8匹目
「っ!」
公爵家の執務室に転移するとライナスの叔父がいて,突然現れた私達を見て驚いた顔をしていた。
「あれ?ここは執務室?」
「ライナス・・・。やっと帰ってきたのか」
「あ,ただいま帰りました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いや・・・」
「・・・」
「・・・」
え,これで会話終了なの?うわー,本当に上手くいってないんだなぁ。ボルテールも立場的に口を挟めないでいるみたいだし。はぁ,しょうがないなぁ。
「わん!」
「え?ル,ルナ?」
ライナスは私が犬の様に吼えた事に驚いたようで戸惑いがちに声をかけてきた。だが,叔父はそれ以上に驚いたように私を凝視している。
「わん!」
私はライナスの腕から叔父の前の机の上に飛び移り,それでも高い位置にある叔父の顔を見上げながらもう一度吼えた。
「お前,いつも裏庭で会う子犬か?」
「わん!」
「叔父さん,ルナの事を知っているんですか?」
「ああ。そうか,お前ルナっていうのか。ライナスこの子犬はお前のか?」
「あ,いえ,その・・・」
「世話にはなるがペットになるつもりはないぞ」
「っ!お前,しゃべれたのか」
「クックック。当たり前だ。我はただの子犬ではないからな」
「お前はいったい・・・」
「我は神獣フェンリルだ」
「フェンリルだと!」
「叔父さんは知っているのですか?」
「ああ。フェンリルは巨大な狼で全身を銀色の毛で覆われていて,あらゆる魔法を駆使する事ができ,深い知識を持ち人の言葉を解する神獣の中で最も神に近い生き物だと言われている。だが,存在する事自体が稀らしく詳しくは知られていないがな」
「と言う事だ。これで我が神獣だと信じてもらえるかな?ボルテール?」
「お前がフェンリルだったとしても害がないと決まったわけではない。神獣でも人に危害を加えるものはいるんだからな」
「神獣で人間に危害を加えるものなどグリフォンぐらいしかおらぬよ。ユニコーンは人間に対して友好的だし,ドラゴンはよほどの事がない限り攻撃などしてこない。グリフォンは人間どころか他の神獣ですら下に見ておるプライドの高い生き物なのだ。あれと我を一緒にされては堪らぬよ」
「お前が言う事を信じると思うのか?」
うーん,さっき少しは打ち解けられたかな?って思ったのにまた警戒されまくってるよ。めんどくさいなぁ。
「はぁ,我が危害を加えぬ事はこやつが保障してくれる。そうであろう?ロイノア・フォン・レドニアス?」
「・・・そうだな。カイロス,心配する事はない。ルナは確かに安全だ」
「叔父さんはいつの間にルナと会っていたのですか?」
「それは・・・」
「ふっ。そなたの事を調べるためにこの屋敷のそばに来たら裏庭の隅で落ち込んでいたロイに出会ったのだ」
「「へ?」」
「ルナ!」
「何だ?そなたが言いよどんでいたから我が代わりに答えてやったのだが?」
「裏庭で会ったとだけ言えばいいだろう」
「そなたがライナスと上手くやれていたのなら言う必要もなかったのだがな?」
「うっ」
「はぁ。そなた,この前に会った時に今日こそはライナスとしっかりコミュニケーションをとると言っていたのではなかったのか?何故未だに誤解されたままなのだ」
「・・・お前は話せるようになると可愛げがなくなったな」
「そなたは私が神獣と知っても態度が全く変わらぬな。まぁ,我もそなたの事は友だと思っておるからその方が良いがな。それと話をそらすな」
「・・・・・・・・・ライナスを調べていたとはどういう事だ?」
「だから話しをそらすな」
「ライナスを調べていたとはどういう事だ?」
「はぁ。10年前にライナスを助けたのは我なのだよ。その後どうなったのかが気になり調べていたのだ」
「は?ライナスは魔法使いに助けられたと言っていたぞ」
「我がそう言うように約束させたからな」
「何で,いや,聞くまでもないか・・・」
「で,何故未だに誤解されたままなのだ?」
「・・・」
「あの,ルナ。俺とのコミュニケーションってどういう事?それと誤解って何の事?」
「ロイはそなたを甥っ子としてちゃんと愛しておるのだよ。だが,どうにも不器用でな。上手く伝える事が出来ないだけなのだよ」
「え?叔父さん本当ですか?」
「・・・」
「ロイ」
「・・・本当だ。お前の事は大切な家族だと思っている。でも,昔から商談などは平気なのだが普通のコミュニケーションというものが上手くできなくてな。だから,早くに家を出て騎士団に入ったんだ」
「叔父さん・・・」




