6匹目
「何しに来た人の子よ」
「ライナス。名前で呼んでくれるって約束だったろ?」
淡々とした声で話しかけたのにも関わらず嬉しそうに笑いながらそう言ってきた。
「・・・何しに来たライナス」
「あ,やっぱりライって呼んで欲しいな。親しい人は皆そう呼ぶから」
どうしてあの状況でここまで懐かれたのだろうか?ああ,そう言えば,ライナスは私が神獣と知っているしそのせいか?
「名前で呼ぶ約束はしたが愛称で呼ぶ約束などしていない。そもそもそなたと親しくなった覚えもない」
「怒ってる?もしかして俺が会いに来るのが遅かったから?」
「別に怒っているわけではない。ただ事実を言ったまでだ」
「嘘,絶対怒ってるよ」
「怒っていない。もし,怒っているとしたらそれはそなたが会いに来たからだ」
「何で会いに来て怒るの?会いに来て良いって言ってたじゃないか」
正直もう会いたくなかったんだよ。まさか本当に会いに来るなんて思わなかったから約束したんだ。なんて言えないけど。
「はぁ。それより何しに来た」
「だから会いに来たんだよ。約束通り名前を教えてくれるよね」
「・・・ユエ,ユエ・クロード」
約束は守らなきゃね。
「名字もあるの?やっぱりユエは特別なんだね!」
「・・・」
「ユエ?」
「気安く我が名前を呼ぶな。教えてやるとは言ったが呼んで良いとは言っていない」
「え,あ,ごめん」
「用がすんだのならさっさと帰れ」
「え,あの,俺何か気に障ること言った?」
「・・・・・・・・・前にも言ったはずだ。我は神獣として人間と深く関わる気はないと」
私はそれだけ言うと洞窟の中に入っていった。後ろでライナスが何か言っていたが聞こえないようにそして入ってもこれないように洞窟の入り口に結界を張った。
洞窟の奥に辿り着くと私は横になり目を閉じた。
ライナスが悪いわけじゃない。会いに来て良いと言ったのは私自身だ。でも,私の名前をみんな意外に呼んでほしくない。
「でも八つ当たりするなんて,前世を合わせたらもう30歳になるっていうのに私もまだまだ駄目だなぁ。はぁ,会いたいよ,nonno・・・」
私は少し泣きそうになり,慌てて目を閉じて深く深く眠った。夢の中だけでも皆に,お爺様に会えるように願いながら。
nonnoはイタリア語で祖父を表す言葉です。
アルジェントの言葉ではなくイタリア語になってる理由は後から書くつもりです。
言葉として発する時だけイタリア語になります。