する物へ向けて糸のような物を伸ばしてその物体に通して自分に返すという感覚なので、その糸が太ければ太い程威力が上がる。体で言うところの筋力だと思って間違いないようだ。
他にも魔法について詳しく聞くことが出来、魔法の詠唱というのはこの魔力の操作を誰でも使える様に形式化して発動する為のマクロの様なもので、この詠唱を必要としない全て自ら操作するものを魔導と言うそうだ。
しかし魔導は扱える者が少ないので現在は魔法を研究する事で詠唱の短縮や詠唱の組み合わせで魔導に近付けているものが殆どだという。
キリエの一族は代々魔導を極めて伝承してきた数少ない部族で、キリエも幼少より魔導の修行をしていて扱える魔導師であった。
キリエの戦闘スタイルは影を伝って敵の背後を取り、一撃必殺を狙うものや、敵の進路や行動を予測して罠を設置して行動阻害や毒等による弱体化を狙って戦闘を優位に運ぶものが多かった。
キリエの参入や魔導を覚えた事により今までよりも格段に戦闘が楽になり、途中死を意識する程の苦戦も無く何度か休憩を挟んで問題無く50階層まで辿り着くことが出来た。
「そんな訳でボス部屋だけど準備は大丈夫?」
「ん、大丈夫」
キリエは言葉が短いのでなんともやりづらい。戦闘は頼もしいんだけどね。
そう苦笑しながら俺は扉を開ける。
いつも通り暗闇の中に進み階層主の姿を見る。
【断罪の王】LV??
〈スキル〉データ無し
〈魔技〉データ無し
〈魔法〉データ無し
それは自分と同じ断罪の装束に身を包んだ目だけが三日月型に切り取られた白仮面の人型の守るで、今までの魔物とは違う異様な雰囲気を醸し出していた。
アカシックレコードで読めないとかどんだけだよ!絶対ラスボスか隠しボスレベルだろ!とか考えているとそいつは喋り始めた。
「我ガ元ニ人ガ来ルノハ久シイナ。汝、求メルハ力カ?富カ?名声カ?」
「しゃ、喋った!魔物って喋るの!?」
「ん、上位種で希に」
それは男とも女ともつかない中性的は声で、その仮面は再度問う。
「汝、求メルハ力カ?富カ?名声カ?」
これは答えないと駄目なパターンかと思い返事をする。
「愛だ!」
うん、我ながら寒いと思う。
それを聞いた仮面はカタカタと笑う。
「然レバ汝ハ愛ノ為ニ命ヲ差シ出スカ!面白イ!我ニ愛ニ勝ルモノハ持チ合ワセテハオラヌ故、我ヲ倒シタ暁ニハ全テクレテヤロウ!」
その仮面は足がすくみそうになる程の殺意を孕んでこちらに対峙する。
「今回私は手を出せない。主様の健闘を祈る」
キリエはそう言って後ろに下がった。
「え!マジ!?俺一人!?」
とテンパっていると向こうから踏み込んできた。
俺は氷の剣で仮面がこちらに辿り着くよりも早く斬り込む。
仮面はその攻撃をかわす事も無く前進した為に呆気なく攻撃が入った。
氷の剣は衝撃で破壊されたが、まさか創造で作った氷が破壊されるとは思ってなかったので油断できない。
氷の斬撃で腹を切り込まれま仮面は間合いを取る。
「ソノ剣ハ魔ニシテ魔ニ非ズカ、面白イ」
そう言って仮面は詠唱する。
「煉獄ヨリ裁キノ門ガ罪人ノ魂ヲ喰ライ尽クス」
その言葉に反応して俺の足元に大きな魔方陣が現れ、そこから数多の黒い手が伸び気持ち悪い絵図を作る。何か来ると思い身構えるが一向に何も起きない。ただ、手がうねうねしてるだけだ。何の精神攻撃だ?
仮面はまたしてもカタカタと笑う。
「マサカ現世ニ居テ罪ヲ一切背ヲワズ生キル者ガ存在スルトハ畏レ入ッタ!面白イ!実ニ面白イ!汝名ハ何ト言ウ?」
なんか馬鹿にされている気がする。
「ユウだよ」
「ユウカ、気ニ入ッタ!罪ノ意識ヲ持タヌ者ヲ我ハ裁ケズ!ヨッテ我ノ負ケヲ認メヨウ!」
「え…勝ったの?いいの?まじで?」
そうして戦わずして勝つという孫子もビックリな事態が起きて罪人の迷宮を呆気なく制覇する事が出来た。
この仮面事「断罪者の王」は俺に三つのモノをくれた。
一つが魔眼と呼ばれるもので、魔眼は七種類存在し、今回貰ったものは「忠実」と呼ばれる魔眼だった。これは使った相手に無条件で自分の事を信じさせるという恐ろしい程のチート能力だ。これ詐欺師なれんじゃね?
因みに「愛」という魔眼もあるそうだが、どうしても欲しければそれは別の迷宮を制覇するといいと言われた。
魔眼を貰った瞬間は眼球に強烈な痛みが走り、目の前でぽろっと自分の本来の目玉が飛び出したときは意識が飛びそうになった。しかしその後痛みが引いて目の辺りを触るとちゃんと目玉が入っていたのでちゃんと魔眼が入ったのだろう。冗談で自分の本来の目玉を断罪者の王にあげると、ちゃんと閉まっていた。何に使うのだろうか?
次に貰ったのが大量の金貨だった。どうせなら白金貨のほうがいいんじゃないか?と思ったが、白銀貨というのは後付けの貨幣であり、本来最も価値をもつのは金であるという事なので金貨だったのだが、正直言って要らない…
要らないので返しますと言うと断罪者の王はカタカタと笑い、代わりに断罪者の王といつでもお話が出来る「断罪者の腕輪」を貰った。要は暇だからお話しましょう?という事なのだろう。どっちもいらねー!
そうこう思っていたら先手を取られ、気づいたら右腕に装着させられ心の中で会話出来るようになっていた。因みに外そうとした所、腕輪が皮膚の中に溶ける様に入り込み、刺青のような形で後が残った。俺は逃げられないようだ。
そして最後が「断罪者の王」という称号だ。あらお揃いね!なんて心の中で茶化してみると、「ソ、ソウダナ…」なんて照れた返事をして目の前の断罪者の王はクネクネしている。まさか女なのか?と少し気にならないでもない。
なんでもこの称号は名前に置き換える事が出来る変わった称号らしく、鑑定能力や看破能力のある相手を欺く事が出来るようだ。目の前の断罪者の王にも本来は名前はあるようで、キエルと名乗った。
そういえばと思いここに来た目的の一つで気になっていた事を聞いてみた。
「この断罪者の装束もお揃いだけど元々キエルが作ったの?」
キエルはフムと言って教えてくれた。
元々この罪人の迷宮にはキエルを崇拝した悪を裁く為の秘密組織が存在していて、その者達が着用していたのがこの装束だったという。なんかそういう暗殺者のゲームやった事あるな。
それを気に入ったキエルが自分も身に付けていた様で、他にもないか聞いてみたところ、グローブやズボンと革靴等もあったのでそちらは欲しければ持っていってもいいと言うので貰うことにした。
ラインナップはこうだ。
【断罪者の手袋】★x6
「怪力V」「近接戦闘技術V」
【断罪者の履物】★x7
「疾走V」「機動V」
【断罪者の革靴】★x6
「飛躍V」「空歩V」「消音V」
【断罪者の仮面】★5
「魔力感知V」「気配感知V」「看破V」
うん、恐ろしい程のチート装備だ。なんかもう負けないんじゃないかな?と思ったが一瞬頭の中に俺をぶちのめしたヤンデレ少女が浮かび、直ぐにそれを打ち払う。
俺はそれを柱の影でこっそり着替えてくる。これでキエルと完全にお揃いになったな、と口に漏らしてしまった所、キリエが反応して私も着ると言って聞かないので、履き物をミニスカートに変えた断罪装備一式をサイズ直ししてあげた。
そうして粗方ここでする事も無くなったので、キエルにまたな!と言って来た道を戻ろうとした所、この部屋の下に魔方陣があり、そこから地上に出られると聞いてそちらに向かった。
キエルに見送られて魔方陣から別の場所に飛ぶと、そこは墓地が一望出来る小丘の上だった。
「主様。これで私は正式に主様の影。主様の剣として、盾として、生涯主様の影として付き従う事を誓う。」
突然キリエがそう言って跪づく。
そういえばそうだったなと思っていると魔眼が痛みだし、中二病ばりに俺の右目が…状態になり、それが収まるとキリエの首に首輪の様なボルネオトライバル風の刺青が入っていた。
これが命約が交わされたという証なのだろう。キリエは恍惚とした顔で首筋をなぞっている。
「もし主様が望むのなら夜伽の相手にもなりましょう!」
これは立てちゃいけないフラグを立ててしまったようだった。




