7匹目
私は基本周りが暗くなったら寝て,朝日が昇り始めるぐらいに起きている。でも,意識して深く眠ればかなり長い間寝ていられる。実際どのぐらい寝ているのかはここでは分からないのだが目が覚めると沢山寝たなぁという感じがするのだ。神獣は特に何かを食べなくても生きていける種族のため長く眠り続けていても問題はない。そして,この前は久々に深く眠ったのだ。なのに何故,洞窟の前にライナスがいるんだろうか?いや,ライナスだけなら構わない。おそらく私を怒らせた事を気にしてまたやって来たのだと思うから。だが,何故他の人間までいるのだろう。ライナスの隣にはライナスと同じぐらいの年齢の黒髪黒目の少年が立っていた。正直出て行きたくはないがあそこにずっといられるのも迷惑だし,この前ライナスに八つ当たりしてしまった罪悪感もあるからそのまま放置するわけにもいかない。
「はぁ,面倒だ」
溜息を吐きながら結界を解き私は外に出た。
「ユ「気安く名を呼ぶなと言ったはずだ」あ,ご,ごめん」
「貴様!いくらライナス様の恩人とは言え,獣風情が何と言う口の利き方だ!」
「カイ,良いんだ」
「しかし」
「カイ」
「かしこまりました」
私を見て嬉しそうに笑って名前を呼ぼうとしたライナスを遮ると黒髪の少年が怒鳴ってきた。それをライナスが諫めたが未だにこちらを睨んでいる。
「はぁ,ライナス」
「はい」
ライナスは呼びかけると不安そうな声と表情で返事をした。
「そなたに教えた名は大切な名なのだ」
「大切って,もしかして真名って事!?」
「いや,真名ではない。だが,我にとって最も大切な者がつけてくれた名で,大切な者達との繋がりを示す名だ。故にその名を他の者の前で口にしてはならない」
「大切な者・・・。分かった。それじゃあ,何て呼べば良い?」
「ルナと呼んでくれ」
「ルナ?」
「ああ,そなたに教えた名と同じ物を表す名だ」
「同じ物を?どんな物なの?」
「月だ」
「月?」
「ああ。ところで何故ここに他の人間がいる?」
「あ,彼はカイロス・ボルテール。俺の幼馴染みでずっと仕えてくれているんだ。それでカイがここにいる理由は俺が3日経っても帰ってこなかったから探しに来たんだ」
「3日もここにいたのか?」
「あ,ううん。ここにいるのは今日で一週間だよ」
「・・・何故帰らないのだ」
「だって,ルナを怒らせてしまったみたいだったから謝ろうと思って」
一週間もここにいたと聞いて面には出さなかったが流石に驚いた。いったん帰ってからまたここに来たとばかり思っていたからだ。
「別に謝る必要はない。あれは八つ当たりのようなものだからな」
「八つ当たり?」
「そなたに教えた名は大切なものだと言ったな」
「うん」
「故にその名を呼んで良いのは『大切な者』だけだ」
「えっ」
「他の者にあの名を呼ばれる事を私は好まぬ」
「ご,ごめん」
「謝る必要はないと言ったであろう。そなたは知らなかったのだから仕方がなかったのだ。それを割り切れずに怒ったのは我が未熟であっただけだ。故に謝罪はいらぬ。むしろ我が謝らねばなるまい。わざわざ会いに来たというのに八つ当たりなどしてしまったうえに一週間もここにいさせる事になってしまって本当にすまなかったな」
「ルナの方こそ謝らないで!ルナが嫌な事を言ったのは俺だし,ここに一週間もいたのも俺が勝手にそうしただけなんだから」
「ふむ,ならばこうしよう。我はそなたの謝罪を受ける。故にそなたも我の謝罪を受けろ。それでお相子だ」
「え,いや,でも」
「おそらくこのまま話しを続けても平行線だ。これで納得しろ」
「あ,うん,分かったよ。それじゃあ,ごめんなさい」
「うむ,我もすまなかった」
「これで仲直りって事でいいのかな?」
「元より直すほどの仲などないがな」
「貴様!」
「カイは黙ってて!やっぱりまだ怒ってるの?」
「怒ってなどおらぬよ」
「それじゃあ,何でそんな酷いこと言うのさ」
「我はそなたがどうしてそこまで我に懐いているのかの方が分からぬ」
「え,だって,ルナには助けてもらったじゃないか。あの時ルナが助けてくれていなかったらどうなっていたか分からないんだよ?」
「ん?ああ,そう言えば怯えると思ってその時は言わなかったが我は一度そなたを見捨てようとした」
「え?」
「な,貴様!」
「住処の前にいきなり子供を抱えて現れた黒いフードの男など明らかに不審者なうえに面倒ごとではないか。そんなものと好んで関わるやつがどこにいるのだ。無視して洞窟に入ろうとしたら攻撃魔法を撃ってきたから追い払ったまでだ。あやつが攻撃しなければ我はそなたを見捨てていた。故に我に感謝しているのならその必要はない。家族も心配している事だろう早く帰ってやれ」
「ライナス様,こんな奴に恩を感じる必要などありません!さぁ,お帰りになりましょう」
カイロスがライナスに声をかけるがライナスは俯いたまま動こうとしない。
「どうした?早く帰れ」
「・・・家族はいないよ。あの時の誘拐は父様が企てたことだったんだ」
「っライ!」
カイロスが始めてライナスを愛称で呼んだ。おそらく咄嗟に呼びなれた呼び方で呼んでしまったのだろう。
「知っている」
「え?」
「気まぐれとは言え助けた者がどうなったのかは気なったからな。魔法を使って調べた。そなたは名前も名乗っていったし,貴族だったから調べるのは簡単だった」
ライナスを帰してしばらくしてからどうなったのかを調べるために子犬サイズになって姿を消しながら街に行った。強制転移を使っていたから,どこに行けばいいかはだいたい分かっていた。
名前にフォンがつくのは貴族だけだから貴族関連で調べていけば簡単に分かった。