4匹目
「ん?子供?ああ,昨日助けたんだった」
今日も朝日が昇り始めたぐらいに目を覚ました私は一緒に寝ていた少年を見て,昨日の事を思い出した。
「起こさないと帰してあげられないんだけど,気持ちよさそうに寝てるから起こすのもかわいそうだよなぁ。でも,早く帰した方が良いだろうしな」
私が悩んでいたら声に反応したのか少年がもぞもぞと動き出した。
「ふぁー,あれ?ここどこー?」
「目が覚めたか人の子よ」
「ふえ!だ,誰?」
目を覚まし周りをキョロキョロと見渡す少年に声をかけると驚かしてしまったみたいで体をギュッと縮めて固まった。
「怯えずともよい。もう少し視線を上に上げてみろ」
「う,上?うわあぁぁぁぁ」
少年は視線を上げて私の顔を見た途端悲鳴をあげて私から慌てて離れた。
「怯えずともよいと言ったであろう。我はそなたを害する気はない」
「え,え?」
「ああ,この言い方では分かりにくいか。心配するな。酷い事はなにもしない」
「ほ,本当?」
「ああ,本当だ」
「ぼ,僕を食べたりしない」
「しない」
「ち,近づいても怒らない?」
「ああ,怒らない」
言い方が難しかったのか困惑していた少年にもう少し砕けた言い方で話すとおどおどしながら私に質問してきた。その問いに全部答えると安心したのかゆっくりとこちらに近づいてきた。
「えっと,何で僕こんなところにいるの?皆は?」
「そなたは黒いローブの男がここに連れて来た。皆とは家の者の事を言っているのなら我には分からぬ」
少年の質問に答えてあげると少年は顔を真っ青にして慌てたように私に詰め寄ってきた。
「つ,連れてこられたって僕誘拐されたの?ど,どうしよう」
「案ずるな。その男は追い払ってやった。そなたも我が元の場所に帰してやろう」
「本当?僕帰れるの?」
「ああ」
心配しいている少年に帰してやると伝えると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「さぁ,目を閉じてそなたの部屋を強くイメージしてみろ。次に目を開けた時にはそなたの部屋にいるはずだ」
「分かった。あ,ねぇ,あなたは誰なの?」
「ん?我か?我は神獣フェンリル」
「神獣!?神獣ってあの神獣?」
「あのとは何を指しているのかは分からんがおそらくその神獣であっているだろう」
「でもでも,神獣って三種類しかいないって習ったよ」
「いや,神獣は四種類存在する。しかし,フェンリルはめったに存在していない。もし,存在していても1匹しか存在する事は出来ないのだ。故にほとんどの人間は我の事を知らぬのだよ」
「じゃあ,本当に神獣なの?」
「ああ」
「うわー,凄い。僕ユニコーン以外の神獣に初めて会ったよ!」
「ほぉ,ユニコーンに会ったことがあるのか」
「うん!教会の本部にはユニコーンがいてね,お父様が連れて行ってくれたんだ」
「そうか。さぁ,早く帰らねばそのお父様が心配しているぞ」
「あ,そうだ早く帰らなきゃ」
「ああ,そうだ,帰る前に一つ約束をしてもらう」
「約束?」
「ああ,そなたを助けたのは我ではなく人間の魔法使いだと伝えるように」
「どうして?」
「我の力は強すぎるのだ」
「強いとだめなの?」
「我が神獣として人間と関わればいらぬ争いを生みかねんのだ」
「よく分からない」
「ふっ。大人になればいずれ分かる時が来るだろう。兎に角約束できるか?」
「・・・分かった」
「いい子だ」
「でも,その代わりにまた会いにきちゃ駄目かな?」
「また?」
「うん。駄目?」
正直,貴族の息子っぽいこの少年とこれ以上関わると面倒なことになりそうな気がするんだよね。この子が何もしなくてもここに通えばどれだけ隠してもいずればれるだろうしなぁ。ああ,でも,こんな子犬みたいな目で見つめられると断りずらいなぁ。でもなぁ・・・。
「・・・はぁ,よかろう」
「やったー!」
「ただし自分の力だけで会いに来れるならだ」
「自分の力だけで?」
「ああ。誰かに助けてもらったら我はそなたと決して会わぬ。この森は少ないが魔物もいる。それでも己の力のみでここまでたどり着けたらそなたとまた会おう」
「分かった。僕頑張る!」
「それじゃあ,そろそろ本当に帰すから目を閉じろ」
「うん。あ,そうだ僕の名前はライナス・フォン・レドニアスだよ」
「そなたの名はまたここに来ることが出来れば呼ぶとしよう。その時に我の名も教えてやろう」
「えー」
「また来るのだろう?ならば構わぬではないか」
「うー,分かった」
「さぁ,部屋を強くイメージするのだ」
「うん」
「それではさらばだ人の子よ」
少年が転移(これも強制転移だ)の光に包まれて消えていくのを見ながら私はそう声をかけた。またとは言わなかったのはわざとだ。今の少年ではどうやってもここまでたどり着くことはできない。ここにいる魔物(魔物は名前のままの生き物で魔に落ちた獣で力も強く人を襲うものだ)は数は少ないが力が強いやつが多い。少年がここにたどり着けるほど強くなるころには私への興味も薄れているだろう。それにそもそも少年はここがどこの森なのかを知らない。だからきっと少年はもうここに来ることはない。咄嗟に考えたわりには自分でも良い考えだと思う。
「さて,これで面倒ごとに巻き込まれる事もないし今日も魔法の練習をしに行こうっと」
これが波乱の幕開けだったと私が知るのは暫く後の事だった・・・。
5,6歳の子供の話し方って良く分からない・・・。