鍛冶士になるよ!
ねむねむ…
俺は駄メルの武器屋に寄る前にようちゃんとギルドに来ていた。
俺は早速依頼カウンターへ向かい、ようちゃんは掲示板へ向かう。
依頼カウンターには前回の利発そうな子が居たのでそちらに向かい、冒険者カードを提示して依頼の確認をお願いした。
依頼は既に達成されていた様で、緑引の葉30枚を受け取り鞄にしまう。その後ようちゃんにまたね!と言って駄メルの元へ向かう。相変わらすニヤニヤ見送って来たのでちげーよ!と言ってギルドを後にする。
武器屋に到着し店の中に入ると、駄メルが俺に気付き飛び付いてきた。
「ユウ君!!昨日はごめんなさいっ!!」
2つの柔らかい果実が俺の全意識を奪う。我に返り引き剥がそうとするが力負けしてしまう。ごめんね!と言いながら尚も抱きついてくる駄メルの髪からフワッと女の子らしい匂いが香り俺の脳を溶かそうとしてくる。メルトダウン?いいえシャットダウンです。
「大丈夫、大丈夫っ!怒ってないって!」
「良かった…昨日で嫌われてしまったのかと思っていたよ…所で今日はどうしたの?」
そんな事で人を嫌ったりする程心は狭くないぞ?と思いながら、今日は鍛冶場を借りたいという事と素材を多少分けて欲しいという事を伝えた。鍛冶場は職人の体、道具は命と言っても差し支えない程らしいので、仮に任されているだけとは言え、流石に無理かなと思いながらダメ元で聞いてみた。
すると駄メルの目が大きく開かれキラキラと輝きどうぞどうぞと鍛冶場に案内された。あれ?そんなんでいいの?
駄メルは炉に短い詠唱で火を灯し、気箱一杯の鋼鉄を抱えて持って来る。
メルは魔法が使えるんだなと思い聞いてみると、魔法について色々教えてくれた。
この世界には基本的に火、水、風、土の原始魔法と雷、氷、光、闇の変異魔法が存在しており、この世界の物質・物体は全てこの8種の特性で構成されているという事。
そして人もそれに当てはまり、魔法は一定以上の特性があって初めて使えるという事だった。因みに戦闘で使える程の魔法であれば、それ以上の特性を求められるという。
駄メルはエルフの特性で精霊を視る事が出来るので、その場に存在する精霊に自分の魔力を喰わせて魔を具現化する精霊魔法も使えるそうだ。しかし精霊魔法は普通の魔法と比べて燃費が悪いらしく、普段は普通の魔法を使っているらしい。
特性は教会で判別出来るようで、炉が暖まるまでまだ時間があるから今すぐ行きましょう!という駄メルに引き摺られるようにし鍛冶場を後にした。
しかし、視線が痛い…前回駄メルと歩いた時は日も暮れて薄暗かったのと人が少なかった事もあるが、どうやら駄メルは他の人から見ても綺麗なのだろう。どうにも注目を浴びてしまう。
俺達がギルドの前を通りかかると、タイミング良くようちゃんとダンテさんに鉢合わせた。
「おいおい、メルが男連れで歩いてるとか月でも落ちてくるんじゃないか?」
どうやらメルとダンテさんは顔見知りらしい。町に一つしかない武器屋だし当然か。
種族的な差別はあれど誰から見ても美人のメルは密かに人気があり、告白して玉砕する者が後を絶たないらしい。道理で視線が痛かったわけだ。因みにダンテさんも玉砕した者の一人だと知ったのは後の事だった。
「鍛冶にしか興味無いと思っていたが…」
そう言ってダンテさんはこちらに視線を落として再度驚く。
「誰かと思ったらユウじゃないか!?まさか難攻不落のメルを落としたのがお前だったとはな…今日はデートか?」
俺はすぐに否定して、今から教会に魔法適性を見に行くと伝える。心なしか駄メルがしょんぼりしている。
「魔法か…俺達も今日は簡単な依頼しか無かった訳だしヨウも見に行くか?」
そう言ってダンテさんがヨウに視線を向けると明らかにテンションが上がっている。
魔法楽しみにしてたもんね!
そうして仲間を増やし、俺達は教会に向かう事となった。
教会はバロック様式のとても大きな建物だった。中に入ると、とても静かで何人かの参拝者が祈りを捧げていた。
シスターの様な人がこちらに気付き声をかける。
「参拝の方ですか?」
「いや、今日は二人の魔法適性を見にきた」
ダンテさん俺とようちゃんを紹介する。
このシスターの様な人はエリスと言うこの町の農家の娘で、ダンテさんとも顔見知りだったようだ。
エリスさんは、分かりましたと言って礼拝堂横にある扉の奥に案内する。
そこは客間になっており、長机を挟むように長椅子が置かれた部屋だった。お茶を出されて椅子に座って待っていると、神父さんが入室する。
神父さんは拳大のガラス玉みたいなものを持っており、最初にようちゃんに渡す。
神父さんからこの玉に意識を集中させてくださいと説明され、ようちゃんは目を瞑って意識を集中させている。
すると玉は虹色に輝いた後、赤と黄の光だけになる。
「ヨウさんは火と雷の特性をお持ちのようですね。」
神父さんがそう言ってようちゃんからガラス玉を受けとる。手を離した瞬間二色の光が消えて元の透明に戻っていた。
その後で神父さんからすのガラス玉を受け取り、同じ説明を受けて意識をガラス玉に集中させる。
するとガラス玉は虹色に光った後で薄い水色と茶色の光を放つ。
「ユウさんは氷と土の特性をお持ちのようです。」
そうして適性を判別した後、神父さんはごゆっくりと言って奥に戻っていった。
「まさか二人とも二色とは驚いた」
ダンテさん曰く、今回の判別は戦闘に使えるレベルの特性検査で、大抵の人は持っていても一色だと言う。
普通の検査は魔力感度の高いガラス玉を使い、日常生活に使える程度の適性を見るのだが、冒険者や兵士などはこちらの魔力感度の低いガラス玉を使って、戦力としての魔力適性を見るとの事だった。
「ユウ君凄いね!氷は珍しいから本当に凄いよ!」
因みにダンテさんは戦闘での魔法適性は無く、メルは雷と水の適性があるようで、実はメルも凄いらしい。駄メルのくせに生意気だ!
「よし!今日は魔法を使いつつクエスト消化していくか」
そう言ってダンテさんとようちゃんは立ち上がり、それに続いて俺達も教会を後にした。
この町には魔法道具の店があり、ようちゃん達はそちらに向かうそうだ。俺もそちらに向かいたい所だが、そろそろ炉の調子が気になるという事で俺とメルは鍛冶場に戻る。俺も帰りにでも寄ろうかな。
そうして鍛冶場に着くと鍛冶場は熱気で暑くなっていたので俺はローブを脱いで手頃な鋼鉄を選別する。メルは炉の調子を見てニコニコしている。そろそろ使えるのだろ。
「この鋼鉄って一個おいくら万円?」
「まんえん…?んっと、好きなだけ使ってもいいよ?お金も気にしないで!」
なんと太っ腹な!ちょっと駄メル、が好きになりそう。はい、げんきんな性格だと良く言われます。
とりあえず日本人だし刀でも作るか!と思い創造から知識を引き出して脳内で消化していく。
炉を使っても大丈夫だと聞き、早速作業にかかる。
まずは鋼鉄を炉で熱して薄くうち伸ばし、また熱するの繰り返しで薄く伸ばしていき、ある程度伸ばしたら水に入れて不純物を落とす水滅しという作業に入る。駄メルはそれを不思議そうに見ている。この世界では型に溶かした鋼鉄を流しこみ、冷ました後で叩き入れに入る鋳造叩き上げの手法が一般的らしく、今俺のやっている作業がなんなのか分からないという。
「これは、鋼鉄の部位の選別作業」
俺は手短に説明し、作業に集中する。
水差しが終わり、ある程度冷まったものから鎚で叩き割り、子割りという皮鉄と芯鉄に分ける作業に入る。
その後で、水滅しした物の一つを割らずに梃子台として準備し、次に梃子棒という持ち手にあたる部分になる棒をつくる。
溶かした鋼鉄を棒状の型に流して冷まし、梃子台と梃子棒を溶接する、その梃子台に子割りで選別した鉄片を隙間無く並べ重ねていき、灰と泥水をかけ水で濡らした紙で覆い、炉に入れ積み沸かしする。
ここからは向こう鎚という鎚で叩く者と、叩き具合をみながら形を整え梃子を返してく者の二人体制になるので、さっきまで見物しかしていないメルに向こう鎚をお願いする。なにやら凄く嬉しそうに引き受けてはしゃいでいたが、向こう鎚の力加減や注意点等も説明すると真剣な顔になってぶつぶつ独り言を呟いている。本当に鍛冶が好きなようなので、こちらも助かる。
俺は炉から梃子を取りだし、メルに鎚を打ってもらいながら形を整える。そうして鍛練という何度も折り返し叩きあげる作業に移り、メルとは阿吽の呼吸になっていた。
そこから俺達の恋がはじまる…訳ねーよ?
因みに鍛練には前半と後半があり、前半が下鍛え、後半が上げ鍛えという。刀の刃紋はこの下鍛えで決まり、板目肌を出したいので十文字鍛えという手法で下鍛えした。
下鍛えの終わったものは梃子棒から切り放し、薄く伸ばして拍子状に切り揃える。それを何枚も作る。
下鍛えが終わり次は上げ鍛えだが、簡単に説明すると、下鍛えで作った拍子状の板を一つにまとめる作業だ。
新たに準備した梃子台に下鍛えした拍子状の板を積み重ね、灰と泥水をかけて炉に入れる。タイミングを見て炉から取りだし、間髪入れずに叩き上げてもらいながら何度か折り返す、そうしてようやく皮鉄となる部分が完成する。これを二枚作る。
次に刃鉄となる部分だが、これは皮鉄よりも多めに鍛練した特に硬いものを作る。
次が芯鉄である。芯鉄は包丁鉄という柔らかい鉄を使う。メルに聞いてみると、包丁鉄か分からないけど柔らかい鉄ならあるよ。と言っていたので準備して貰う。
その包丁鉄と子割りで選別した芯鉄を使い、積み沸かしを行い鍛練して皮鉄や刃鉄よりも少し長めのものを作る。
そうして皮鉄二枚、刃鉄1枚、芯鉄1枚の系4枚の細長い鉄の板が完成する。
次に刃鉄と芯鉄を溶接し、その側面を皮がねで覆い沸かしていく。
そうして何度かうち伸ばしながら溶接した後で、茎になる部分もうち伸ばす。この工程を造り込みという。因みにこの重ね方は本三枚という技法だ。
次が素延べという工程だが、これは完成した時の刃の厚みと横幅を決める作業だ。
これは金床を水で濡らし、その上で真っ赤に熱した刀を叩きながら大まかな形に整えていく。水打ちとも言われる作業だ。
その後が火造りという作業で、ここから一人での作業になる為、メルにお礼を言って休ませておく。
ゆっくり休めばいいのにメルは熱心にこちらの作業を見てくる。
火造りは鎬筋という刀の一番幅のある筋の部分を作る作業で、これが曲がっているととても見た目が悪くなる。定規なども使わずにフリーハンドで叩いていくのはかなり大変だった。
その際、刃鉄とは反対の方が外側になる小さな反りをつける。これは焼き上がった時に刃鉄側が膨張して反ってしまうので、それに合わせて直刀になるように調整したものだ。本来は刃を反らせる為に刃側を外側にするのだが、自分は余り反っているのは好きでは無いので反対に付けた。
次が刃つくりと言われる刃の先端になる部分を作る。この時、刃になる方とは反対の背の方に、斜めになるように先端を切り落とす。そして切り落とした方を埋める様に小鎚で叩いて刃側を反らせていく。そうして刀先の形が完成したら、刀を炉に入れて、絶妙なタイミングで炉から取りだし刃を冷ます。
刃を冷ましてる間に禁煙かどうかも聞かずに煙草を吸いつつコーヒーを創造して一息いれる。駄メルだし聞かなくても別にいいよね?
メルは不思議そうに煙草を見ていたので試しに一口吸わせてみると、ものすごい勢いで噎せていた。因みに駄メルにはカフェオレをあげたら喜んでいた。
刃が冷まるまでにメルから型作り用に使っている粘土を貰い、その粘土に粉状に砕いた粘土と砥石を交ぜ、焼刃土を作る。冷たくなるまで冷ました刃を灰で洗い水気と油分を落とし、先程の焼刃土を塗っていく。焼刃土は刃側は薄く塗り、背側は厚く塗る。また、この焼刃土の塗り型で最終的な波紋が変わるのでかなり繊細な作業だった。因みにこれまでの作業は美濃伝という刀の作風をベースにした技法である。
焼土刃を塗り終えた刀を高温に熱した炉にいれる。その間にメルに井戸水を汲んできてもらう。そうして焼き上がった刃を汲んできた冷水に浸し、冷ました後で水を含んで緩くなった焼刃土を落とすと見事な板目肌の匂いの深い刃ができた。
そして刃を火から少し離した位置でもう一度ゆっくりと熱する。これは合い取りという作業で、刃全体を安定化させて刃こぼれを防ぐ一種の焼き戻しだ。そうして反りや曲がりを治してついに形が出来上がった。
長かった…さっき外を見たら1日回って既に昼になっていた。ようちゃん…朝帰りネタは辞めてね…
そうして、出来上がった刃を研いでいく。こらは鍛冶研ぎという作業で、本来は本研ぎを後でするのだが、どうせそれも自分でやるので一気に本研ぎまでしてしまう。
出来た刃の茎にヤスリをかえて銘を入れる。「朝木夕」「鉄閃紅雀」日本名なんて使わないと思っていたが、刀なら漢字でしょ!と思い使ってしまう。更には調子に乗って「鉄閃紅燕」なんて名前まで付けてしまう。因みに意味は燕の様な素早い鉄の一閃で、紅はその一閃に炎を纏うイメージだ。名前はイメージがだいじ!
ついに完成した…。
苦労しただけあって、愛着が湧いてしまったのはしょうがないと思うがつい口に出してしまう。
「鉄閃紅燕…」
作った刀の名を口にした瞬間、刃は一瞬光を帯びてすぐに収まる。えっ?と困惑していると、駄メルが驚愕しながら答えを教えてくれた。
それは「命名」というスキルで、熟練した鍛冶士しか使えないスキルだそうだ。それを聞いてすぐにステータスを確認してみる。
〈LV.11〉up
【魔族】ユウ
〈称号〉「刀鍛冶士」new
〈刻印〉『創造』
〈加護〉「幸運」
〈スキル〉「弓I」「鍛冶VII」up「甲冑II」new「革細工IV」「裁縫III」「木工I」「錬金術III」「料理I」new「交渉I」『命名』
〈魔法〉「氷」new「土」new
レベルと鍛冶スキルが異常な位上がってる…人間国宝になっちゃったよ…。
どうもこの世界に刀というものは存在していない様で、刀自体の製作技術が高すぎるようだ。
「ユウさん!結こ…弟子にしてください!」
駄メルは願望を言おうとして止めて希望を伝えてきた。
刀を作るのに一人じゃ無理だという事と、徹夜明けで頭が働いていない事が相乗して快諾してしまう。
駄メルは喜んで抱きついて、キスまでされそうな勢いだったので駄メルを引き離し、余ってい銀と木材があればもってこい!と命令して刀の茎に留め具用の穴を開ける作業に入る。その後で鋼鉄を創造して燕を模した楕円系の鍔を造り端に寄せておく。創造って便利だな…
その後、シルバーインゴットと木材を持ってきたメルにありがとうとー言って銀貨1枚を渡す。流石にシルバーインゴットはタダではもらえないし、銀価と比べても総量に差がある為足りないんだろうなと思っていたら多すぎるよと言われて返された。
シルバーインゴットは銅貨1枚で買えるらしい…ん?偽造できるんじゃね?と思っていたら、其を読んだメルが貨幣には特殊な魔法が掛かっているので偽造できないという事を教えてくれた。それでも俺の創造なら出来る気がする。
そんな訳で今日はシルバーインゴット2つと木材数本を貰った後で解散する事にした。
因みにシルバーインゴットはアイテム袋に入らなかった為、肩掛け鞄を取りだしてそちらに詰める。鉄閃紅燕は置いたままだ。
メルの方も今日は店を開けないそうなので、宿に戻るのかと思ったら奥の寝室で寝ると言っていた。寝室あるのになんで宿泊まってんだと突っ込んだら、あの時は特別だったの!と赤くなって黙ってしまった。
あの時酔い潰れてなければ本当にその気があったようだ。俺は今後、鈍感系主人公のつもりでメルに接しようと心に決めた。
刀の作り方なんて知るかっ!こういう回はまじで勘弁orz