1匹目
「ん、ふぁー、よく寝たー。あれ、ここどこ?私さっきまで病院にいたはずなのに」
目が覚めると私は洞窟の中にいた。入り口からの差し込む光が届くところは明るいが全体的には暗い。
「ん?視点が高い?いや、それより何だか体が軽い。いったいどうなってええぇぇぇぇぇ!」
体の異変に気付き見てみると目の前に自分の手があった。いや、自分の手と思われるものがあった。何故言いなおしたのか。それは簡単な事で手全体が毛で覆われていたのだ。しかも銀色の毛だ。
「え、何これ?手って言うか前足?前足ってこんなに大きいものなの?いやいやそれより何で私の手が獣みたいになってるわけ?あ、でも私はフェンリルなんだから当たり前か。って、あれ?私は人間のはず」
私は人間のはずなのに何故か自分はフェンリルなのだと思う自分もいる。さっきまで病院にいたはずなのに洞窟にいる事にもここが私の住処なのだから当たり前だと感じる。まったく意味が分からない。
「ん?病院?そう言えばカールに呼ばれていた気がしたなぁ。あれ、もしかして私は死んだとか?え、それで前世の記憶を持ったままフェンリルに転生したとか?いやいやまさかねぁ。でもさっき誰かに新しい命を授けるとか言われた気がするような。罰だとか褒美だとか言われた気もするような。え、え、マジで?」
否定したくても考えれば考えるほど転生したと納得できるような事ばかりが浮かんでくる。さらに自分がフェンリルだと思うのと同じ様に転生しているのだという事も理解している自分がいる。
「・・・寝よう。これはきっと夢だ。次に目が覚めた時にはまた病院のベットの上にいるはず。もし、万が一、いや、億が一現実だったとしても今よりは落ち着いているはず。うん、寝よう」
そうして私は再び眠り始めたのだった。