1.はじまりの種
昔々、世界がまだ真っ白な頃に僕は目を覚ましたんだ。
本当に何もなくて、どうしたらいいのかわからなかったぐらいにね。
僕のことを聞こうにも誰もいないし、どこかに行こうとしても目標もないから途方に暮れたよ。暮れるものなかったけど。
その時僕はまだ寝転んだままで、どうしようかなぁと寝返りをうったんだ。
どうやら僕の胸元に何かあったみたいで、ガサリと音がしてね。
何かと思って見てみたんだけど、どうやら僕に宛てたメッセージのようで『これを読む君へ』と書いてあった。
それを見た時、僕は嬉しかった。僕以外にも誰かいるんだ!ってさ。
一人じゃないって思えるのは幸せなことだよ。特に一人ぼっちだって思っている時とかね。
そのメッセージにはこんな事が書いてあった。
『これを読む君へ。
初めまして、私は昔ここにいたものです。
なのでこのメッセージを読む頃には私はもういません。
君のことだからなんだよー!とか思っているでしょうね。ごめんなさい。
でも始まりなんてそんなものだよ、必要最低限あればいいんだから。
そうそう、君にふたつほどプレゼントがあります。ひとつは花の種です。
君のポケットの中に袋があると思うんだけど、それを世界に撒いてみてください。
私の好きな色もあるし、君が気に入る色もきっとあると思うんだ。
世界はきっと真っ白だから、君の好きな色に染めてみてください。きっと楽しいからさ。
もうひとつは、君の中に入ってるからいつかわかるよ。
その時までのお楽しみにしといてください。
いらないなんて言わないでね、私のとてもとても大事なものだから、大切にしてください。
よろしく頼んだよ。
君が描く世界が美しいものでありますように。
××××より』
最後の文字は何て書いてあるかわからなかったけれど、その他は読む事が出来た。
この人は僕を知っているのだろう。実際なんだよー!って最初読んだ時思ったしね。
僕を知っているのになぜこの人はいなくなったんだろうなんて考えたけれど、とりあえず立ち上がってポケットにその人からのプレゼントがあるようなので探してみた。
すると右の胸ポケットから、小さいめだけどずっしりとした袋が出てきた。開けてみると、小さな粒が溢れそうなぐらい入っていた。これがあの人が言っていた花の種なんだろう。
少し摘んで足元に落としてみたけど、種は少し散らばってそのままだった。
きっとすぐには花になったりしないものなんだろう。
しゃがんで少し待ってみたけれど、種は種のまま。
二回目のなんだよー!を心の中で叫んで僕は立ち上がって、歩いてみようと思ったんだ。
ここにいてもどうしようもないから、とりあえず足を出した。
そうしたらさ、さっき蒔いた種がちょっと変わっていた。
多分これが芽ってやつなんだろう。初めて見たのに何で芽って言葉が出たのかわかんないけど。
そしてなんで芽が出たのかもわかんないけど。
とりあえず芽が出たから近づいてみたら、不思議なことに芽は引っ込んでまた種になってしまった。どうなってんだ。
一歩そこから離れると芽が出て、近付くとまた引っ込んで。
そんな動きをしていた僕らは多分気持ち悪いと思う。
だって何もない世界で、行ったり来たりをしているやつがいたら絶句するだろう。僕も多分どうしようとか思う。
多分この種は僕が歩くと芽を出して、花になるんじゃないかな。
この考えが正しいなら、僕は花を近くに見ること出来ないんじゃないかな。
でも僕しかいない世界より、遠くでも何かある世界の方がきっと楽しいと思うから。
種もまだまだあるから、あのメッセージの通りに染めてみようじゃないか。
どんなに遠くても色ぐらいはわかるはずだから。