7匹目 2
ライナスの両親は政略結婚だったらしい。父親は公爵家の人間だったがここ数年あまり有能な者が生まれなかったため家が傾きだしていたらしい。そこで商人から貴族になった家の娘と結婚する事になったらしい。それがライナスの母親だ。公爵家は財産を新興貴族は公爵家との繋がりを持つことが出来るという事でこの縁談は直ぐにまとまったらしい。だが,母親には恋人がいた。母親は結婚したあともその恋人と会っていたらしくライナスはその恋人との子供だったのだ。最初は両親共に金髪だったため気付かれなかったがライナスが大きくなるにつれて瞳の色が青から緑に変わっていったことによって父親が違うことが分かってしまったらしい。ライナスの本当の父親も瞳の色が幼い時に変わった特異体質だったらしく,それがライナスにも遺伝してしまったのだった。母親はライナスが別の男との子供だとばれて直ぐにその男と2人だけで逃げた。そして残されたライナスを疎んだ父親が家の名に傷がつかないようにライナスを消すためにあの誘拐を企てたらしい。
ライナスは無事に帰ってきたが公爵家の息子がしかも次期当主となるライナスが誘拐されたために犯人を探すために多くの者が動いた。その結果,あの黒いローブの男や公爵は捕まったのだった。今はライナスの叔父で公爵の弟が公爵家を継いでいる。父親とは違い優秀で優しい性格らしくライナスの事も可愛がっているようだった。まぁ,不器用な性格でもあるためライナスを可愛がっている事はあまり周囲には伝わっていないようだが・・・。
「そっか,知ってたんだ」
「ああ。でも心配してくれる家族はいるだろう?」
「叔父さんの事?確かに叔父さんは他の人達よりは優しいけど・・・」
やはり叔父の愛情は上手く伝わってはいないみたいだねぇ。
「まぁ,心配しているかはともかくそんな事情があったのだからここへはもう来ないと思っていたんだがな」
「・・・確かにここに来るって事はあの時の事を思い出す事になるけどそれでももう一度ルナに会いたかったんだ」
「我に恩を感じる必要はないと言っただろう」
「ルナに会いたかったのはお礼を言うためじゃないよ。まぁ,それもあったけど本当にただ会いたかったんだ」
「何故?」
「分からない。でも,また会って仲良くなりたいと思ったんだ」
「変な奴だ」
「そうかもね」
「・・・はぁ,仕方がない」
私はそうつぶやくと子犬サイズに体を縮めた。
「「ええぇ!」」
「ライナス」
「え,あ,な,何?」
「我を抱き上げてくれ」
「あ,うん」
驚く2人を無視してライナスに抱き上げるように頼んだ。
「えっと,ルナ?」
「何だ?」
「小さくなれるんだね」
「ああ,このサイズまでなら好きなように体を縮められる。言っておくが先ほどの姿も縮めておるのだぞ」
「え,あれでも!?」
「そなたと会った後も5年ほどは成長が続いていてな。我の本来の体の大きさだとここでは暮らしにくいから普段はあのサイズまで縮めているのだ」
「そうだったんだ。でも,何で急にこんなに小さくなったの?」
「いい加減ここで暮らすのにも飽きてきたところでな。人に混じって生きてみようかと考えていたのだ。折角だからそなたの所で世話になる」
「貴様,なんて図々しいんだ!」
「え,でも,人と深く関わるつもりはないって・・・」
「そなたちゃんと話しを聞いていたのか?我は神獣としてと言っていただろう。神獣としての我の力は人にいらぬ争いを招きかねん。だが,我の存在を知っている者は少ないからな。このような姿をしていれば珍しい子犬にしか見えぬ故に問題ない」
私もライナスもカイロスの言葉を無視して会話を続けた。そろそろ人間に混じって生きてみようと思っていたのは本当だがまだ先のつもりでいた。だが、何故かライナスの顔を見てると放っておけない気がするのだ。
「まぁ,確かにそうだけど,何か納得いかないような・・・」
「ならばもう良い」
ライナスの困惑した顔を見て私はライナスの腕から飛び降りた。
「え,ちょっと,ルナ?」
「そなたに頼らずとも人に混じって生きていく方法はある。嫌ならば別に良い」
「いや,待ってルナ!嫌なわけじゃないんだ,むしろ嬉しいくらいだよ!でも,叔父さんが何て言うか分からないし・・・」
「それならば問題ない」
「どうして?」
「そなたの叔父に会えば分かる」
「え?」
「兎に角問題ない」
「ルナがそう言うなら」
「ちょっと待ってください,ライナス様!まさかその得体の知れない狼を連れて帰るつもりですか?」
「狼じゃなくてフェンリルだよ。って言うか今の会話聞いてなかったの?ルナは神獣なんだよ?」
「ん?何だこやつに我の事を話していたわけではないのか?」
「言ってないよ。ルナが言うなって言ったんじゃないか」
「だが,恩人だとか言っておったではないか」
「恩があるとは言ったけど何の恩があるかとかは話してないよ」
「そうか」
「うん。俺がルナとの約束を破るわけないだろ?」
「・・・」
「何でそこで黙るの?」
「いや,何でもない気にするな」
本当に何でこんなに懐かれたんだろう?本人もよく分かっていないみたいだしなぁ。
「ライナス様!」
「うん?何?」
「本当なんですか?」
「何が?」
「ですからこの得体の知れない生き物が神獣だという事ですよ!」
「得たいの知れないとは失礼な」
「巨大な銀色の狼というだけで十分変なのに話す事が出来て魔法まで使う生き物を得体の知れないと言って何が悪い!」
「む,言われればそれもそうだな」
「え,そこで納得していいの?」
「事実だからな」
「それで,本当なんですか。ライナス様」
「本当だよ」
「証拠は?」
「ルナがそう言ったから」
「・・・」
「ぷっ,ラ,ライナス。それは証拠にはならぬと思うぞ。ふははは」
「え,何で笑うの?」
さも当たり前の事だと言うライナスを見てると可笑しくて仕方がなかった。何故それほど私に懐いたのかは分からないままだけどここまで懐かれると何だか可愛く思えてくる。




