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第一部 ~弍の乱 公私混同は勘弁~

彼のデスクに鞄から取り出した【封筒】を置いて振り返ると、不機嫌そうな赤城さんと未だ混乱した様子の先輩が此方を静かに窺っていた。…淫らな容相のまま。


いや、窺ってないでいい加減身嗜み整えてくれません…?


私はそんな二人から目を逸らしながら、己の要件を話出す。


「…コホン、兄からある人物の調査を依頼されました。書類は此方に。…それと、もう出勤時刻だというのに私は【お邪魔】、だと…?」


「え、あ、も、もうそんな時間!? ご、ごめんな片山! ちょっ、せ、誠二郎さんっ! 仕事、仕事っ!!」


「ーーうるせぇ」


真剣に職務を果たそうとする私を蔑ろに、赤城さんは此方を鋭い眼つきで牽制し、更には佐上先輩の首筋にその整った唇を落とした。数メートル離れているというのに、リップ音が厭らしく室内に響く。

その行為を経験もしていなければ見慣れてもいない私、そしてされた当人の佐上先輩は「ぎゃっ」と声を上げ一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。


ぎゃぁあ!? だ、だから人前でっ、しかも職場でそういうのはやめて! 本気でやめて!!


「やっ、…ちょ、っ誠二郎さん…!! か、片山がっ、いるのにっ!!」


「ーー女なぞ放っておけ、…俺にだけ集中しろ晴樹…」


「〜〜〜っっ!!」


まだ三十路前だというのに、赤城さんの渋くも色気のある低い声に囁かれた彼は、涙目でもう湯気が出てきそうな程顔が火照っている。

完全に己の存在を無しとし、二人の世界に酔い痴れようとする上司の横暴さに、私の怒りと羞恥心は限界に近づいていた。

そんな時、電話の呼び出し音がこの桃色に支配されそうだった空気を打ち消す。

…きゅっ、救世主っ!!


「ーーっち」


どうやら赤城さんのスマートフォンが音源らしく、かなりの不機嫌顔(眉間の皺三本)で佐上先輩から気怠げに身を離して立ち上がり、脱ぎ捨てていた黒のワイシャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出した。

赤城さんが身を引いた隙に、焦った様子で自分の身嗜みを素早く整え出す佐上先輩。


「………」


「ーーっな、何ですか!?」


着信の発信者を見た途端、更に思いっきり顔を顰めた彼は、何故か此方をギロリと睨みつけてきた。

私は当然理由が分からずビクッと肩を揺らし、鬼のような睨みに怯えて震えた声で情けなく赤城さんに反抗する。しかし、その反抗も虚しく流され、未だ喧しく鳴る己のスマートフォンの通話をオンにして彼は耳に当てた。


「ーーおいコラ、樹。やはり【あの話】無しにしろ。同じ空気吸ってると思うと反吐が出る」


いつき…? もしや、兄か…っ?

ということは、【あの話】というのは多分私の採用の件だろう。反吐って…っ、どれだけこの男は失礼なのだろうか。

冗談じゃない。黙って聞いていれば、赤城さんはただ単に私が気に食わないという【私情りゆう】で自分を解雇させようとしている。納得できる訳がない。公私混同は勘弁して下さい。


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